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国語 高等学校学習指導要領分析

2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告

*2018年7月に公開された「高等学校学習指導要領解説」の分析を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2018年10月)
*2021年3⽉に公表された「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について」を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2021年5⽉)
*2021年度に公開された「高等学校教科書目録」や「教科書編修趣意書」、教科書会社のホームページ等の情報を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2021年12月)

1.今回の改訂の特徴

【1】育成する資質・能力について

「国語」改訂のポイントは〈実社会〉と〈言語文化〉

今回の学習指導要領の改訂は、「共通性の確保」と「多様性への対応」という観点に基づいて、一人一人の生徒の資質・能力を伸ばす学校教育とそれを通してよりよい社会を創るという「社会に開かれた教育課程」の実現を目指すものである。新しい「高等学校学習指導要領解説 国語編」(以下、「解説」)の第1章の冒頭には、次のように記されている。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や技術革新により社会構造や雇用環境が変化し、「予測が困難な時代」となる中で、子供たちが社会で活躍する頃には「我が国は厳しい挑戦の時代を迎えている」。こうした時代において、学校教育には、変化に向き合い、他者と協働して課題を解決することや、様々な情報を的確に処理し、新たな価値につなげていくこと、状況の変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められる。
こうした要請の下で、学習指導要領の「総則」に示されているように、「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指され、そのための授業改善が求められている。この「深い学び」の核となるのが、それぞれの教科の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」を「働かせる」ことである。
国語という教科を通しては、「言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力」を育むことが求められている。「解説」の第3章の1では、「言葉による見方・考え方」を「働かせる」とは、生徒が学習の中で、「言葉で表される話や文章を、意味や働き、使い方などの言葉の様々な側面から総合的に思考・判断し、理解したり表現したりすること、またその理解や表現について、改めて言葉に着目して吟味すること」によって、「言葉への自覚を高めること」だと説明されている。
また、国語が学習の基盤となる資質・能力の一つである「言語能力」の育成の要となる教科と位置づけられている点は、従来と変わらない。ただし、国語は、今回の学習指導要領の改訂において、記載事項も科目構成も大きく変化している。それは、「総則」で謳われた、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力次の「三つの柱」〔(1)知識及び技能の習得 (2)思考力、判断力、表現力等の育成 (3)学びに向かう力、人間性等の涵養〕に基づいて、教科の「目標」や「内容」が再整理され、科目の再編が行われたからである。「解説」の第1章、第1節によれば、この「三つの柱」は、学校教育が長年育成を目指してきた「生きる力」を、予測困難な社会の変化に立ち向かい、人生を切り拓いていく力として捉え直して、次のように具体化したものである。(1)「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」、(2)「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」、(3)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」。
以上の「三つの柱」に基づいて、新学習指導要領の国語における「目標」は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語について、その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
(2)生涯にわたる社会生活における他者とのかかわりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす。
(3)言葉のもつ価値への認識を深めるとともに、言語感覚を磨き、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、生涯にわたり国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。
「目標」には、「生涯にわたる社会生活」((1)・(2))や「他者との関わり」((2))、「我が国の言語文化の担い手としての自覚」((3))といった要素が新たに加えられ、それにともなって、「実社会・実生活に生きて働く国語の能力」を育成する「現代の国語」と、「我が国の言語文化への理解」を深める「言語文化」の二つが、共通必履修科目として設けられている(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」より)。
このように、育成する資質・能力という面における国語科の改訂のポイントは、言語活動を通して他者と関わり、実社会を生きる力を育成する点(〈実社会〉)、そして我が国の言語文化を享受し、その担い手として継承・発展させる態度を育成する点(〈言語文化〉)の二点であろう。これらは現行の学習指導要領にも含まれている点なのだが、今回の改訂においては、後述するように、国語の科目構成や各科目の「目標」や「内容」において色濃く反映されている。
こうした点がクローズアップされた背景には、先述のように、子どもたちの学びを人生や社会に確実に結びつけようとする動きがあると考えられる。また、新設された「前文」に掲げられた教育基本法第1条・第2条に明記された教育の目的や目標を踏まえて、伝統や文化に関する教育や道徳教育の充実をはかる動きが高まっていることも指摘できるだろう。道徳教育を各教科の特質に応じて行うという「総則」の方針に沿えば、国語においてもその影響が表れるのは当然である。国語科における道徳教育については、「解説」の第3章に、「道徳的心情や道徳的判断力を養う」ことや「伝統や文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛することなど」とのつながりだけでなく、「国語で的確に理解したり効果的に表現したりする資質・能力を育成する上で、生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高めることは、学校の教育活動全体で道徳教育を進めていくための基盤となる」ことが記されている。

