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2020.9.1公開

「まさか」のトラブルを能転気さが救う!?

トラブルには大体の「型」があります。落ち着いて「能転気に」他人に相談する、というのもひとつの才能かもしれません。

入試にはトラブルがつきもの

皆さんはこれまで何かのトラブルに見舞われたことはありますか。大なり小なり、多くの方はこれまでの人生で何か一つぐらいはそういう経験をお持ちに違いありません。ただ、平素であれば落ち着いて対応できるトラブルでも、仮にこれが「入試本番」に発生するとなればそう簡単にはいかないことは、想像に固くないでしょう。
私のように医進クラスのチューター(担任)を長くやっていると、その「入試本番」に驚くようなトラブルを経験するものです。多くのベテランチューターたちと話していると、やはり何かしらのトラブルの経験をしてきているようですが、どうもトラブルには大体の「型」があることが分かってきました。そこで、今回はいくつかのトラブルをご紹介してみましょう。

「受験会場」を間違うトラブルは意外とあります。予備校は校舎を大学受験の会場にお貸しすることがよくあるのですが、ある時校舎の窓口で、「○○大学の受験教室はどこでしょうか」と尋ねられたことがありました。「今日はどこかの大学の入試にお貸ししていたかなぁ」と不思議に思って調べてみると、やはりお貸ししている様子がありません。「受験票を見せていただけますか」ということになりましたが、何とわが校舎が会場になっていたのはこの方が一つ前の大学を受けられた時のことで、今回受験する大学は別の会場だったのです。
模試を受ける時のような感覚で大して確認せずに、「同じ会場」だと思い込んで来られたのでしょう。拝見した受験票には別の会場名と地図がハッキリ印刷されていましたから、本当に思い込んで来られたようです。そんなバカなとお思いでしょうが、人間が間違う時はこういうものなのです。
当然、本人は相当動揺していました。全く初対面の生徒さんでしたが、ここは落ち着かせないといけないと「大丈夫、何とかなるから」と伝え、その一方で、スタッフ総出で調査です。最も効率の良い移動手段で「本当の受験会場」に向かわせなくてはなりません。パソコンで交通経路を調べ、何時の電車に乗ればよいか、乗車料金がいくらか、駅までどうやっていくか、その駅を降りたらどっちにどう歩くと入試会場に到着するかなど、生徒にレクチャーです。それでもどうしても開始時刻ギリギリに到着する計算です。到着したらすぐに入試本部にいって指導をもらいなさいと伝え、スタッフみんなでエールとともに送り出したのでした。

さて、トラブルの中で最も多いのは「忘れ物」でしょう。忘れ物をしたという心の動揺はかなり集中力に影響しますから、「忘れ物」はできるだけない方がいいのでしょうが、してしまったら挽回する方法を考えないといけません。例えば、最も大切な「受験票」を忘れる生徒までいるのです。ただし、そうなったら入試本部に相談して乗り切りましょう。落ち着いて担当の方とやりとりし、何とか受験できた人は少なくありません。
直感的には「忘れ物」のトップはおそらく「時計」です。女性はもともと時計をつける習慣がない人は多いですし、近頃はスマホを時計がわりに使うなんていう人も珍しくありません。予備校では時計のない教室はありませんから、自ずと時計を身に着ける習慣がない人が増えている時代です。そんな中、入試本番だけ時計を持参するように言われてもうっかり忘れてくることはあるでしょう。
入試会場によく応援に行くわれわれですが、「時計を忘れたので貸してください」と言われたスタッフは過去に何人かいます。私の場合、そういう時に貸せるように、当日は安物の時計をすることにしているのです。生徒たちは、「河合塾」のノボリを立てていれば、知った人がいなくとも藁にもすがる思いでやってくるものです。そんな時の心得とでもいうところです。

さて、ある年のセンター試験の初日、案の定「時計を忘れた」という生徒の電話を校舎スタッフが取りました。校舎に電話をもらってもどうしてあげることもできませんが、「コンビニで手配しなさい」くらいのことは伝えたようです。その後電話がかかってくることもなく、うまく手に入ったのだろうと思っておりましたところ、当の本人が二日間の試験を終えて窓口に来ました。そこで、そのスタッフが状況を尋ねてみました。
「いえね、コンビニには時計は売っていなかったんですが、手配はしたんです」
「どういうことだい?」
「いやぁ、コンビニって壁に時計があるじゃないですか。それでね、それを…あのですね…」
歯切れ悪く言いにくそうだったのですが、要はコンビニの壁に掛かっているあの大時計を見て、何と「アレを貸してくれ…」と頼んだらしいのです。店員も困り果てて店長に「どうしますか?」と尋ねたそうですが、店長がなかなか思い切った人で、「貸してやれ」ということになったそうです。
彼は片手に受験用の荷物、片手に大時計を抱えて会場に現れ、テーブルの上に置いて他の受験生を圧倒しながらセンター試験を受験したのでした。大トラブルも、こんな豪傑受験生にとっては小トラブルと言ったところでしょう。ただし、今はこの「技」は使えません。そんなことがあったからか、以降のセンター試験実施要綱の「机の上に出していいもの」の「時計」の横には、注釈として「大型を除く」と書かれています。

