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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第51回 経済学部 イベントレポート | 体験授業・イベント

「経済学をなぜ学ぶか?経済学をどう学ぶか?」

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2022年10月2日(日)14:00~16:00

会場

名駅校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

名古屋大学と河合塾のタッグで授業

イベント風景

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第51回 経済学部を、2022年10月2日(日)河合塾名駅校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学経済学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

経済学とは「ヒト」、「モノ」、「カネ」のつながりである

柳原 光芳教授

第1部:経済学をなぜ学ぶか?経済学をどう学ぶか?
柳原 光芳(やなぎはら みつよし)教授(経済学研究科 社会経済システム専攻)

柳原先生ははじめに、ご自身の生い立ちから経済学に進むきっかけについて、お話しされました。先生は大阪府の堺市に生まれ育ちました。高校生の頃、日本の景気はよかったものの、その恩恵に与れなかった人たちを目にしたとのことでした。そこで、どうすればだれもが豊かになれるのかと考えられたことがきっかけとなり、「経済成長論」を学ぶため、大学に進学されました。

先生は、「どのようにすれば富は膨らむのか」ということについて研究されてこられました。その中で、30年間経済がほとんど成長していない日本において、どのように国が人々に教育を与えれば経済がうまくいくようになるのか、世の中を動かす人々をどのように作っていけばいいのか、ということを考えられました。経済とはお金の話であると思われがちですが、決してお金だけではありません。経済学とは「ヒト」、「モノ」、「カネ」がどうやって繋がっているかを考え、できる限り無駄がなく、人々の幸せを高めることを考える学問です。先生は、時間の制約やお金の制約などを考えた上で、人を育てることも含めて、どのように資源を配分し、世の中をどうデザインしていくべきかを研究されています。
また、経済学はトレード・オフの学問とも言われています。トレード・オフとは、あることを実現しようとすると別のことを犠牲にしなければならないという二律背反の関係のことです。つまり、人が何かをしたいと思ったら、必ず制約に直面します。経済学で考えるべき問題は、制約のあるところで、その人によってどのようにすれば最善の状況を作り出せるかということです。現在の日本が直面するトレード・オフについて、先生は次のように話されました。「残念ながら日本は非常に厳しい状況にあり、40年後には日本の人口が約8,800万人になり、今より3,000万人少なくなる見込みです。現段階では働いている層が子供や高齢者の方を支えることができていますが、今後はそうはいきません。今現在、国では年金、医療費、介護費に130兆円かかっています。人々が若い間(働いている間)にあらかじめ蓄えているお金が年金や医療保険になりますが、130兆円の内、35兆円は税金で賄っているのが現状です。とはいえ、一方で子供たち、若い方々を育てていくためにも、できるかぎり税金で賄うことが求められます。税収が限られているという制約に直面しているため、経済学者は、ある意味厳しめに判断をしていかなければならない部分があります。」

更に先生は、学生が経済学を学びたいと考えているのであれば、自分が具体的に何をしたいかを考えて欲しいとおっしゃいました。漠然と日本経済の動きが知りたいというのではなく、その動きを知った上で何をすればいいのか、どこからアプローチをすればいいのかを考えて欲しいと述べられました。世の中は複雑すぎて、完全に解明する事は困難ですが、仮説を立てて単純化作業をし、そのために必要となる数学が経済学に導入されています。文系の中の学部でも理系的要素が非常に強く、数学を理解することで一層学問の深さがわかります。
最後に、「大学を受験する際に、各大学の入試科目がどの教科にウエイトを置いているかでどの教科を重要視しているか、また問題の内容は向き不向きもあることを知っておいたほうがよい。」と受験生の心構えも伝えてくださり、講演を締めくくられました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
学部・修士5年一貫教育プログラム 産業組織論、応用計量経済学 西田 鴻志(にしだ こうし)氏
産業経営システム専攻 経営戦略 川合 奈穂子(かわい なおこ)氏

第2部では、名古屋大学大学院経済学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

学部・修士5年一貫教育プログラム 産業組織論、応用計量経済学 西田 鴻志 氏

西田 鴻志 氏

西田さんは学部4年生ではありますが、「学部・修士5年一貫教育プログラム」を利用されており、今年の春から大学院で研究に取り組まれています。このプログラムは本来修士号取得に学部4年、修士2年で計6年かかるところを、5年間で取得できるプログラムです。

