スタッフからのお知らせK会本郷教室
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━【「言語学をのぞいてみよう その42」(元K会英語科講師:野中大輔) 】━
2025年10月10日 更新
━【「言語学をのぞいてみよう その42」(元K会英語科講師:野中大輔) 】━
★このコラムでは、言語学を研究している筆者(元K会英語科講師)が、英語・言語学・外国語学習・比較文化などの話題をお伝えしていきます。★
「上下」「左右」「前後」「内外」のうち仲間外れは?
突然ですが、「上下」「左右」「前後」「内外」という二字熟語のうち、仲間外れはどれでしょうか? といっても、捻りのきいたなぞなぞを出題したいわけではなく、言語学の研究者である私だったら、どんなところに着目するのかをお話ししたいと思います。
まず、「上下」「左右」「前後」「内外」の構成を考えてみましょう。これらはいずれも反対の意味の漢字からなる熟語で、日本語にはこの種の熟語が多数あります(他には「大小」「貧富」「明暗」など)。「上下」「左右」「前後」「内外」はその中でも位置関係、空間関係を表すタイプであり、その点においてはよく似ています。
では、「上下」「左右」「前後」「内外」において、仲間外れがあるとすれば、どれでしょうか。私は日本語・英語の中でも特に動詞の研究を行っているので、ここでも動詞の観点から考えることにします。日本語では、名詞に分類される語に「〜する」を付けて動詞化することがよくあります(例:「料理する」「メールする」)。今回の4つの熟語に「~する」を付けてみると、「上下する」「左右する」「前後する」は自然な表現ですが、「内外する」は日本語としておかしく感じられることでしょう。中に入ったり外に出たりすることを「内外する」という表現で言い表してもよさそうですが、実際にはそのような言い方はしないわけですから、不思議なものです(一方で、「出入りする」という表現はありますね)。
今度は「上下する」「左右する」「前後する」の中で違いを探してみましょう。この3つの表現を使って例文を作ってみると、違いが見えてきます。「上下する」や「前後する」で例文を作るとすると、たとえば「値段が上下する」や「順番が前後する」などが思い浮かぶでしょう。それに対して、「左右する」の例文として自然なのは「この選択が運命を左右する」のような表現です。「上下する」と「前後する」は[Xが~する]の形で用いられるのが普通なのに対して、「左右する」は[XがYを~する]の形で使用されます。つまり、「上下する」「前後する」は自動詞(目的語を伴わない)であるのに対して、「左右する」は他動詞(目的語を伴う)なのです。「左右する」を「左に行ったり右に行ったりする」ことを表す自動詞として使うことがあってもよさそうに思えますが、試しに「風にあおられたボートが左右した」といった表現を作ってみれば、おかしいな、そんな言い方はしないなと感じられるでしょう。しかし、これは当たり前のことではなく、日本語を外国語として学習する人であれば、そのような表現を不自然だと感じずに使ってしまうかもしれません。なお、「左」と「右」を含む表現で自動詞として使うものとしては「右往左往する」があります(あわてふためくことを表す表現ですが)。
以上の内容をまとめると、「上下」「左右」「前後」「内外」のうち、動詞として使うかどうかという点では「内外」が仲間外れであり、動詞として使える3つのうち、自動詞として使うかどうかの点では、「左右(する)」が仲間外れということになります。同じような構成の表現なのに、こうした文法上の違いが見られるのは興味深いですね。
このような日本語の観察から、外国語学習についての教訓も得られます。まず、学習対象についての教訓です。日本語で「上下」「左右」「前後」「内外」のような表現を適切に使うためには、今回確認したような用法を身につけていなければなりません(そのような用法を身につけていないとおかしな表現を作ってしまう可能性があります)。同じく、外国語の表現を覚える際にも、その用法の範囲を知ることが重要です。たとえば「上下」に近い組み合わせとして、英語にはup and downという表現がありますが、単にupとdownを並べただけの表現だと思って終わらせるのではなく、どのような用法があるのかを意識的に学習することが必要です(up and downは副詞としてgo up and downのように用いられるほか、名詞としてups and downsの形にすると「(物事や気分の)浮き沈み、好不調」を表します)。
次に、「なぜ」という疑問との付き合い方について。おそらく、日本語において「内外する」とは言わない理由、「左右する」を他動詞としてしか使わない理由を考えても、納得のいく答えを見出すのは難しいと思われます。言語には〈たまたまそうなっている〉としか言いようのない側面も多々あります。それを受け入れるのも大事なことです。外国語を学んでいると様々な疑問が湧いてくるかと思いますが、「なぜ」については解消できないこともありますし、解消できなかったとしても必ずしも習得に支障はありません(たとえば、日本語を学習中の人は、「左右する」を他動詞としてしか使われない理由がわからなかったとしても、「この選択が運命を左右する」のような表現を学べるでしょう)。疑問を持つのは興味の表れですから、その気持ちは尊重しつつ、言語の実態を理解し、着実に身につけていく姿勢で外国語学習に向き合うことが大切です。
[補足]
「上下する」と「前後する」は「Xが~する]の形で用いられるのが普通であると述べましたが、「XがYを~する]の例も一部存在します。たとえば、「株価が一定の範囲を上下している」や「セミナーの出席者数が例年50人を前後しているので…」のように、Yに範囲や基準値などを表す名詞が現れる例などがあります。
★このコラムでは、言語学を研究している筆者(元K会英語科講師)が、英語・言語学・外国語学習・比較文化などの話題をお伝えしていきます。★
「上下」「左右」「前後」「内外」のうち仲間外れは?