【2】科目構成と学習内容

【表】科目構成の変遷

国語の科目構成の変遷

専門領域による科目の再編成と「主体的・対話的で深い学び」

国語では科目の再編が行われた。必履修科目は、現行教育課程(以下、現行課程)の「国語総合」が「現代の国語」と「言語文化」に分けられ、選択科目は、現行課程の「国語表現」「現代文A」「現代文B」「古典A」「古典B」が、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」となった。
各科目の構成は、従来の「話すこと・聞くこと」、「書くこと」、「読むこと」と〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の3領域1事項の構成から、言葉の特徴や使い方、情報の扱い方、我が国の言語文化に関する〔知識及び技能〕と、話すこと・聞くこと・書くこと・読むことの〔思考力、判断力、表現力等〕の二つの資質・能力に構成し直されている。また、国語科の指導内容は、系統的・段階的に上の学年につながり、螺旋的・反復的に学習し、資質・能力の定着を図ることを基本とするため、小・中学校を受けて、〔知識及び技能〕の指導事項と〔思考力、判断力、表現力等〕の指導事項と言語活動例において、重点を置くべき指導内容を明確化し、その系統化が図られている(「解説」の第1章、第2節より)。
内容としては、単純に比較することはできないが、現行の「国語総合」の内容が専門領域によって分化さけられ、〈実社会〉に特化した「現代の国語」と〈言語文化〉に特化した「言語文化」として再編されたと捉えることも可能だろう。選択科目においても、現行の「現代文A」「現代文B」が、〈実社会〉に特化した「論理国語」と〈言語文化〉に特化した「文学国語」として再構成され、「国語表現」は、名称は変わらないが、〈実社会〉に対応したものに改められていると言える。なお、古典は、「文学国語」と同様に〈言語文化〉を学ぶ科目として、現行の「古典A」「古典B」が「古典探究」にまとめられたと見られる。
とくに、今回の改訂のポイントである〈実社会〉という点は、国語という教科のあり方に大きな変化をもたらすと考えられる。たとえば、履修科目選択については、大学進学者の多い高等学校では、現行課程で「国語総合」「現代文B」「古典B」(標準単位数12単位)を履修していたのが、新課程でも同じ12単位であるならば「現代の国語」「言語文化」「論理国語」「古典探究」という組み合わせになることが予想される。この場合、現行の「現代文A」「現代文B」が〈実社会〉に特化した「論理国語」と〈言語文化〉に特化した「文学国語」に再編されたため、「論理国語」を選択すると、従来に比べて、論理的な文章のみならず、報道や広報の文章や報告書、企画書、法令文など実用的な文章を教材として扱う機会が増え、小説などの文学作品を扱う機会が減少することになるだろう。もちろん、こうした変化を避けるために、16単位にはなるが「文学国語」を加えることも検討できるだろう。
さらに、〈実社会〉に対応するという観点から「情報の扱い方に関する指導の改善・充実」を図るという方針が立てられ、「現代の国語」と「論理国語」の〔知識及び技能〕において、「情報の扱い方に関する事項」が新設されている点にも注目すべきである。必履修科目である「現代の国語」では、主張と論拠などの「情報と情報との関係」と、推論の仕方や情報の妥当性を吟味する仕方を理解するなどの「情報の整理」とに分けられており、選択科目である「論理国語」では、その二つの系統がそれぞれ複雑化・高度化したものとなっている。こうした情報の扱い方に関する〔知識及び技能〕を指導し、評価するには、従来とは異なる新しい教材や指導方法、試験のあり方を工夫する必要が生じるだろう。
また、今回の改訂では、最初に述べたように、「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指されており、そのための授業改善が求められている。こうした点も、後述のように、各科目の学習内容に変化をもたらしており、今後、高等学校での指導や大学入学試験のあり方に影響を及ぼしていくと考えられる。