西田さんは、産業組織論と計量経済学を専門とされています。産業組織論は経営学の領域とも重なっており、商品の価格付けや広告、研究開発といった企業活動を取り扱います。経営学と異なる点は、各企業の行動が市場に与える影響まで分析し、企業だけでなく消費者等も含めて全体的に・社会的に望ましい行動かを考えることです。計量経済学は、経済データの統計的な分析手法を研究する分野です。経済学を学ぶ中で、経済学者はデータからすぐに見えるものを調べるというより、その背景にある人々の行動原理を分析するということ、また経済学はお金の話に限らないということに気づかれました。教育効果の分析や、ワクチンの配分方法、待機児童問題なども実は経済学を用いて分析をすることができます。直接役に立つこともあれば、経済学の考え方捉え方が思考法として役に立つこともあるそうです。

後半は具体例を交え、経済学者はデータをどう見ているかという話をしてくださいました。野菜市場を例とした価格と取引数量の分析において、経済学者は単純に数量と価格のデータに近似線を引くのではなく、なぜそのデータが出てくるのか、データの裏にあるメカニズムを考えます。価格を縦軸・取引数量を横軸にしたグラフをいくつかの野菜別に見ると、ある野菜では右上がり、別の野菜では右下がりの関係が見えてしまい、なかなか解釈が難しそうです。そこで、どれくらいの価格だとどれほど買いたいか・売りたいか、という消費者と企業の行動を示す需要曲線・供給曲線を考えます。そして、これらの曲線の交点として現実の価格と数量のデータが観察されていると考えることで、経済学は前述のグラフを統一的に説明できます。経済政策を考える際には数量と価格のデータに引いた近似線は本質的ではなく、各経済主体の行動を示す需要曲線・供給曲線の情報が重要であり、これらの曲線を推定するために価格と数量のデータを分析するということでした。

もう1つは、西田さんが現在研究されている公共調達について、外国の公共調達を例にお話をされました。公共調達とは、政府が必要とする財を民間企業から購入したり事業を委託したりすることであり、その取引先企業の選定には主にオークションが用いられます。公共調達はGDP比で大きな割合を占めているため、財政健全化・税金の効率的な活用の観点からこの調達費を削減することが重要とされており、入札データの分析が重要になります。入札データを分析する際には、背後にある各企業の入札戦略を踏まえる必要があり、ここで経済学のオークション理論が役に立ちます。単純なオークションは最も安い金額を入札した人が勝者になる仕組みで、サービスを安く提供できる大手企業が勝利する確率が高いと考えられます。しかし、中小企業と大手企業との間で技術力に大きな差があると、中小企業は入札競争において実質的に勝負にならず大手企業が高い入札額で勝利することが多くなってしまうため、調達費が高くなってしまいます。そこで、事業費用が高くなりがちな中小企業が入札した場合は補助対象とすることで、中小企業は入札額を下げやすくなり、大手企業との入札競争に積極的に取り組むことができます。そのため、競争の効果によって大手企業も積極的に低い入札額を提示するようになり、調達費の低下が期待されるそうです。こういった企業の入札戦略という、データとして見える入札額の背後にある構造を見ることで、調達費削減に有効な入札制度が見えるようになるというお話でした。
どの入札者をどれほど優遇すべきかという定量的な情報を知るには、オークション理論に加えて計量経済学的な分析が必要だそうです。現在は公共調達の分析により即した新たなオークション理論と、オークションデータの統計的・計量経済学的な分析手法の開発を目指し、さらに研究を進展させているとのことです。
このように、経済学を学ぶことには、現実の背後にある人々の意思決定を考慮し、新たな視点からデータを見ることが出来るようになるという利点がある、と締めくくられました。

産業経営システム専攻 経営戦略 川合 奈穂子 氏

川合 奈穂子 氏

川合さんは大学2年次で経営学科を選択し、3年次から「経営戦略論」のゼミに所属。4年次からは卒業研究に取り組まれ、学士号を取得されました。また、「学部・修士5年一貫教育プログラム」を利用して、大学院へ進学し、現在は博士課程で研究を中心とした生活をされています。経営学を選んだ理由は、元々企業の取り組み・工夫について知るのが好きだったことが大きいと話されました。「今振り返ると、小学2年生の時の商店街についての調べ学習や、高校1年生の学校祭での2つの企業の経営戦略を学べる出し物の準備に、熱心に取り組んでいたことが経営学への興味の表われだったかもしれません。進学先の学部を考える時は自身の経験の中から選ぶことを試してみては。」と話されました。