地理Aを解いてしまった生徒

ある年のセンター試験のことです。大体この日は校舎スタッフが総出で会場応援に行っています。私は待機番で校舎におりましたところ、受験会場の生徒から電話がかかって来ました。
「山口さん、やってしまいました…。」
開口一番、まだ1科目めしか終わっていないにも関わらず、彼はいきなりこう言うのです。落ち着いて説明させますと、その内容を聞いて私もちょっと驚いてしまいました。彼の「地歴・公民」の選択科目は「地理B」で、これは第一日目の1時間目にスタートする科目です。ところが、彼はスタート時点であまりにも緊張しすぎたために、何と「地歴・公民」の問題ページをめくる際、本来解くべき「地理B」とは別ページにある「地理A」を解いてしまったというのです。
ちなみに彼は2浪目で、これでセンター試験は3回目なのです。しかも、模試の受験を考えれば、同じ形式の模試を少なくとも20回以上練習しているはずなので、本当に考えられないトラブルでした。人間は何かの思い込みがあったり極度の緊張があったりすると、思いもよらないことをしてしまう典型のような出来事でした。
さぁ、大変です…。ところで、このことの何が大変か「正確に」お分かりでしょうか。「地歴・公民」がゼロ点になることが大変…?もしくは偶然に何個か正解しても、結局、医学科の「出願に必要な得点が足りなくなる」ことが大変…なのでしょうか?いえ、そうではありません。ことはもっと重大です。実は、医学科のみならず、大学は「出願に必要なセンター試験の科目」を指定していますから、正確には、彼が日本中の医学科が指定している「出願に必要なセンター試験科目を受験していない状況」になったのではないかということが大変なのです。つまり、彼は開始からわずか60分後の、センター試験の1科目目を終了した段階で、日本中のほとんどの医学科への「受験資格を失った」可能性があったのです。
この生徒はもともと非常に学力の高い人だったので、岡山大学の医学科に出願予定で、今年は合格間違いないだろうと言われていたのですが、少なくともこの電話の段階でそれがもう出来なくなったことははっきりしていました。
「地歴B科目」もしくは「倫理・政経」なら、日本中のすべての医学科への出願資格を満たしますが、「現代社会」や「倫理」のみ「政経」のみの単体科目でセンター試験を受験すれば、国公立大医学科の出願可能大学は全50大学中、半数足らずに減少します。仮に「地歴A」科目ならほとんど対象大学がないということは常識でしたが、「まさかそんな型破れの受験生はいないだろう」と思っていましたので、さすがの私でも正確に何大学あるかカウントすらしたことがありませんでした。
ところが、ここに来て慌てて調べるしかなくなったのです。正確にどの大学なら出願可能か、それをこの生徒の成績で合格に導くことができるかは、運命の分かれ道です。しかもそれを次の科目の受験開始までの間に調査しなくてはなりません。何しろ、出願しても合格できる可能性がなければ、彼は2時間目以降を受験せずに帰った方がマシだと言いかねないからです。
「ちょっと待ってろ。折り返し電話するからな…。」
私は一旦電話を置いてすぐに調べ始めました。その結果、「地歴A」科目で出願できる大学名が正確に判明しましたので、彼にそれを伝えるために早速電話しました。
「落ち着け、地理Aを解いても出願できる医学科はあるぞ…。」
私はこのセリフに続いて、それが6大学(当時)あることやその大学名を伝えようとしたのですが、彼は私の言葉を遮るように、
「あーっ、よかった。出願できる大学があるんですね。じゃあ、残りもがんばって来ます。」
というが早いか、電話を切ってしまったのです。
「何だよ、聞かないのかよ…。」
私は、さっきまで必死に彼のために調べていたことがおかしくなってしまって、彼の能転気さに呆れるやら、笑えるやらで緊張が吹っ飛んでしまいました。考えればそこで細かいことを伝えても、その場ではさほど必要ないかもしれず、彼の行動はある意味正解だったとも言えます。
彼はその後、「あーっ、よかった」の気楽さで残りのセンター試験二日間を乗り切り、何と合計得点率94%を叩き出しました。結果的に彼は大阪市立大の医学科に出願し、合格しています。

当たり前のことですが、多くの人はトラブルに遭遇した時に冷静な考えを巡らせて考えることができません。しかし、「落ち着くこと」とそこから考えて行動することや、トラブルを最小限にするために誰かの知恵を借りるなど、「相談相手を作っておく」ことは大切です。コンビニの大時計を抱えて試験会場に行った生徒にしても、「地歴A」科目を解いてしまった生徒にしても、とりあえず一度校舎に電話を入れた間に少しずつ落ち着いて来たに違いありません。二人に共通していたことは、過度に緊張しすぎない能転気さという才能に恵まれたこともあるかもしれません。一休和尚じゃありませんが、「何とかなる」という精神は大切です。
トラブルは誰にでもあります。ならば、それに遭遇した時の心の持ちようが重要です。トラブルだ!さて、深呼吸…落ち着いて…。さぁ、どうするか考えましょう。時に能転気は人生を救うとも言えるようですね。彼らを見習いたいものです。