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倫理 公民 | 高等学校学習指導要領分析

2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告

*2018年7月に公開された「高等学校学習指導要領解説」の分析を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2018年10月)
*2021年3⽉に公表された「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について」を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2021年5⽉)

1.今回の改訂の特徴

【1】育成する資質・能力について

●現行学習指導要領との違い――「資質・能力の三つの柱」に対応して「目標」が設定されている

新学習指導要領で示された「目標」では、その冒頭において、「人間としての在り方生き方についての見方・考え方を働かせ」ることが示されている。これは、「社会的事象等を倫理、哲学、宗教などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え、人間としての在り方生き方についての自覚を深めることに向けて、課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付けること」ということであるとされ、『学習指導要領解説』(以下『解説』)では「人間としての在り方生き方についての見方・考え方を概念や理論などに着目して構成したことから、これまで以上に概念的な枠組みを重視するという性格が明確になった」と説明している。
また、新学習指導要領では「育成を目指す資質・能力」が「三つの柱」として整理されているが、「倫理」において育成すべきとされている「公民としての資質・能力」も、これに対応する形で、以下の3つを示している。
(1)は、「古今東西の幅広い知的蓄積を通して、現代の諸課題を捉え、より深く思索するための手掛かりとなる概念や理論」について理解し、「諸資料から、人間としての在り方生き方に関わる情報を調べまとめる技能」の習得を目指すことをうたっている。これは、「知識及び技能」に関わるねらいを示すものである。このうち、後者の「情報を調べまとめる技能」というのは2つの技能を指しており、第一は「諸資料から情報を人間としての在り方生き方についての見方・考え方を働かせて読み取る技能」であり、第二は「読み取った情報をまとめる技能」とされる。第二については「自己との関わりにおいて課題として吟味することが重要」だと『解説』では指摘されている。
(2)は、「自立した人間として他者と共によりよく生きる自己の生き方についてより深く思索する力や、現代の倫理的課題を解決するために倫理に関する概念や理論」を活用し、論理的に思考する力や説明する力などを育成する旨をうたっている。これは、「思考力、判断力、表現力等」に関わるねらいを示すものである。
(3)は、「人間としての在り方生き方に関わる事象や課題について主体的に追究したり、他者と共によりよく生きる自己を形成しようとしたりする態度」を養うとともに、「多面的・多角的な考察やより深い思索を通して涵養される、現代社会に生きる人間としての在り方生き方」についての自覚を深めることを目標としている。これは、「学びに向かう力、人間性等」に関わるねらいを示すものである。

【2】科目構成と学習内容

●標準単位数――「倫理」は2単位の科目として位置づけられる

2単位であり、従来と変化はない。

●科目の履修――「倫理」は選択履修科目として扱われる

現行学習指導要領においては「公民のうち『現代社会』または『倫理』『政治・経済』のいずれかが必修」となっていたが、新学習指導要領では「公民のうち『公共』は必修」となり、「倫理」は選択履修科目として扱われる。公民科目のうち、「公共」は基礎、「倫理」と「政治・経済」が探究としてそれぞれ位置づけられる。そのため、「内容の取扱い」として、「『公共』で身に付けた選択・判断の手掛かりとなる」考え方や先哲の思想などを活用あるいは基にすることを記している。

●カリキュラム編成について:

基礎科目として必修である「公共」は第1学年もしくは第2学年で履修することが指定されている。「公共」を学んだ後で「倫理」を学習することになるので、必然的に第2学年ないし第3学年に設置されることになる。

●内容の変化――学習順序に変化があるものの、扱う内容は大きくは変わらない。また、「資料の活用」「説明、論述」などが指導内容に新しく明記された

現行学習指導要領の「内容」が「(1) 現代に生きる自己の課題」「(2) 人間としての在り方生き方」「(3) 現代と倫理」という三つの大項目によって構成されていたのに対して、新学習指導要領の「内容」は、「A 現代に生きる自己の課題と人間としての在り方生き方」「B 現代の諸課題と倫理」の二つの大項目から構成されている。これは、現行学習指導要領では、源流思想が(2)、近現代思想が(3)と、別々の大項目に位置づけられており、「人間としての在り方生き方」の学習を近現代の先哲を含めて展開することが難しかったことを踏まえ、両者を統合したとされている。以下に詳述することになるが、一部のテーマにおいて、源流思想と近現代思想とのいわば乗り入れが想定されている。そのため、教科書の記述順序やまとまりがこれまでと一部異なるようになる可能性がある。以下、各項目の特徴的な点を挙げていく。

