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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第40回 法学部 イベントレポート | 体験授業・イベント

「法の目を通して刑事事件を考えてみよう」

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2021年6月27日(日)14:00~16:00

会場

名駅校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

名古屋大学と河合塾のタッグで授業

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第40回 法学部を、2021年6月27日(日)河合塾名駅校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学法学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

社会の見え方が変わる法学

第1部:法の目を通して刑事事件を考えてみよう
宮木 康博(みやき やすひろ)教授(法学研究科)

宮木先生は、法学部にて刑訴訟法(刑事手続に関する法律)の担当をされています。研究テーマは「おとり捜査」と言われているもので、密行的な薬物犯罪、組織犯罪について犯罪の摘発の必要性と国家が犯罪を創り出してしまう弊害との間で、どのようにバランスをとって撲滅のための規制をかけていくかという内容を研究されています。
本講義では、参加者によく知られている身近な案件として実際に起きた交通死亡事故を取り上げられ、「上級国民への忖度ではないか」「無罪を主張する神経を疑う」という世間の批判が起こっていることに対して、本事件を「無罪推定の原則」という法学の観点から考えてみましょうと問いかけられました。「無罪推定の原則」とは、被疑者・被告人は、その罪が立証され、有罪判決が下されるまでは、できるだけ「罪のない人」として扱われなければならないという原則です。まず、被疑者・被告人の有罪率が高いという現実に対して、なぜこの原則が成立しているのかその理由を法制史から読み解いてお話いただきました。ローマ法の時代から中世、フランス革命にわたって権力者による考えから概念が揺らいだこともありますが、「挙証(説明)責任を被告人に負わせることは不合理ではないか」という主張が強まり、1948年の世界人権宣言によって「有罪と立証されるまで自由は保証される」とうたわれるまでに至りました。日本においても、明治以降に当然の原則とされ、市民的自由を守ろうとする近代法の一つの現れとして普遍化していきました。
では、本事件では車が人を轢いて死亡させたという動かない証拠があるのにも関わらず、なぜ無罪推定の原則が働くのでしょうか。まず、刑事手続きの一般的な流れの中での主たる守備範囲は「立証段階」です。挙証責任を負う検察官が合理的な疑いをもつ余地のない程度の高度な立証をもとに「無罪推定の原則」を突破できない限り、有罪判決を言い渡すことはできません(無罪となります)。また、車が暴走して人を轢いたという事実から、一見危険運転致死に該当しそうに見えますが、「罪刑法定主義」という刑法の大原則から、危険運転致死の該当にあてはまる条件がないため「危険運転致死傷罪」ではなく、「過失運転致死傷罪」として起訴されます。日本の公判は当事者主義を採用しており、被告人も自由に主張ができるという大前提があるため「記憶にない」「やっていない」と主張すること自体を否定することに問題があるのではないかと問題提起されました。そして、本事件では「ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けた」という起訴内容を立証できないと無罪になることや「冤罪を回避する」ことを目的に成立しているシステムの為、憤りの感情を持つことは当然であるものの、それだけで被告人の主張自体に批判を向けることには問題があることがわかるでしょうと説明されました。また、本事件で被告人が逮捕されていないことに対しても「無罪推定の原則」が働いており、逮捕という自由等の権利制限自体はペナルティではなく、罪証隠滅や逃亡のおそれといった合理的な理由が認められる場合に許される処分であること、その目的に照らすと今回の事件で被疑者を逮捕することができるのか考えてみて欲しいと投げかけ、「法を通して事件を見てみると社会や世の中のルールの背景やその理由がわかり、社会の見え方が変わってくると思います」とまとめて講演を締めくくられました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
法学研究科 総合法政専攻・政治学 大場 優志(おおば まさし)氏
法学研究科 総合法政専攻・ロシア法 柴田 正義(しばた せいぎ)氏

第2部では、名古屋大学大学院法学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

総合法政専攻・政治学 大場 優志 氏

大場さんは現在、名古屋大学院法学研究科・博士前期課程(修士)2年に在籍しています。筑波大学社会学類政治学主専攻で学ばれ、大学院からは専門分野が近い先生がおられる名古屋大学で学ばれています。専門分野は政治学(政治理論)で、「政治的代表の捉え直し」を研究テーマとされています。
首相や議会のような一般にイメージされている以外の代表のイメージとして、次のような例えを出します。学校の授業で「結婚したいかどうかとその理由」を話し合うとします。「結婚したいけど同性婚が認められていない」という意見は、同性愛者(あるいは両性愛者)の当事者が発言できて初めて現れます。これに対して、今の国会を考えてみましょう。男性や健常者や異性愛者が多いのが現状です。そのような状況で、社会の半分を占める女性や障害者・同性愛者など少数の人たちの意見が果たして反映されているのでしょうか。このようなことを問題としてとらえ、より良いシステムがないか模索されているとのことでした。
大場さん自身は、小中学生の頃にクラスで差別や虐めがあり、解決法を考えた時に関心が人間同士の関係や「社会」に向き、学問分野として「社会科学」を選ばれ、大学で社会学・法学・政治学・経済学を学ばれました。哲学や歴史学も学んだなかで、この状況を変えられるのは政治学だと考えて特に関心を持ち、この問題関心をそのまま突き詰めて研究をしています。
政治学とは何かということについて、「大きな政治」と「小さな政治」という見方を挙げます。「大きな政治」(狭義の政治)の研究対象には、立法・行政・司法や、国家間関係、地方自治など、一般によくイメージされる「政治」が含まれます。でも本当にそれだけが「政治」なのでしょうか?フェミニズム運動の流れをくむフェミニズム政治学では、「小さな政治」(広義の政治)として、もっと日常的な政治(例えば家庭内での役割分担:仕事・家事・育児の配分など)にも焦点が当てられるようになっています。何が「政治」かという定義にはまだまだ論争がありますが、一見して政治とは関係のないように思えることでも「政治」かもしれないという視点は大切になっていくということでした。
その他、大学院や大学院生の生活などの話をされ、皆さんもぜひ自分の好きなこと、楽しめることをみつけて大学生活を送ってほしいこと、皆さんが入学される頃にはコロナ禍が収束していることを願われ、講演を終えられました。