〈現代文〉

「現代の国語」
・「言語文化」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成に重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「認識や思考を支える働き」に注目させることが主眼となる。〔知識及び技能〕では、「伝統的な言語文化に関する理解」以外の各事項を、〔思考力、判断力、表現力等〕では全ての力を総合的に育成する。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・教材を取り上げるうえで配慮すべき観点として、「科学的、論理的に物事を捉え考察し、視野を広げるのに役立つこと」が掲げられている。この項目は現行の「国語総合」から継承されたものだが、「言語文化」の側には盛り込まれておらず、「現代の国語」の特徴をよく表している。たとえば、〔知識及び技能〕において、常用漢字を含め、実社会を生きるのに必要な語句を習得することだけでなく、主張と論拠の関係や推論の仕方など、「情報の扱い方」を理解することが目指されている。また、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」や「読むこと」においても、文章を扱うだけでなく、資料の引用や図表の読み取りなどを含むさまざまな言語活動が、従来以上に多岐にわたって挙げられている。これらは今回の改訂による新しい動きと言えるだろう。
・〔思考力、判断力、表現力等〕において、「書くこと」「読むこと」に加えて「話すこと・聞くこと」の項目が設定されている点が「言語文化」と異なっている。この点については、「解説」の第2章、第1節で、「これまで指導が十分でないとされてきた表現力の育成を目指す」と明記されている。ここには「主体的・対話的で深い学び」の実現という観点が導入されたことによる変化が顕著に表れており、たとえば、自分の考えを発表するだけでなく、議論や討論を通して多様な考えを引き出すなど、他者とのやりとりの中で、他者の反応をフィードバックしながら自分の考えを形成することが求められている。

「言語文化」
・「現代の国語」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、上代(万葉集の歌が詠まれた時代)から近現代につながる我が国の〈言語文化〉への理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「文化の継承、発展、創造を支える働き」に注目させることが主眼となる。〔知識及び技能〕では、「伝統的な言語文化に関する理解」を中心としながら、それ以外の各事項も含み、〔思考力、判断力、表現力等〕では全ての力を総合的に育成する。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・教材を取り上げるうえで配慮すべき観点として、「我が国の伝統と文化に対する関心や理解を深め、それらを尊重する態度を育てるのに役立つこと」が掲げられている。この項目は現行の「国語総合」から継承されたものだが、「現代の国語」の側には盛り込まれておらず、「言語文化」の特徴をよく表している。たとえば、〔知識及び技能〕において、「我が国の言語文化に特徴的な」語句や表現の技法の習得が目指されており、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では「伝統行事や風物詩などの文化に関する題材」によって随筆などを書く活動が挙げられ、「読むこと」では「我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆など」を読む活動が挙げられている。また、教材を選ぶ際には、「我が国の言語文化への理解を深める学習に資するよう、我が国の伝統と文化や古典に関連する近代以降の文章を取り上げること」に留意することなどが求められている。
2022年度から使用される教科書は、「高等学校教科書目録」や「教科書編修趣意書」などからは、
・教材数については現行課程「国語総合」とあまり変化はない。
・掲載される作品は、より多様化している。
・「我が国の伝統と文化や古典に関連する近代以降」に成立した文章が、加えられている。
・「言語活動」が増えている。
など、上に記した新学習指導要領を反映させたものとなるようである。

「論理国語」
・選択科目。現行課程の「現代文A」や「現代文B」の枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成、とりわけ「論理的、批判的に考える力」や「創造的に考える力」を養うことに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「言葉そのものを認識したり説明したりすることを可能にする働き」に注目させることが主眼となる。主として〔思考力、判断力、表現力等〕の創造的・論理的思考の側面の力を育成する。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的、批判的に考える力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の教材を選ぶ際の留意点として、「近代以降の論理的な文章及び現代の社会生活に必要とされる実用的な文章とすること」が掲げられているように、実社会との結びつきだけでなく、学術的な学習につながる抽象度の高い内容を含んだ科目として位置づけられている点に、この科目の特徴がある。たとえば、〔知識及び技能〕において、「論証したり学術的な学習の基礎を学んだりするために必要な語句」の習得や、「文章の構成や展開の仕方」を捉えること、さらには「主張とその前提や反証など情報と情報の関係」・「情報を重要度や抽象度などによって階層化して整理する方法」・「推論の仕方」などの「情報の扱い方」を理解することが目指されている。
・「現代の国語」と同様に、この科目には、「主体的・対話的で深い学び」の導入による変化が顕著に表れていると言える。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、「立場の異なる読み手を説得するために、批判的に読まれることを想定」することや、「多面的・多角的な視点から自分の考えを見直」すことなど、他者の考えを受け入れることによって自分の考えを深めていく活動が求められている。また、「読むこと」においても、ただ文章を読むだけではなく、「論理的な文章や実用的な文章を読み、その内容や形式について、批評したり討論したりする」など、自ら表現し、他者と対話することにつながるような活動がさまざまな形で挙げられている。

