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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第26回 文学部「日本語のしくみをとらえる―変化に見入る・魅入られる―」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

講演の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第26回 文学部を、2018年6月3日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学文学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約60人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2018年6月3日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

日本語を深く学んでいくと、実は外国語の達人になれる!

宮地 朝子(みやち あさこ)准教授 (人文学研究科)

●第1部:「日本語のしくみをとらえる―変化に見入る・魅入られる―」
 宮地 朝子(みやち あさこ)准教授 (人文学研究科)

「文学部・人文学研究科は、“人間の本質を探る”学問で、言葉や文字をはじめ、あらゆる営みの観察を通じて、人間を学問します。だから、外国語を学びたい、研究したいならば、その前に日本語を勉強することがとても大事です。外国語を研究する場合、それならばあなたの母語の日本語はどうなのですか?と必ず聞かれます。日本語に対する観察や理解を深めていくと、外国語の分析にもいろいろと応用できます。」冒頭に、宮地准教授は、聴衆にあいづちを求めながら、楽しく親しみやすく説明されました。
日本語学は、日本語の不思議を「科学する」学問で、日本語の歴史資料は多くあり、日本語の研究の歴史も長いです。まさに、日本語研究の醍醐味は、材料、課題、方法の豊富さ、蓄積の大きさと言えます。また、話者人口が多いので、日常的に材料に事欠かなく、不思議を味わう魅力にあふれた領域です。方言も多彩で、東日本方言、西日本方言、琉球方言では大きく異なります。また、地理的にみても、歴史的にみても、語用論的にみても、とても多様性があり、日本語の変化に魅入られます。宮地准教授ご自身も、「母語を研究するのは、日々楽しく、人生をエンジョイすることができます」と、日本語に対する熱い想いが、ひしひしと伝わってきました。
さらに、国学の大家で『古事記』研究でも知られる本居宣長は、自分の研究を深めるために、日本語を熱心に研究し古代語と当時の言葉の違いに気づいていたといいます。また当時はすでに、日本語史上の大きな変化の多くが終わった後にあたるそうです。だから、私たちがタイムマシンに乗って江戸時代に行ったら、本居宣長とも会話が成立するだろう、ということでした」

宮地准教授の専門は、日本語の構文構造史について、助詞に関わる文法化現象を通じて研究されています。主に助詞の「しか(・・・ない)」および「しか」と同じ意味機能を持つ方言助詞(シカ類:「ほか」「より」「ばかり」等)の成立過程によって、名詞や格助詞からシカ類特有のさまざまな言語的特徴を持つに至るプロセスを「だけ」との違いも視野に入れながら多角的に研究されています。歴史的・地理的変化をデータとした文法史研究によって、日本語の動態を理論的に意味づけし、その構造を捉えることが重要なテーマです。係助詞、副助詞、格助詞などの不思議な関係と、それが古代語にも現代語にも共通しているということをわかりやすく説明され、日本語ワールドの魅力に思わず引き込まれました。
最後に、同じく日本語学に携わる研究者の言葉として、さきごろ話題になった大阪大学文学部長(当時)・金水 敏先生の卒業式式辞の言葉を紹介しながら、「人文学は、人生の岐路に立ったとき、人間が直面した問題について考え抜くための手がかりを与え、力を養成する学問である」と締めくくって、講演は盛会に終わりました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
 人文学研究科(日本語学) 三宅 俊浩(みやけ としひろ)氏
 人文学研究科(ジェンダー学) 藤井 良樹(ふじい よしき)氏

