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生物基礎・生物 理科 | 高等学校学習指導要領分析

2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告

*2018年7月に公開された「高等学校学習指導要領解説」の分析を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2018年10月)
*2021年3⽉に公表された「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について」を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2021年5⽉)

1.今回の改訂の特徴

【1】育成する資質・能力について

新学習指導要領解説では、『生物基礎』、『生物』ともに、目標の前文に「生物や生物現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、生物や生物現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」と記載されている。目標にもあるように、新学習指導要領では「理科の見方・考え方を働かせ」という表現が随所にみられる。新学習指導要領における「理科の見方・考え方」とは、「自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考える」ことであり、『生物基礎』と『生物』に特徴的な視点として、「生命に関する自然の事物・現象を主として共通性と多様性の視点で捉えること」が挙げられている。
新学習指導要領では、(1)知識及び技能、(2)思考力、判断力、表現力等、(3)学びに向かう力、人間性等、の三つの柱に対応する形で、下記(1)~(3)のように『生物基礎』、『生物』の指導を通して、どのような資質・能力の育成を目指すのかがより明確に示されるようになった。

『生物基礎』
(1)日常生活や社会との関連を図りながら、生物や生物現象について理解するとともに、科学的に探究するために必要な観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2)観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う。
(3)生物や生物現象に主体的に関わり、科学的に探究しようとする態度と、生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度を養う。

『生物』
(1)生物学の基本的な概念や原理・法則の理解を深め、科学的に探究するために必要な観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2)観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う。
(3)生物や生物現象に主体的に関わり、科学的に探究しようとする態度と、生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度を養う。

(1)の知識及び技能を育成するに当たっては、『生物基礎』、『生物』ともに、「生物や生物現象についての観察、実験などを行うことを通して、生物や生物現象に関する基本的な概念(生物学の基本的な概念)や原理・法則の理解を図るとともに、科学的に探究するために必要な観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けさせること」が重要である。それに加えて『生物基礎』では、生物や生物現象が多様であることを踏まえつつも、それらに共通する基本的な概念や原理・法則を理解させることが大切である。また、DNAなど現代生物学の基盤となる内容、ホルモンや免疫など健康に関わる内容、生態系など自然環境の科学的な理解に資する内容の学習を通して、それらの内容が日常生活や社会と関連していることに気付かせること、生徒に身の回りの事物・現象に関心をもたせ、主体的に関わらせる中で、日常生活や社会との関連を図りながら、科学的に探究するために必要な資質・能力を育成することが大切である。
(2)の思考力、判断力、表現力等を育成するに当たっては、『生物基礎』、『生物』ともに、生物や生物現象を対象に、探究の過程を通して、問題を見いだすための観察、情報の収集、仮説の設定、実験の計画、実験による検証、調査、データの分析・解釈、推論などの探究の方法を習得させるとともに、報告書を作成させたり発表させたりして、科学的に探究する力を育てることが重要である。
(3)の学びに向かう力、人間性等を育成するに当たっては、『生物基礎』、『生物』ともに、生物や生物現象に対して主体的に関わり、それらに対する気付きから課題を設定し解決しようとする態度など、科学的に探究しようとする態度を養うとともに、生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度を養うことが大切である。

【2】学習内容

(1)学習内容の変化

今回の改訂では、『生物基礎』、『生物』ともに、現行学習指導要領における学習内容を基本的に踏襲しつつ改善を図っている。

『生物基礎』
(1)生物の特徴、(2)ヒトの体の調節、(3)生物の多様性と生態系の三つの大項目から構成されている。生物としての共通の特徴、ヒトという動物の生理、生物の多様性に注目した生態系など、ミクロレベルからマクロレベルまでの領域を学ぶように、また、人間の活動と環境との関連や健康に対する認識を深めるように構成されている。

新学習指導要領
(1)生物の特徴(2)ヒトの体の調節(3)生物の多様性と生態系
現行学習指導要領
(1)生物と遺伝子(2)生物の体内環境の維持(3)生物の多様性と生態系