「文学国語」
・選択科目。現行課程の「現代文A」や「現代文B」の枠組みを維持しつつも、必履修科目である「言語文化」と同様に、我が国の〈言語文化〉に対する理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「想像や心情を豊かにする働き」に注目させることが主眼となる。主として〔思考力、判断力、表現力等〕の感性・情緒の側面の力を育成する。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の教材を選ぶ際の留意点として、「近代以降の文学的な文章とすること」が掲げられている。〔知識及び技能〕においても、「文学的な文章を読むことを通して、我が国の言語文化の特質について理解を深めること」が求められている。
・この科目においても、「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指されている。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、「小説や詩歌などを創作し、批評し合う活動」や「共同で作品制作に取り組む活動」など、他者との対話において自分の考えを広げ深めることが目指されている。また、「読むこと」では、ただ文章を読むだけではなく、作品について「様々な資料を調べ、その成果を発表したり短い論文などにまとめたりする活動」など、知識を相互に関連付けたり、情報を精査したりして自分の考えを形成することが求められている。

「国語表現」
・選択科目。現行課程の「国語表現」の名称や枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成に重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「自己と他者の相互理解を深める働き」に注目させることが主眼となる。主として〔思考力、判断力、表現力等〕の他者とのコミュニケーションの側面の力を育成する。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、実社会における他者との多様な関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「実用的な文章」についての知識の習得や、「実社会の問題」に関わる事柄をめぐる話し合い、「実務的な手紙や電子メール」を書く活動など、実社会における言語活動を想定した内容が従来以上に幅広く盛り込まれている。
・この科目にも、「主体的・対話的で深い学び」の導入による変化が顕著に表れている。たとえば、「相手の反論を想定して論理の展開を考える」や「相手の同意や共感が得られるように表現を工夫する」など、他者との関わりにおいて「自分の思いや考えを広げたり深めたりすること」が目指されている。
・現行の「国語表現」では、「話すこと・聞くこと」と「書くこと」に明確な区別を設けず、生徒の実態に応じていずれかに重点を置いて指導することができるとされていたが、今回の改訂では、両者を区別し、前者に「40~50単位時間程度」、後者に「90~100単位時間程度」と配当すべき授業時数が明記されている。

〈古典〉

「言語文化」
・「現代の国語」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、上代から近現代に受け継がれてきた我が国の言語文化への理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「文化の継承、発展、創造を支える働き」に注目させることが主眼となる。したがって、文語のきまりや訓読のきまりを理解し、古典を「読む(現代語に訳す)」だけでなく、主体的に伝統的な言語文化を理解することが重視されている。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の古典に関する指導は、「40~45単位時間程度を配当する」とし、古文と漢文の割合については、「一方に偏らないようにすること」としている。現行課程の「国語総合」では「読むこと」の指導に75~95単位時間を配当することが想定されており、古典と近代以降の文章の割合はおおむね同等とし、古典における古文と漢文の割合は「一方に偏らない」としていた。よって、必履修科目における古文と漢文を「読むこと」に当てる授業時間数に大きな変化は見られない。なお、教材については、多種多様な古典作品から選定することを求めているが、とりわけ漢文において、日本漢文(上代~近世の日本漢文)、近代以降の文語文(訓読体文語文)や漢詩文などを含めるとしている点が注目される。また、「我が国の伝統と文化や古典に関連する近代以降」に成立した、評論、随筆、古典の翻案小説などを取り上げることも求めている。
・「主体的・対話的で深い学び」によって「我が国の言語文化に対する理解を深める」ことができるよう、現行課程の「国語総合」には見られなかった言語活動例が提示されている。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、〔知識及び技能〕に示された「本歌取りや見立てなどの我が国の言語文化に特徴的な表現の技法とその効果について理解すること」を受けて、「本歌取りや折句などを用いて、感じたことや発見したことを短歌や俳句で表」す活動が挙げられている。また、「読むこと」では、「和歌や俳句などを読み、書き換えたり外国語に訳したりする」ことを話し合いにつなげる活動や、「古典から受け継がれてきた詩歌や芸能の題材、内容、表現の技法などについて調べ」ることを発表や文章化につなげる活動などが挙げられている。