全体の構成概略

大項目Aは、「(1) 人間としての在り方生き方の自覚」と「(2) 国際社会に生きる日本人としての自覚」という二つの中項目からなっており、各々の中項目について、新学習指導要領の「三つの柱」を踏まえ、「ア 知識及び技能を身に付けること」と「イ 思考力、判断力、表現力等を身に付けること」の二つが指導内容として明記されている。

A(1)で身に付けるべきとされる「知識及び技能」として、以下の5点が掲げられている。
(ア)「個性、感情、認知、発達などに着目して……様々な人間の心の在り方について理解すること」として、たとえば感情や認知といった心理学の考え方に触れながら理解を深めることが挙げられている。これは「個性に対する理解」や「他者とともに生きていくことについての理解」を深めることができるようにするためだとされており、「知識として習得させる指導で終わることのないよう」に工夫することが求められている。
(イ)「幸福、愛、徳などに着目して……人生における宗教や芸術のもつ意義についても理解すること」として、いわゆる源流思想で扱われる思想家や芸術家を取り上げて学習することが挙げられている。ただし、『解説』では、源流思想に加えて、「ルネサンスの人間観、モラリスト……実存主義者」なども取り上げることが記されている。本項冒頭に記した「統合」を意図してのことと思われる。
(ウ)「善、正義、義務などに着目して……様々な倫理観について理解すること」。このうち「様々な倫理観」について理解を深めるべきとされる事柄として、『解説』は「啓蒙思想、社会契約の思想、人格の尊厳に関する思想、人倫の思想、功利主義の思想、社会の発展に関する思想、公共性に関する思想など」を例示している。
(エ)「真理、存在などに着目して……様々な世界観について理解すること」。この項目の学習で着目すべき視点あるいは理解を深めるべきとされる事柄の例示として、『解説』では、「人間の認識や経験、偏見や先入観、言語や論理、有用性や功利性との関係」、「目的論や自然法則、自然科学との関係」、「世界の諸事象を捉える人間の知の在り方に関わる問い」、「古代ギリシアの自然哲学、近代科学の思考法、経験論と合理論、プラグマティズム、現象学、言語哲学、構造主義など」を例示している。ここにあるように、近現代思想の例示が多いものの、古代ギリシアの自然哲学が並んで挙げられており、上記(イ)で触れたのと同様、「統合」を意図してのことと思われる。
(オ)「古今東西の先哲の思想に関する原典の日本語訳などの諸資料から……情報を読み取る技能を身に付けること」。これは「技能」に関する事柄であり、現行学習指導要領には見られなかったものである。『解説』によれば、これは「思索の手掛かりとなる情報を諸資料から読み取る技能」と「読み取った情報を……吟味し、まとめる技能」とされている。そして、「『公共』において身に付けた技能を基盤として」、単に「文章等を正確に読解するという側面に留まること」なく「生徒それぞれが自己の課題と結び付けて思索を深めることができるようにする」ことに留意すべきとされている。

A(1)で身に付けるべきとされる「思考力、判断力、表現力等」は2点が掲げられているが、ともに「多面的・多角的に考察し、表現すること」という同じ結びの文言となっている。これについて『解説』では、「先哲の考え方などを単に知識として学びとるのではな」いという注意を喚起し、「考察した結果をまとめたり、説明したりする活動を取り入れる」という指導上の工夫を求め、「多面的・多角的に考察し……論述したり、説明したりするなど……表現できるようにする」ことを説いている。