次に大学・大学院の生活について話してくださいました。「経済学部の基礎科目では数学を用い、数式の理論を理解する力が求められます。そのため、公式や解法を暗記するのではなく、その数式の理由を考えてみることが、大学の授業の準備になるかもしれません。全学教育科目では、さまざまな分野の専門の先生が担当される講義を受けます。2年次からは専門科目を学び始め、3年次には少人数制のゼミが始まります。学業以外にも、大学生活は高校の時よりもかなり自由度が上がり、いろいろなことに挑戦できます。」夏休みは2か月程あり、年次が上がるごとに時間に余裕が生まれたため、川合さんはその空き時間を利用して、「学部・修士5年一貫教育プログラム」に参加されていました。修士号を取得しようと考えている方にはおすすめだそうです。また、名古屋大学の魅力として、様々な人が集まっていること、教育プログラムや留学などいろいろな経験ができる機会が設けられていること、図書館の蔵書が豊富で研究の参考になる資料がすぐに手に入ることを挙げられました。
大学院での経営学の研究では、どの企業にも当てはまる普遍的な理論があるのかを検証し、企業の行動と結果の関係を明らかにすることを目指します。主に既に起きた事象の研究をすることになりますが、そこから理論のようなものを発見した場合も、いつの時代のどの企業にも当てはまるかを考える必要があり、それが研究の難しさでもあり、面白さでもあるそうです。研究の起点となる疑問を見つけたら関連情報をしっかり調べ、これまでに分かっていることと、わかっていないことを整理します。その後、自分の疑問や先行研究で分かっていないことを明らかにする方法を考え、実行します。自ら調査を行うことや、既存のデータを活用することもあります。データを分析・考察し、新たなことが見つかった時は論文にまとめます。

最後に、川合さんは企業の新製品開発やイノベーション活動についての研究を紹介されました。この研究テーマにも先行研究はあるものの、今も当てはまるのか、国や産業が違っても当てはまるのか、を研究していく必要があるとのこと。現在は、高齢者用の福祉機器の産業に焦点を当てて研究をされています。昨年には福祉機器を新しく開発した企業にインタビューし、その新製品開発活動の特徴について調査されました。同分野で開発した企業間に共通点や着眼点の違いなどがあり、とても興味深かったそうです。そして研究の楽しさは、今までぼんやりと見えていたものの輪郭が見えてきた時にある、として講演を締め括られました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

懇談会風景

第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。

Q.インターネットや本などでも経済学を学べますが、大学で経済学を学ぶ意義は何ですか?
A.(柳原教授)教育の効果は先生の講義とどういった手段かということが大切です。私はアメリカに行ったときに世界でトップレベルの経済成長理論の先生に会って、5分授業を聞いただけで感動しました。その感動はテレビなどで見ても、伝わることはないのではないかと思います。心を動かされるかは人それぞれ違いますが、直接聞くというというのは大きな力があると思っています。

Q.国債が増えすぎて政府が機能しなくなる可能性はありますか。また国債残高を減らす有効な手段はありますか。
A.(柳原教授)国債が増えすぎると、その国の信用が低下します。その信用がなくなってしまうタイミングは誰もわかりません。その中で、経済学を学ぶことで、ここまでいったら危ないだろうということを自分で考えられることが重要です。そのように考えられるようになるために、大学生の学び方として「先生がこういうことを言っている」ではなく、「先生はこう言っているが、私はこういう事実から、こう考えるべきだと思う」というような勉強の仕方をして欲しいです。そのようなことが繰り返されていくことで、学問の水準が高まります。現状、国債を減らす方法としては増税しかありません。理論上はその方法として消費税が人々にとって望ましいといえます。一方、所得税を上げることは必ずしも望ましいとはいえません。例えば、がんばって働いて多く稼いでいる人から税金をより多く集めるとなると、その人ががんばって稼ぐことが嫌になり、生産が落ちてしまうかもしれません。

Q.学部・修士5年一貫プログラムに参加しようと思ったのはいつからですか?
A.(西田さん)大学に入った時から考えていました。高校までの勉強が肌に合わず、大学は自分の関心を深められる部分が良かったです。経済学や関連分野での修士号・博士号は国際機関での就職の要件になっていたり、経済学の知識を用いた思考によって新たな価値の創出が可能になることを考えると、5年間で通常より短く取得できるプログラムは魅力的だと思います。

Q.経営学は経済学より会社に特化した研究をするということですか?経済学との違いはなんですか。
A.(川合さん)経済学に比べて企業に特化した研究をしているのはその通りです。企業を分析対象として利益を上げるためにはどうするかを扱っているのが特徴と言えます。経済学との違いは、経済学は企業を含んだ経済社会すべてのメカニズムを学び、経営学は企業活動のメカニズムを学ぶと言えます。
(柳原教授)経済学は原理を重視するもの。会計は会社を経営するにあたり有用な直接的な技術として考えています。
(西田さん)経済学の方が抽象的でカバーできる範囲が広く、企業活動以外の問題も含めて扱えます。経済学者が経済学の見方でもって行ったことが全て経済学とも言えます。経済学という学問は、背後にある意思決定の連関の結果として現実を分析するものと捉えています。

参加者の感想(一部抜粋)