現行学習指導要領の(1)生物と遺伝子が、新学習指導要領では(1)生物の特徴となり、(ア)生物の特徴の㋑生物とエネルギーで、「酵素の基質特異性」に触れるようになった。また、現行学習指導要領では、ア 生物の特徴の(イ)細胞とエネルギーで触れられていた「ミトコンドリアと葉緑体の起源」の内容は、『生物』の(1)生物の進化のアの(ア)生命の起源と細胞の進化の「㋐生命の起源と細胞の進化」で扱うようになった。
現行学習指導要領と同様に、新学習指導要領でも(1)生物の特徴のアの(ア)生物の特徴の「㋐生物の共通性と多様性」が『生物基礎』の導入として位置付けられており、生物についての共通性と多様性が『生物基礎』を学習する上で重要な視点であり、この視点を生かして以後の学習を展開していくことが示されている。
現行学習指導要領の(2)生物の体内環境の維持が、新学習指導要領では(2)ヒトの体の調節となり、「体液の成分とその濃度調節」が扱われなくなった。また、(ア)神経系と内分泌系による調節の㋐として「情報の伝達」という項目が入り、「脳死」にも触れるようになった。
(3)生物の多様性と生態系では、(ア)植生と遷移に「植生の遷移をバイオームと関連付けて理解すること。」と記載されているが、現行学習指導要領の「気候とバイオーム」の項目がなくなり、「気温と降水量の違いによって様々なバイオームが成立していることを理解すること。」や「気候とバイオームについては、気温と降水量に対する適応に関連付けて扱うこと。」などの記載がみられなくなった。また、(イ)生態系とその保全で「(ア)生態系と物質循環」の項目がなくなり、「㋐生態系と生物の多様性」という項目が入った。「生態系と物質循環」の内容は、『生物』の(5)生態と環境の(イ)生態系の「㋐生態系の物質生産と物質循環」で触れるようになった。「㋐生態系と生物の多様性」では、「生物の絶滅」や「捕食-被食関係およびそれに起因する間接的な影響」にも触れるようになった。


『生物』
進化の視点を重視する観点から、進化に関する学習内容を導入として位置付けるとともに、生物現象の仕組みや概念相互の関係を扱い、『生物基礎』で学習した生物や生物現象の基本的な概念の理解を深めさせるよう構成されている。具体的には、(1)生物の進化、(2)生命現象と物質、(3)遺伝情報の発現と発生、(4)生物の環境応答、(5)生態と環境の五つの大項目から構成されている。進化や生態など生物界全体を概観する内容、生物や生物現象を分子の変化や働きを踏まえて扱う内容、動物や植物について主に個体レベルで見られる現象やその仕組みなど、ミクロレベルからマクロレベルまで幅広い領域を学ぶように構成されている。

新学習指導要領
(1)生物の進化(2)生命現象と物質(3)遺伝情報の発現と発生(4)生物の環境応答(5)生態と環境
現行学習指導要領
(1)生命現象と物質(2)生殖と発生(3)生物の環境応答(4)生態と環境(5)生物の進化と系統

現行学習指導要領の(1)生命現象と物質のうち、「遺伝情報の発現」の内容は新学習指導要領の(3)遺伝情報の発現と発生へ移行し、それ以外の内容は新学習指導要領の(2)生命現象と物質へ移行した。新学習指導要領の(2)生命現象と物質では、「光合成」に関する内容の取扱いで「光合成細菌と化学合成細菌にも触れること。」という記載がなくなった。また、「窒素同化」に関する項目がなくなり、(5)生態と環境の(イ)生態系の「㋐生態系の物質生産と物質循環」で触れるようになった。
現行学習指導要領の(2)生殖と発生のうち、「遺伝子の連鎖と組換え」、「性染色体」などの内容は新学習指導要領の(1)生物の進化へ移行し、それ以外の内容は新学習指導要領の(3)遺伝情報の発現と発生へ移行した。
現行学習指導要領の(3)生物の環境応答、(4)生態と環境、(5)生物の進化と系統は、それぞれ新学習指導要領の(4)生物の環境応答、(5)生態と環境、(1)生物の進化へ移行した。新学習指導要領の(5)生態と環境では、人間生活の在り方について考えさせ、人間の活動が生態系へどのように影響するかを科学的に考察して適切に判断する態度を養うために、アの(イ)生態系に「㋑生態系と人間生活」が新設された。
なお、冒頭で扱われるようになった(1)生物の進化については、『生物』の導入として位置付けられており、「以後の学習においても、進化の視点を意識させるよう展開すること。」と明示されている点が注目される。


『生物基礎』と『生物』に共通する変化
『生物基礎』と『生物』では、扱う内容の理解を中心に記載していた現行学習指導要領とは異なり、「…の資料に基づいて、…を見いだして理解すること。」、「…に関する観察・実験などを行い、…を見いだして理解すること。」、「…について、観察・実験などを通して探究し、…を見いだして表現すること。」など探究の過程を通して育成する資質・能力を意識した記載が随所にみられる。
2017年9月末に、日本学術会議基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同生物科学分科会から、「高等学校の生物教育における重要用語の選定について」という報告が開示された(2019年7月に改訂)。この報告書には、「現行の高等学校生物の教科書の調査と、インターネットを駆使した頻度分析、そして生物教育用語集の理念を踏襲した作業を行って、最重要語254語、重要語258語、併せて512語を、高等学校の生物教育で学習すべき用語として選定した。今後の高等学校生物教育における用語使用の指針としたい。」と記されている。これを受けて、『生物基礎』と『生物』で扱う用語について、新学習指導要領では、「用語の意味を単純に数多く理解させることに指導の重点を置くのではなく、主要な概念を理解させるための指導において重要となる用語、『生物基礎』では200語程度から250語程度(中学校で学習した用語を含む)、『生物』では500語程度から600語程度(中学校や『生物基礎』で学習した用語を含む)の用語を中心に、その用語に関わる概念を、思考力を発揮しながら理解させるよう指導すること。」という文章が加えられた。