突然ですが、「上下」「左右」「前後」「内外」という二字熟語のうち、仲間外れはどれでしょうか? といっても、捻りのきいたなぞなぞを出題したいわけではなく、言語学の研究者である私だったら、どんなところに着目するのかをお話ししたいと思います。
まず、「上下」「左右」「前後」「内外」の構成を考えてみましょう。これらはいずれも反対の意味の漢字からなる熟語で、日本語にはこの種の熟語が多数あります(他には「大小」「貧富」「明暗」など)。「上下」「左右」「前後」「内外」はその中でも位置関係、空間関係を表すタイプであり、その点においてはよく似ています。
では、「上下」「左右」「前後」「内外」において、仲間外れがあるとすれば、どれでしょうか。私は日本語・英語の中でも特に動詞の研究を行っているので、ここでも動詞の観点から考えることにします。日本語では、名詞に分類される語に「〜する」を付けて動詞化することがよくあります(例:「料理する」「メールする」)。今回の4つの熟語に「~する」を付けてみると、「上下する」「左右する」「前後する」は自然な表現ですが、「内外する」は日本語としておかしく感じられることでしょう。中に入ったり外に出たりすることを「内外する」という表現で言い表してもよさそうですが、実際にはそのような言い方はしないわけですから、不思議なものです(一方で、「出入りする」という表現はありますね)。
今度は「上下する」「左右する」「前後する」の中で違いを探してみましょう。この3つの表現を使って例文を作ってみると、違いが見えてきます。「上下する」や「前後する」で例文を作るとすると、たとえば「値段が上下する」や「順番が前後する」などが思い浮かぶでしょう。それに対して、「左右する」の例文として自然なのは「この選択が運命を左右する」のような表現です。「上下する」と「前後する」は[Xが~する]の形で用いられるのが普通なのに対して、「左右する」は[XがYを~する]の形で使用されます。つまり、「上下する」「前後する」は自動詞(目的語を伴わない)であるのに対して、「左右する」は他動詞(目的語を伴う)なのです。「左右する」を「左に行ったり右に行ったりする」ことを表す自動詞として使うことがあってもよさそうに思えますが、試しに「風にあおられたボートが左右した」といった表現を作ってみれば、おかしいな、そんな言い方はしないなと感じられるでしょう。しかし、これは当たり前のことではなく、日本語を外国語として学習する人であれば、そのような表現を不自然だと感じずに使ってしまうかもしれません。なお、「左」と「右」を含む表現で自動詞として使うものとしては「右往左往する」があります(あわてふためくことを表す表現ですが)。
以上の内容をまとめると、「上下」「左右」「前後」「内外」のうち、動詞として使うかどうかという点では「内外」が仲間外れであり、動詞として使える3つのうち、自動詞として使うかどうかの点では、「左右(する)」が仲間外れということになります。同じような構成の表現なのに、こうした文法上の違いが見られるのは興味深いですね。
このような日本語の観察から、外国語学習についての教訓も得られます。まず、学習対象についての教訓です。日本語で「上下」「左右」「前後」「内外」のような表現を適切に使うためには、今回確認したような用法を身につけていなければなりません(そのような用法を身につけていないとおかしな表現を作ってしまう可能性があります)。同じく、外国語の表現を覚える際にも、その用法の範囲を知ることが重要です。たとえば「上下」に近い組み合わせとして、英語にはup and downという表現がありますが、単にupとdownを並べただけの表現だと思って終わらせるのではなく、どのような用法があるのかを意識的に学習することが必要です(up and downは副詞としてgo up and downのように用いられるほか、名詞としてups and downsの形にすると「(物事や気分の)浮き沈み、好不調」を表します)。
次に、「なぜ」という疑問との付き合い方について。おそらく、日本語において「内外する」とは言わない理由、「左右する」を他動詞としてしか使わない理由を考えても、納得のいく答えを見出すのは難しいと思われます。言語には〈たまたまそうなっている〉としか言いようのない側面も多々あります。それを受け入れるのも大事なことです。外国語を学んでいると様々な疑問が湧いてくるかと思いますが、「なぜ」については解消できないこともありますし、解消できなかったとしても必ずしも習得に支障はありません(たとえば、日本語を学習中の人は、「左右する」を他動詞としてしか使われない理由がわからなかったとしても、「この選択が運命を左右する」のような表現を学べるでしょう)。疑問を持つのは興味の表れですから、その気持ちは尊重しつつ、言語の実態を理解し、着実に身につけていく姿勢で外国語学習に向き合うことが大切です。
[補足]
「上下する」と「前後する」は「Xが~する]の形で用いられるのが普通であると述べましたが、「XがYを~する]の例も一部存在します。たとえば、「株価が一定の範囲を上下している」や「セミナーの出席者数が例年50人を前後しているので…」のように、Yに範囲や基準値などを表す名詞が現れる例などがあります。
★小学生対象:数学イベントのお知らせ★
2025年10月5日 更新
小学生対象の数学イベントのお知らせです!