「古典探究」
・選択科目。現行課程の「古典A」や「古典B」の枠組みを維持しつつも、必履修科目である「言語文化」と同様に、我が国の言語文化に対する理解を深めるとともに、古典への興味を高め関心を広げることに重きを置いている点が特徴となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の伝統的な言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、古典などを通した先人のものの見方、感じ方、考え方との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって古典に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・古典作品を主たる教材とする科目であるが、科目の目標の(1)(3)は、「文学国語」とほぼ同じである。「言語文化」と同様に、単なる教養的知識ではなく、古典が現代を生きる生徒の中に生きて働くものとなることを求めている。なお、古文と漢文の割合については、「両方を取り上げるものとし、一方に偏らないようにする」と、両者をバランスよく指導することを求めている。また、教材については、古典作品(近世までに書かれたもの)の中に日本漢文を含めるとするのは、「言語文化」と同様だが、「古典探究」ではそれに加えて、「論理的に考える力」を伸ばすために、古典における論理的な文章(古文の歌論や俳論、漢文の思想など)を取り上げることも明示している。
・現行学習指導要領にも記されていたことではあるが、知識を獲得するだけでなく、獲得した知識を基に自身の考えを深め、それを「論述する」「発表する」「議論する」など、他者に向けて発信したり他者と交流したりする活動がより重視され、「伝え合う力を高める」ことがはかられている。「和歌や俳諧、漢詩を創作したり、体験したことや感じたことを文語で書いたりする」といった創作活動についても詳述されている。
・「古典を読むことを通して、我が国の文化の特質や、我が国の文化と中国など外国の文化との関係について理解を深める」「時間の経過による言葉の変化や、古典が現代の言葉の成り立ちにもたらした影響について理解を深める」といった通時的学習の要求がより強く打ち出されている。

2.高等学校への影響

「1.今回の改訂の特徴【1】育成する資質・能力について」に述べたように、今回の「解説」では、社会構造や雇用環境が大きく変化し予測が困難な時代になる中で、学校教育に対し、変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決すること、様々な情報を見極め、知識を概念的に理解し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することなどを求めている。このような力を育むために、国語科においても生徒一人一人の資質・能力を育むとともに、生涯にわたって探究を深めることが可能になる「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)が提案されている。新学習指導要領では、高等学校における従来の授業は、教材への依存度が高く、主体的な言語活動が軽視され、講義調の伝達型に偏る傾向があったとしている。このような点を改善し、子供たちが文章の内容や表現の仕方を評価し目的に応じて適切に活用すること、多様なメディアから読み取ったことを踏まえて自分の考えを根拠に基づいて的確に表現すること、語彙の構造や特徴を理解すること、古典に対する学習意欲を高めることが課題とされている。教材の読み取りが指導の中心になることが多く、国語による主体的な表現等が重視された授業が十分に行われていないこと、話し合いや論述などの「話すこと・聞くこと」、「書くこと」の領域の学習が十分に行われていないこと、また古典の学習について、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受して社会や自分とのかかわりの中で生かしていくという観点が弱いことといった、長年指摘されてきた課題の解決を図ることが目指されている。
新学習指導要領では、原則として、中学校での学習の接続と発展が重視された、共通必履修科目の「現代の国語」(2単位)と「言語文化」(2単位)を履修した後に、選択科目である「論理国語」(4単位)、「文学国語」(4単位)、「国語表現」(4単位)、「古典探究」(4単位)を履修することとしているが、「現代の国語」と「言語文化」を2学年にわたって分割履修する場合、2年次目においては、共通必履修科目と選択科目を同時に履修してもよいとしている。