第2部では、名古屋大学人文学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

人文学研究科(日本語学) 三宅 俊浩 氏

「大学院は多様性に満ちている。」冒頭で三宅さんはご自身の経歴を紹介するとともにお話されました。自身が28歳の学生であること、名古屋市育ちで、大学院前期課程修了後に県内の高校で2年間教師をされたこと、そして昨年大学院に戻ってこられたというご経歴を踏まえた、とても説得力のある言葉でした。
高校教師になりたいという夢があった三宅さんは、お兄さんのすすめで名古屋大学へ進学。日本語学との出会いは「文学部の、日本文学研究室に入ったが、日本語学の授業を受けたらおもしろかった。日本語を科学することに興味をもったので、宮地先生に研究室の変更を願い出た」という経緯でした。その後大学院に進学され、大学院1年時に教員採用試験に合格されましたが“修士留保制度”を利用され、もう1年大学院で学ぶという選択をされたそうです。修士課程修了にあたって、宮地先生などから研究者の道に進むことをすすめられた一方、研究者の道の険しさを知っていた三宅さんは「人生で初めて真剣に悩んだ」結果として、高校教師の道に進まれました。
県立高校で充実した教員生活をおくりながら、宮地先生から修士論文の内容を学会誌に投稿することをすすめられ、忙しい教師生活のかたわら執筆に励んだ結果、見事掲載されることとなります。そのご経験から「論文で勝負する」ことに魅入られ、博士課程に進みたい気持ちが再燃した三宅さんは教員職を去り、現在は大学院の博士課程(2年目)で研究していらっしゃいます。
三宅さんの研究テーマは「日本語の可能表現の歴史的研究」で、「過去あるいは現在使われている日本語を客観的に観察し、なぜその意味なのかを研究する」学問です。具体的内容として「ラ抜き言葉」の研究についてお話しされました。「ラ抜き言葉」にも地域性があることや(愛知県はとても使用頻度が高いそうです)、その歴史も地域によって時差が生じていることなどを紹介していただきました。
最後に会場の学生へ向けて「自分の進路を選ぶときは、積極的な選択をしたほうが良い。人に合わせるのは反対、いろいろな人生があるので自分の生き方をしてほしい。自分もこれまでさまざまな場面で人生の選択をしてきたが、その都度自分が選んだ道が最良の道であるはず」というメッセージを送っていただき、会場は大きな拍手に包まれました。

人文学研究科(ジェンダー学) 藤井 良樹 氏

人文学研究科(ジェンダー学) 藤井 良樹 氏

「高校時代は特にやりたいこともなく、大学は経済学部に進学しました。しかし、学部時代にジェンダーやセクシャリティについて学びたいと思い始め、大学院受験をきっかけに将来について深く考えるようになりました。今は名古屋大学大学院人文学研究科で自分のやりたいことを勉強できています!」という藤井さんの経歴からお話は始まりました。会場にいる多くの学生に対して、したいことが現時点で見つかっていなくても、焦らずいろいろ経験しながら探せば良いですと、温かくも心強いメッセージです。
ジェンダー学を志したきっかけは、男らしい趣味、女らしい職業など、人間の行動をなぜ性別で区別するのか、「男とは?女とは?」という疑問を持ったことだったそうです。ジェンダー学は、簡潔に言えば性に関する学問で、誰にでも関係があります。また、文学、歴史学、経済学、教育学、医学、法学などさまざまな学問分野に関連し、学際的に広く研究しているというご紹介がありました。
続いて、ジェンダー学分野の授業についての説明がありました。選択的夫婦別姓、女性専用車両、土俵問題、カミングアウトとアウティングなど、扱うテーマは多岐に渡ります。ジェンダー学の授業は発表とディスカッションが中心で、理論(二項対立とその脱構築など)を使って議論を深めていくこともあります。問題を問い続けつつ、現実の性的少数者を尊重し、研究をアイデンティティポリティクスの活動につなげるという、研究と実社会のつながりについてもお話しされました。
藤井さんの研究テーマは、「学校・民間団体・メディアをとりまく状況(昔ながらの性的規範、理解不足、誤情報など)の中で、性的少数者はどのようにアイデンティティを形成し、性知識・情報を得るのか」です。実社会に即した研究をするために東京レインボープライドやNLGR+(名古屋レズビアン&ゲイ レボリューション プラス)に調査参加されたことなども写真を使ってご説明くださいました。
最後には、「絶対に、普通は、と思っていることも、意外にそうではないことがあります。固定観念や先入観にとらわれず、柔軟な考えで頑張ってください!」という言葉で締めくくられました。大学院に進んだ先輩の言葉として、ジェンダー学研究者の言葉として、2つの意味でとても大切なメッセージでした。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、宮地准教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