『円周率の秘密』
10月25日(土)14:00~16:00
講師:桝澤 海斗
イベント案内はこちらから
3.141592653589793238462643383279 ……
2025年5月「最も正確な円周率の値のギネス世界記録」が樹立されました。
その記録は、なんと小数点以下第300兆桁目まで求めたというものです。
きっと、この記録を人が手で計算したものだと思う方は少ないでしょう。もちろん、これはコンピュータを使って計算された記録です。
しかし、円周率の値を正確に求めようという試みは、古代から多くの人々が挑戦してきました。
現在わかっている最も古い円周率に関する記録は、1936年に発見された粘土板に記されたもので、紀元前2000頃の古代バビロニア時代(縄文時代の終わりごろ)のものです。
日本では江戸時代の数学者、松村茂清が1663年に小数点以下第7桁までを、関孝和が1681年に小数点以下第11桁までを正確に計算したものが古い記録として残っています。
ここで少し考えて見てください。コンピュータのない時代の数学者たちはどのようにして円周率を求めてきたのでしょうか。
この講座では、そんな電卓もコンピュータもない時代にタイムスリップして、当時実際に使われていた円周率を求める計算にチャレンジしていただきます。
自分の手で正確に計算することの、大変さや意外な難しさを通して、数学者の情熱と探究心を少しでも感じて頂けたら、大変嬉しく思います。
算数好きのお子さまはもちろん、保護者のみなさんにも楽しんでいただける内容です。
お子さまと一緒にぜひ気軽にご参加ください!
イベント案内はこちらから
お問合せ
K会事務局 ☎03-3813-4581
受付時間 火~土曜日(13:00-19:00)
※お申し込みはWebから
『円周率の秘密』
10月25日(土)14:00~16:00
講師:桝澤 海斗
イベント案内はこちらから
3.141592653589793238462643383279 ……
2025年5月「最も正確な円周率の値のギネス世界記録」が樹立されました。
その記録は、なんと小数点以下第300兆桁目まで求めたというものです。
きっと、この記録を人が手で計算したものだと思う方は少ないでしょう。もちろん、これはコンピュータを使って計算された記録です。
しかし、円周率の値を正確に求めようという試みは、古代から多くの人々が挑戦してきました。
現在わかっている最も古い円周率に関する記録は、1936年に発見された粘土板に記されたもので、紀元前2000頃の古代バビロニア時代(縄文時代の終わりごろ)のものです。
日本では江戸時代の数学者、松村茂清が1663年に小数点以下第7桁までを、関孝和が1681年に小数点以下第11桁までを正確に計算したものが古い記録として残っています。
ここで少し考えて見てください。コンピュータのない時代の数学者たちはどのようにして円周率を求めてきたのでしょうか。
この講座では、そんな電卓もコンピュータもない時代にタイムスリップして、当時実際に使われていた円周率を求める計算にチャレンジしていただきます。
自分の手で正確に計算することの、大変さや意外な難しさを通して、数学者の情熱と探究心を少しでも感じて頂けたら、大変嬉しく思います。
算数好きのお子さまはもちろん、保護者のみなさんにも楽しんでいただける内容です。
お子さまと一緒にぜひ気軽にご参加ください!
イベント案内はこちらから
お問合せ
K会事務局 ☎03-3813-4581
受付時間 火~土曜日(13:00-19:00)
※お申し込みはWebから