〈現代文〉

◆「実社会」で必要な国語
共通必履修科目として新設された「現代の国語」では、「実社会における国語による諸活動に必要な資質・能力の育成」に主眼が置かれている。現代の社会生活に必要とされる「論理的な文章及び実用的な文章」を読む力や、異なる形式で書かれた複数の文章及び図表などに含まれている情報を相互に関連付けながら解釈したり評価したり考えを深めたりする力、自分の考えまたは報告、連絡、案内などのために話したり聞いたり質問したりする力、実用的な文章を書いたり、調べたことを整理して報告書や説明資料などにまとめたりする力などを育むことが従来に増して求められている。教材については、これまで読み継がれてきた文化的な価値の高い文章ではなく、現代の社会生活に関するテーマを取り上げていたり、現代の社会生活に必要な論理の展開が工夫されていたりするものとすることが示され、「実用的な文章」の例として、新聞や広報誌などの報道や広報の文章、案内、紹介、連絡、依頼などの文章や手紙、会議や裁判などの記録、報告書、説明書、企画書、提案書などの実務的な文章、法令文、キャッチフレーズ、宣伝の文章、インターネット上の様々な文章や電子メールなどが挙げられている。実用的な文章には図表や写真などを伴うものが多いことを踏まえ、これらを教材として適宜取り上げることも求めている。論理的な文章も実用的な文章も、事実に基づき虚構性を排したノンフィクション(非文学)の文章であり、これまであまり重視されてこなかった、これらの教材に取り組み、文章を単独で読解するだけでなく、複数の文章や図表などを相互に関連付けて情報を精査し読み解き、考えたり推論したり発表したりできるように指導することが必要となる。「実社会」で必要な国語という観点は、選択科目の「論理国語」や「国語表現」にも取り入れられている。たとえば「論理国語」の「読むこと」においては、「近代以降の論理的な文章」と「現代の社会生活に必要とされる実用的な文章」を教材とし、情報を適切に扱う、必要に応じて関連資料を参照し資料を読み解く、といった従来よりも多様な言語活動を指導することが求められる。「国語表現」では、「話すこと・聞くこと」において、「実社会の問題や自分に関わる事柄」の中から話題を決め、「他者との多様な交流」を想定して情報を収集、整理する活動をする、「書くこと」において、社会的な話題を題材にする、文章と図表や画像などを関連付けながら企画書や報告書を作成する、実務的な手紙やメールを書く、といった、従来以上に実社会を意識した言語活動を指導することが求められる。

◆「表現力」の育成
また、「現代の国語」の〔思考力、判断力、表現力等〕においては、これまで指導が十分でないとされてきた「表現力」の育成を目指すため、「話すこと・聞くこと」に関する指導に20~30単位時間程度(話題について検討したり資料をまとめたりする時間も含む)を配当するものとし、従来よりも配当時間を増やしている。「書くこと」に関する指導には30~40単位時間程度(題材を選んだり、参考文献や資料を読んだり、情報を整理したりする時間を含む)、「読むこと」に関する指導には10~20単位時間程度(読んで形成された考えについて話したり聞いたり書いたりする時間も含む)を配当しており、従来の読み取り中心の授業の改善が図られている。こうした観点に立ち、話し言葉と書き言葉とを適切に使い分けながら、自分の考えや目的に応じて調べた内容を話したり聞いたり書き表したりすることを今まで以上に指導する必要があるだろう。また、書かれたものや発表されたものを読んだり聞いたりした生徒が、批評したり議論したりする活動を取り入れていくことも予想される。ただし、こうした活動を「評価」することは難しい面もある。「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)」(国立教育政策研究所)などを参照しながら、模索していくことになるだろう。

◆「我が国の言語文化」への理解
もう一つの必履修科目として新設された「言語文化」では、急速なグローバル化が進展するこれからの社会においては、異なる国や文化に属する人々との関わりが日常的になっているという認識のもと、国際社会に対する理解を深めるとともに、自らのアイデンティティを見極め、「我が国の言語文化の担い手」となる力を育むことが重視されており、上代から近現代に受け継がれてきた我が国の言語文化への理解を深めることを主眼としている。言葉には、文化の継承、発展、創造を支える働きがあることを理解すること、我が国の言語文化に特徴的な語句の量を増し、それらの文化背景について理解を深め、文章の中で使うことなどの指導が必要とされている。たとえば、我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆などを読み、我が国の言語文化について論述したり発表したりする活動、異なる時代に成立した随筆や小説、物語などを読み比べ、それらを比較して論じたり批評したりする活動などが求められている。また、「我が国の文化と外国の文化との関係」を理解したり、和歌や俳句などを「外国語に訳したりする」ことも取り上げられており、他教科との関連を積極的に図るという新学習指導要領の意図が反映された授業を試みる動きも出てくるかもしれない。

◆「情報」の活用や「教科等横断的な学習」の充実など
ただし、現行課程の「国語総合」に組み込まれていた、小説などの文学的文章を読んで人物や心情などを理解することは、主に選択科目である「文学国語」に委ねられているようにも考えられる。そうすると前述のように、「文学国語」を選択しない場合は、文学的文章の学習時間が従来よりも少なくなる可能性がある。
その他としては、様々な観点から情報を収集、整理するために、コンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設けること、生徒が互いに検討の過程を共有できるよう、ICTなどを始めとする情報の可視化に役立つ資材を活用すること、学校図書館などを活用して生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善をすることなどもあげられており、こうした点でも、従来よりも多面的な言語活動を展開していくことになるだろう。
今回の改訂は大きな変化を含むものであり、また学校全体で、教科等横断的な学習の充実や、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うことができるように、カリキュラム・マネジメントをすることも推奨されている。しかし、すべてを一気に変えることには無理があるうえ、高校現場では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を始めとする入試に向けた対策も一定程度なされるだろう。そうした入試改革への対策を念頭に置きつつ、徐々に授業の改善に取り組んでいけばよいのではないか。