(2)教科書がどのように変わるか

高等学校で学習する内容や分量については、『生物基礎』、『生物』ともに、現行学習指導要領と比べてほとんど変化がみられないが、『生物』では、生物の進化が導入として位置付けられ、これまで教科書の末尾で扱われていた生物の進化に関する内容が教科書の冒頭で扱われるようになったことから、『生物』全体を通しての授業の流れや授業内容を再検討する必要があるだろう。
学習すべき用語数は大幅に減少するが、上述した高等学校の生物教育で学習すべき重要用語の選定に関する報告書には、「重要語リストに選定しなかった用語を教科書で使わないとか、高等学校の生物教育の現場で教えないことを求めるものでは決してない。重要語として教科書中ゴシックで扱われる語を減らそうというのが小委員会としての提案である。」と記されている。したがって、『生物基礎』、『生物』ともに、教科書内のゴシックで示された重要用語の数は大幅に減少するが、教科書全体の記載内容と分量には大きな変化はみられないだろう。たとえば、『生物基礎』の「体内環境の維持の仕組み」では、「チロキシン」も「フィードバック」も重要用語として選定されていないが、『生物基礎』の教科書から「フィードバックによるチロキシン分泌の調節」の内容が削除されることはないだろう。
なお、教科書全体の記載内容と分量に大きな変化はないと思われるが、今回の学習指導要領の変化を受けて、「探究活動」の扱いは大きく拡充されるだろう。

2.高等学校への影響

新学習指導要領解説では、『生物基礎』では、「○○の資料に基づいて、…に気付かせること」、「○○の比較に基づいて、…について理解させること」、「○○の観察解説、実験などを通して探究し、…を見いだして表現させること」などの表現が随所にみられ、『生物』では、「○○の比較に基づいて、△と□との関係について考察させること」、「○○について検討させ、実験の計画を立案させること」、「○○について、観察、実験などを通して探究し、…の特徴を見いだして表現させること。その際、話合い、レポートの作成、発表を適宜行わせること」などの表現が随所にみられる。新学習指導要領では、現行学習指導要領に比べて、より探究の過程を重視した学習の充実が求められているため、観察・実験などに要する時間が増加することが予想される。
主体的・対話的な学びの実現に向けては、教員が計画・立案した観察・実験を行うだけでなく、生徒に見通しをもって課題や仮説を設定させること、観察・実験の計画を立案させることが求められる。なお、課題を設定したり、観察・実験計画を立案したりする際や観察・実験の結果を分析・解釈して仮説の妥当性を検証する際には、他者との意見交換や科学的な根拠に基づいた議論を行う時間を設けることが必要になると思われる。単元や題材など内容や時間のまとまりの中で、学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか、グループなどで対話する場面をどこに設定するか、生徒が考える場面と教員が教える場面とをどのように組み立てるかをあらかじめ計画しておく必要がある。
深い学びの実現に向けては、①「理科の見方・考え方」を働かせながら探究の過程を通して学ぶことにより、理科で育成を目指す資質・能力を獲得するようになっているか、②様々な知識がつながって、より科学的な概念を形成することに向かっているか、③新たに獲得した資質・能力に基づいた「理科の見方・考え方」を、次の学習や日常生活などにおける課題の発見や解決の場面で働かせているかなどの視点に基づく授業改善が求められる。自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成するため、観察、実験の過程での情報の収集・検索、計測・制御、結果の集計・処理などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用することが効果的である。なお、情報通信ネットワークを介して得られた情報は適切なものばかりではないことに留意し、情報の収集・検索を行う場合には、情報源や情報の信頼度について検討を加え、引用の際には引用部分を明確にするよう指導することも必要である。

3.大学入試への影響

『生物基礎』と『生物』で扱われる重要用語の数は大幅に減少するが、扱われる内容と分量はこれまでと大きな違いがみられないので、入試内容が大きく変化することはないと思われる。とはいえ、新学習指導要領では「科学的に探究する力」の育成が強調されており、考察問題や論述問題に変化がみられる可能性がある。
『生物』については、共通テストでも多く出題されているデータの分析や解釈・推論を問うような問題が、新学習指導要領へ移行後も、引き続き多く出題されると考えられる。『生物基礎』についても、思考力や判断力を必要とする問題の割合が高まることが予想される。
これまで、国公立大の二次試験や私大入試では、観察・実験の結果が図や表で示されており、それらのデータを正確に読み取った上で、論理的に考察するタイプの問題が数多く出題されているが、新学習指導要領に移行した後の大学入試では、このタイプの考察問題の出題がより増加する可能性がある。さらに、「生物や生物現象に主体的に関わり、科学的に探究しようとする態度」を問うことを目的として、与えられた仮説を証明するための実験を設定し、結果を推定するタイプの問題の出題が増加することも予想される。

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