A(2)で身に付けるべきとされる「知識及び技能」として、以下の2点が掲げられている。
(ア)「古来の日本人の心情と考え方や日本の先哲の思想に着目して……日本人に見られる人間観、自然観、宗教観などの特質について、自己との関わりにおいて理解すること」として、いわゆる日本思想(芸道を含む)について扱うことになっている。
(イ)「……原典や原典の口語訳などの諸資料から、日本人としての在り方生き方に関わる情報を読み取る技能を身に付けること」。これについて『解説』では、「……特質に関わる情報を読み取る技能」と「読み取った情報を……課題として吟味し、まとめる技能」の二つに分けて考えられるとしている。

大項目Bは、「(1)自然や科学技術に関わる諸課題と倫理」「(2)社会と文化に関わる諸課題と倫理」という二つの中項目を立てているが、『解説』では、そのいずれについても「人間としての在り方生き方についての見方・考え方を働かせ、他者と対話しながら、課題を探究する活動を行うことで、倫理的課題を見いだし、その解決に向けて倫理に関する多様な視点(概念や理論など)を手掛かりとして多面的・多角的に考察し、公正に判断して構想し、自分の考えを説明、論述することができるようにすることをねらいとしている」とされている。
(1)で扱う内容の例示としては、生命科学や医療技術の発達、環境汚染や環境破壊、動物に関わる倫理の問題、人工知能(AI)をはじめとした先端科学技術の利用と人間や社会に対する影響、などが挙げられている。
(2)で扱う内容の例示としては、共生を目指す社会の形成、福祉の問題(ただし、政治や経済の問題としてのみ捉えるのではなく倫理的観点から捉えるという留意点が付されている)、伝統や文化の継承や異なる文化や宗教との共生、平和の問題、などが挙げられている。
なお、このBについては、Aの後に学習することになっており、学習にあたっては、「『公共』及び内容のAで身に付けた」考えを基にすることが、取り扱い上の注意となっている。

●内容の取扱いの変化――配慮事項がより詳細になる一方、扱われる知識の範囲に大きな変化はない

新学習指導要領の「内容」および「内容の取扱い」に登場する“知識項目に関わるキーワード”を見ると、現行学習指導要領において扱われた知識項目と合致する部分が多いことに気づく。時代や社会の変化に合わせて扱う知識項目の内容が変わることはあるだろうが、基本的に扱う知識項目が劇的に変化するとは考えにくい。
以下、新学習指導要領の「内容の取扱い」において見られた特徴や変更点の一部を列挙しておく。

・内容について、大項目「A→B」の順序で取り扱うことが、明記された。
・道徳教育の目標に基づき、指導計画を作成することを規定している。
・配慮事項の数が大幅に増加し、それぞれの記述量も大幅に増えた。
・現行学習指導要領では「先哲の基本的な考え方を取り上げるに当たっては、内容と関連が深く生徒の発達や学習段階に適した代表的な先哲の言説等を精選すること」と記述されていたが、新学習指導要領では「倫理的諸価値に関する古今東西の先哲の思想を取り上げるに当たっては、原典の日本語訳、口語訳なども活用し、内容と関連が深く生徒の発達や学習の段階に適した代表的な先哲の言説などを扱うこと」と記述されている。
・内容のAに関する配慮事項として、「小学校及び中学校で習得した概念などに関する知識などや、『公共』で身に付けた選択・判断の手掛かりとなる考え方を活用し、哲学に関わる対話的な手法などを取り入れた活動を通して、生徒自らが、より深く思索するための概念や理論を理解できる」ように指導することが規定されている。
・内容のBに関する配慮事項として、「小学校及び中学校で習得した概念などに関する知識などを基に、『公共』及びAで身に付けた選択・判断の手掛かりとなる先哲の思想などを基に、人間としての在り方生き方についての見方・考え方を働かせ、現実社会の倫理的諸課題について探究することができる」ように指導することが規定されている。