総合法政専攻・ロシア法 柴田 正義 氏

柴田さんは名古屋大学大学院法学研究科総合法政専攻博士後期課程3年に在籍されています。地元愛知県で生まれ育ち、名古屋大学法学部を卒業後は大学院へ進学され、修士課程においてロシアのモスクワ国立大学法学部へ1年間の留学を経験されました。現在は博士課程に在籍しながら日本学術振興会の特別研究員として研究活動を行い、さらに愛知教育大学や金城学院大学で教鞭を執っておられるなど、研究者としてだけではなく、教育者としてもご活躍されています。冒頭で柴田さんは修士課程と博士課程の違いについてお話され、前者が「宝探し」であるならば、後者は「宝磨き」であると仰いました。修士課程で見つけた「宝」の価値を、博士課程でさらに高め、その周辺地を開拓するといった、より高度かつ学際的な研究をめざしているとご説明してくださいました。
柴田さんは、現在の研究領域であるロシア法においては、ロシアにおける憲法や行政法の分野に関心を持たれており、特に司法や信教の自由、政教分離といった分野についての研究を行われています。ロシア法は法学の中では基礎法学として位置づけられ、外国の法制度を学ぶ外国法や、それらを比較することで新たな知見を導き出す比較法のような、法的な理論の形成・発展に向けた学問分野に分類されます。一方で、柴田さんはご自身の興味関心分野である憲法や行政法が分類される実定法学の分野についても併せて研究領域とされています。「常に常識を疑う」ということをモットーに研究活動をされていて、我々は「人権が保障されるのは当たり前」「差別をしてはいけないのは当たり前」などと考えがちですが、それぞれの国においてそれぞれの文化的・歴史的背景があることを踏まえたうえでその当たり前(常識)が本当に普遍的なものなのか、国によってその形態はどのように異なるのか、といったことを思考することを重視していると語られました。さらに、法は歴史・文化・宗教などから影響を受けつつ形成されていくという考え方を、憲法を例にご説明され、日本国憲法とは違い、外国には文章を持たない憲法があったり、国家君主が定めた欽定憲法や、市民が中心となって作り上げた民定憲法と呼ばれるものがあると紹介されました。柴田さんは、日本における法の在り方を研究する中で、日本が採用している法システムを客観的に評価・分析する指標とするため、外国の法について学ぶ必要があるという考えを持たれたそうです。
そして、比較の対象としてロシア法を選び、法と国家の関係や法と宗教の関係について考察を深めているとご説明されました。「宗教法人法」「過激主義活動対策法」「教会財産移転法」といったロシアの法律をいくつか例に挙げながら、立憲主義に根差す新しい価値観と伝統的な古い価値観に寄り戻していこうとする流れが複雑に絡み合っているロシア法の現状についてお話され、ロシアにおいて法と宗教が双方にどう影響を及ぼしているかを知ることで、日本における国家と宗教の関係や、宗教団体および信教の自由に対する法規制の実態に関する考察に繋げたいとお話しくださいました。
最後に、「法が宗教にどう影響を及ぼすか」というアプローチから、「宗教が法に対してどう影響を及ぼすか」という観点からも研究を深めたいと今後の展望について話され、講演を締めくくられました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。

Q.法学部に行きたいことは決まっていますが、どの大学をめざしたら良いか教えてください。
A.(大場さん)自分の学力と大学があっているかとか考えないで良いと思います。偏差値的に無理だろうと思っても高校時代の偏差値や勉強ができるかということは大学でどのくらい勉強ができるかとは全然別の話なので、今の学力ではかることは良くないと思います。
大学はどのような授業をやっているかというシラバスを公開しているので、インターネットで調べて自分の興味があることを探したり、ネットに出ている記事や本をみて興味を持ったら、どの大学の何という先生が書いたか調べてみると良いと思います。

Q.法を学んでよかったことは何ですか?
A.(柴田さん)法律やルールについて見たり聞いたりした時に、そのルールが本来意図することを考えるようになったことです。あるルール違反があった場合に、ルールを作った人の意図や、ルールが作られた社会的背景についても考えるようになりました。もちろん実生活のなかで常にそういう思考をする訳ではないですが、法的に思考する力が身に付いたかなと思います。

※上記以外にも、懇談会参加者の皆さまにご記入いただいた懇談会質問シートについて、皆さまの質問に講演者が答えてくださいました。以下からご覧ください。

名大研究室の扉 第40回法学部 懇談会質問シートの回答

参加者の感想(一部抜粋)