〈古典〉

「古典探究」の〔思考力、判断力、表現力等〕の「読むこと」には、「古典の作品や文章について、内容や解釈を自分の知見と結び付け、考えを広げたり深めたりすること」、「関心をもった事柄に関連する様々な古典の作品や文章などを基に、自分のものの見方、感じ方、考え方を深めること」、「古典の作品や文章を多面的・多角的な視点から評価することを通して、我が国の言語文化について自分の考えを広げたり深めたりすること」など、「主体的・対話的で深い学び」をふまえたと思われる記述が見える。古典の学習では、文語文法や訓読法に習熟し、文の成分の順序や照応について理解を深め、一文一文を正しく理解することが基本となるのはもちろんであるが、文章を現代語訳することで完結してしまうのではなく、文章の構成や展開の仕方についても理解を深め、描かれている事柄や内容を手がかりにして、生徒が自身の興味・関心に応じて学習の幅を広げ、考えを深める活動が求められている。

また、「各科目にわたる指導計画の作成と内容の取り扱い」には、「生徒がコンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設けるなどして、指導の効果を高めるよう工夫すること」とある。古典の学習においても、文法や語彙の習得にコンピュータを活用してドリル問題などに取り組み、学習成果をデータとして蓄積することで、学習の進捗状況を的確に把握できるようにしたり、古典常識に関する知識を、情報通信ネットワークを活用して授業中に調べることで、音声や画像の情報を、クラス内で共有したりすることもできるだろう。教科書会社のホームページによると2022年度から使用される教科書でも、二次元コードを付け、各教科書会社のホームページ等にアクセスできるようにし、そこから資料映像などを見ることができるような工夫がなされるようである。なお、この二次元コードによる資料提供は、小学校・中学校の新しい教科書でも活用されている。

選択科目については、大学進学者の多い高等学校では、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」(各4単位)のうちから2科目を履修するのが一般的だろう。現行課程の共通テストが「国語総合」を出題範囲としているものの、実際には「国語総合」の学習だけでは古典で高得点を獲得することが難しい状況がある。もし、「国語総合」と「言語文化」の古典の難度が同程度で、なおかつ現行課程と新課程の共通テストの難度も同程度となった場合は、大学入試を目指す生徒には、「古典探究」の履修が必要かと思われる。総則の「教育課程の編成」において、「多様な各教科・科目を設け生徒が自由に選択履修することのできるように配慮するものとする」とあることから、生徒に主体的な学びを促すためにも、単一のカリキュラムではなく、一人一人の生徒のニーズに応じて選択できるカリキュラムを作成することが必要であろう。

学習評価については、「教育課程の実施と学習評価」に、「生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を、計画的に取り入れるように工夫すること」、「生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること」などとあり、現行学習指導要領に見られた「自己評価」「相互評価」という表現は消えている。「知識及び技能」に関わることがらは、従来の定期考査で評価することができても、「学びに向かう力、人間性等」は筆記試験では評価し切れない。生徒自身が長期的な視点に立って、自身の学習を見通して自身の状況を把握し、修正していくような学習のサイクルを確立することが求められ、評価はそれに効果的に作用するものでなくてはならない。