宮地准教授の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に深く切り込んだ内容から、大学・大学院での学びに関することまで、さまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.日本語はおおむねあいまいなのに、助詞・助動詞の縛りが強いことは何が起因しているのでしょうか。歴史的・地理的な影響でしょうか。それとも日本人の脳の器質からでしょうか。
A.地理的に近い中国語や韓国朝鮮語からは、長い歴史の中で主に語彙について相互に影響があることがわかっています。しかし文法という点では、おおむね日本語の独自性を維持しています。言語学では語順に基づく類型としてSVO文型を基盤とする言語とSOV文型を基盤とする言語が2大勢力として知られ、前者には英語や中国語、後者には日本語が含まれます。SVO言語は、助詞・助動詞にあまりバリエーションがないことが特徴で、一方、SOV言語の言語では助詞・助動詞の使い方が多様かつ厳格な傾向があります。日本語の副助詞・助動詞の使い方は、文型に影響されていることが考えられます。

Q.受験生活を続けていくほど、大学で学びたいことがどんどん増えてきました。大学では、他の学問分野も学ぶことができますか?
A.初めにお伝えしたいのは、大学はとても自由だということです。名大文学部でも、日本語のほかにも美術学・考古学などさまざまな分野の授業を取ることができます。また、他学部や他学年の授業を聴講することもできます。最近は、特定の学問分野に偏らないように多様な授業をすすめている大学も増えています。学部や専門を選んでからも、他の分野に自分なりにアプローチできる、それが大学の良いところですね。

Q.国語教員をめざしています。日本語学、日本語教育学、日本文化学などそれぞれの分野から得られるものは何でしょうか。また、大学院に進んでこそ得られるものは何ですか?
A.日本語教師、国語教師では相手によって教え方が異なりますし、学問分野の違いは、教え方(方法論)の違いとして現れます。また、昔の国語教師は文学出身の方ばかりでしたが、今は大学で多様な分野を扱っているため、国語の先生にもさまざまな分野出身の方がいらっしゃいます。そして、学部の4年間で得られることは限られているので、知識を増やすという点で大学院の2年間が大きなプラスになります。自分のやりたいことを習得し、指導のための引き出し(スキル)を高めていくという考え方でいいでしょう。

大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、お二人の専門分野に関することから、大学・大学院での学生生活に関することまで、こちらもさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.高校の演劇部でジェンダーについての演劇を考案中です。当たり前のことが違う世界や、性別のない世界をやろうと思っているのですが、何かアドバイスをいただけないでしょう
か?
A.(藤井さん)多くの人は髪型や服装でおおよそ男女の区別をしようとしますが、それができないとき、恐怖感、不安感のようなものを覚える人も少なくありません。ですので、スカートをはいている男性がいたり、短髪の女性がいるなど、男女を区別する感覚を撹乱させる表現を考えてみてはどうでしょうか。

Q.私は日本語の学科に入って「方言」を学びたいのですが、現場に出向いて調べたり情報収集したりする機会はありますか?
A.(三宅さん)残念ながら宮地先生の研究室にはそういったフィールドワークを得意としている人があまりいません。ただし、国立国語研究所(https://www.ninjal.ac.jp/)という日本語を研究している組織では、若手育成プロジェクトがあり、方言調査を勉強したい学生を募っています。そこに応募してフィールドワークなどに参加することは可能です。実際に私も今年の8月に青森県に行きます。

Q.大学院では“学ぶ”ことと“研究する”ことはどちらが多いですか?
A.(三宅さん)前期課程は大学の学部に近く、授業を受ける機会は多いです。論文の作成もあるので割と忙しい生活でした。後期課程は授業がほとんどなくて、研究することが多いです。

Q.名古屋大学・大学院に入学してよかったことは?
A.(三宅さん)一流の先生ばかりなので、直に話を聞けるのはとても恵まれていると感じています。
A.(藤井さん)東京や大阪が近いなど、地理的に恵まれていると思います。

参加者の感想(一部抜粋)