2.高等学校への影響

●「主体的・対話的で深い学び」の導入――発表や論述、討論などに割く時間は拡大する可能性が大きい

新学習指導要領の「内容」において、大項目Aでは「知識及び技能を身に付けること」と「思考力、判断力、表現力等を身に付けること」の二つを指導することが、大項目Bでは「多面的・多角的に考察し、公正に判断して構想し、自分の考えを説明、論述すること」を指導することが、それぞれうたわれていた。現行学習指導要領と比較してみても、現行学習指導要領では「3内容の取扱い」においては「論述したり討論したりするなどの活動」という文言はあったものの、「2内容」においては「考えを深めさせる」や「とらえさせる」という表現にとどまっていたのに対し、新学習指導要領では「3内容の取扱い」のみならず、「2内容」において明確に「表現すること」や「説明、論述すること」と記されている。こうしたことから、とりわけ大項目Bの学習を中心に、全体の授業時間に占める発表や論述、討論などに割く時間の割合は増加することが予想される。

新学習指導要領において「アクティブ・ラーニングの実施」といった文言が用いられているわけではない。だが、「内容の取扱い」として「哲学に関わる対話的な手法などを取り入れた活動」が例示されていること、『解説』においても「対話や作文などを通して学習を深めたりすること」、「自らの考えに対する疑問や反論を想定し、それらに応答すること」、「先哲を含む他者の考えや自身の考えを、対話を通して吟味すること」、「協働して吟味し、その話し合いの過程を踏まえて」などと記述されていることから、「ペア・ワークによる対話やチーム(グループ)を形成した上での調査・発表など、いわゆる「主体的・対話的で深い学び」の要素を積極的に採り入れることが重視されよう。

●コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の活用――積極的に活用することが求められる

『解説』は、「第3章 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」において、「学校教育の情報化の進展に対応する観点から、情報の収集、処理や発表などに当たっては、学校図書館や地域の公共施設などを活用するとともに、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用することが大切である」(「2 内容の取扱いに当たっての配慮事項」)と説明するとともに、「様々な情報を多様な方法で生徒に提示することにより、生徒自身、課題の追究や解決の見通しをもって、主体的に学習に取り組むことが可能となる」として、情報手段の活用を促している。

●教科横断学習について:

指導上の配慮として「中学校社会科及び特別の教科である道徳、高等学校公民科に属する他の科目、……地理歴史科、家庭科及び情報科並びに特別活動などとの関連を図る」ことが記され、また『解説』では芸術家とその作品を扱う際に「芸術科などとの関連を図」る工夫を例示している。だが、こうした配慮については現行学習指導要領でもすでに明記されている事柄であり、大きな変化をもたらすものではないと思われる。

3.大学入試への影響

●大学入学共通テストに与える影響について――大学入学共通テストの「倫理」、および「公共」のサンプル問題の内容に注意したい

2025(令和7)年度の大学入学共通テストから、公民が関係する出題科目は、『公共,倫理』『公共,政治・経済』『地理総合,歴史総合,公共』の3種類となる。このことにより、『倫理』という出題科目は廃止され、「倫理」の領域については『公共,倫理』という形での出題となる。『公共,倫理』のうち,「公共」の領域からの出題については、大学入試センターが2021年3月に公表した『公共』のサンプル問題に近い出題形式が取り入れられる可能性が高い。一方、「倫理」の領域については、2021年から始まった共通テスト『倫理』における出題傾向の流れを汲み、「主体的・対話的で深い学び」を実践する場面を想定した設問が出題されることが予想される。たとえば、かつてセンター試験で出題されていたようなテーマ形の本文が掲げられた形ではなく、「生徒のノートやメモ、発表原稿」「先生が配布した資料」など学習場面を想定した出題形式を通じて、教科書的な知識事項を問うたり、複数の資料文や図説を多角的に考察させたりするケースが定番化することになるだろう。

●個別入試に与える影響について――影響はほとんどないと予想される

現行の個別入試において「倫理」を試験科目として設ける例は少数であり、出題できる体制が整っているとも考えにくい。新学習指導要領が個別入試に与える影響は、これまでの学習指導要領の改訂とそれに対応する個別入試をふり返ってみても、ほぼないだろう。

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