3.大学入試への影響

〈現代文〉

現段階の入試では、新学習指導要領を意識した大きな変化は認められない。多くの生徒の合否を限られた時間で決定するには、筆記による一斉テストという形式に頼らざるをえない面もあり、そこでは基本的に、文章を客観的に読解する力が求められるだろう。
一方で、筆記試験という形式を取りながら、共通テストの試行調査(プレテスト)(以下、試行調査)においては、既に新学習指導要領の趣旨を踏まえた問題作りがなされている。2017年11月に実施された試行調査の大問一は、実用的な文章(生徒会規約)とそれについての会話文や関連する資料(図表と新聞)から出題された。問題は、会話文を読み、その内容を実用的な文章と関連付けたり、実用的な文章と図表、あるいは図表と新聞という複数の題材を関連付けたりして理解し、情報を整理するとともに、必要に応じて推論により情報を捕捉して答えるもの(記述式)である。新学習指導要領の「現代の国語」で重視されている、実用的な文章、複数の文章や図表などに含まれる情報を関連付けて理解し、考えを深めたり推論したりすること、書くことが反映されたものと言えるだろう。試行調査の大問二は、マーク式で、図表や写真が含まれた説明的な文章から出題された。また、問5は、本文に触れられていない観点を加えて推測して考える問題である。大問三もマーク式で、「幸福な王子」という文学作品のあらすじが書かれ、その作品を踏まえて創られた小説から出題された。両者を関連付けて答える問題も作成されている。このように複数の題材を関連付けて答えるものとしては、2017年度実施のセンター試験第1問もあげられる。従来のセンター試験にはなかった、図が含まれた評論文から出題され、一問だけではあるが、本文とそれについての会話文と図を関連付けて答える問題があった。2020年度実施の共通テストでも複数の文章を関連付けて答える設問が出題されている。また、2024年度以降に実施の共通テストは新学習指導要領の趣旨を踏まえた問題になることが予想される。2021年10月、大学入試センターは、2024年度実施より国語の試験時間を90分とし、「多様な文章を提示し、より思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視した出題を一層工夫していく観点から、問題量を増やす方向で問題作成の方向性や構成等を検討」するという方針を発表した。受験する生徒は、実用文など様々な文章を読み慣れるとともに複数のテクストを関連させて理解する力を養い、必要に応じて推論できるように、学校での取り組みとあわせて、模擬試験なども利用して準備を進めるとよいだろう。
個別入試について、一部、図表を取りあげるなど、新学習指導要領を先取りしていると思われる出題も見られるが、まだ大きな流れにはなっていない。以前から、自分の意見を書かせたり複数の題材を組み合わせて出題したりしている大学、学部もあるが、現行ではその大学、学部の個性を出した入試と言えるものであり、2024年度以降に実施の個別入試で、そうした傾向が全体に広がるかどうかはまだわからない。

〈古典〉

2024年度以降に実施される共通テストの出題範囲は、必履修科目の「現代の国語」と「言語文化」になると公表された。
古文が出題される場合、共通テストの問題作成方針には、「言語活動の過程を重視」「大問ごとに一つの題材で問題を作成するだけでなく、異なる種類や分野の文章など組み合わせた、複数の題材による問題を含めて検討する」と示されていることや、「言語文化」の〔思考力、判断力、表現力等〕の「読むこと」に示された言語活動例に「我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆などを読み、我が国の言語文化について論述したり発表したりする活動」、「異なる時代に成立した随筆や小説、物語などを読み比べ、それらを比較して論じたり批評したりする活動」などの記述があることから、複数の文章(現代文で書かれたものも含む)を組み合わせた出題がなされる可能性が考えられる。
また、2024年度以降に実施される国公立大二次試験・私立大入試では、現在は「古典B」を出題範囲としている大学が多いことから考えて、「古典探究」が出題範囲に加えられる可能性が高い。複数の文章を組み合わせた出題はこれまでも時折見られており、この傾向は今後も継続すると予想される。
漢文についても、大勢は古文の場合と変わりないと思われる。複数の文章を組み合わせた問題の出題傾向が強まる可能性は考えられる。ただし、文章の組合せとしては、「中国漢文と日本漢文」の組合せ、そして「近代以降の文語文(訓読体文語文)や漢詩文」や「現代文で記された文章」などの出題も予想される。「言語文化」「古典探究」の両科目とも教材についての留意点として、「日本漢文を含める」「必要に応じて、近代以降の文語文や漢詩文、古典についての評論文などを用いることができる」と指摘しているからである。しかしながら、出題の中心はやはり「原文の文や句の現代語訳や解釈」、「内容説明や理由説明」、あるいは「要約」などになると推測され、とくに説明問題や要約問題では表現力が問われることになろうが、これらは従来の定番の問題である。したがって、とりたてて特別な対策や新しい学習が要求されるとは、現状では考えにくい。ただ、生徒の側は、現漢融合文や古漢融合文に当たる時のような戸惑いを感じるかもしれない。また、提示される複数の文章に共通する主題や要素を的確に捉えるための演習は必要となろう。
古典の受験対策としては、これまでと同様に、古文や漢文の原文を正しく読解する力を育成することが肝要であり、複数の文章を組み合わせた出題など、出題形式の変化に対応するための対策は、読解力を十分に養成した後に行えば十分である。ただし、国語の入試全体として記述量が増加することは考えられるので、古典の学習においても、自分の考えたことをわかりやすくまとめる練習を日ごろから積んでおくのが望ましいと思われる。

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