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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第36回 法学部 「憲法典は「憲法」ではない!?―法を解釈するということ―」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第36回 法学部を、2019年8月25日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学法学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約80人の生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2019年8月25日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

進路としての「法学部」 市民生活に活きるリーガルマインドを学ぶ重要性

●第1部:憲法典は「憲法」ではない!?―法を解釈するということ―
大河内 美紀(おおこうち みのり)教授(法学研究科)

大河内 美紀(おおこうち みのり)教授(法学研究科)

進路としての「法学部」を選ぶメリットとは何か。大河内教授は、明瞭な口調で受験生・保護者を惹きつけ講演を始めました。
「法学部で学ぶ=法曹(検事や弁護士など法律に関わる仕事に就いている者)になる」のではなく、多様な進路・職種に就いている実情を卒業生のデータをもとに説明されました。たとえ法律に関わる仕事に就かなくても、法律と切り離して生きることは不可能です。法学部では細かい法的知識を学ぶだけではなく、法的思考力“リーガルマインド”を身につけることのできる進路であることを「中学生らしい髪型という校則にキミは反している」と先生に注意された場合どのように対応するかを例に挙げ、より詳しく解説されました。
まず前提に法には2つの側面があり、すでにある法を解釈して適用するという「法解釈」と、既存の法では解決できないので新たな法・ルールを作りだして解決する「立法」、もしくは政治による「意思決定」という2つがあります。この場合“中学生らしい髪型”について先生と自分の「解釈」が異なるという主張と、“中学生らしい髪型”という校則自体が時代に沿っていないから新たなルールをつくるために「立法」しようという主張ができます。法学部は、例えば「法解釈」のような問題解決のためのツールを学ぶ中で、例のように自分と他人は異なる考え方や立場・利害があり、そのなかで生じるさまざまな問題を言葉と論理を使ってより良く解決するため、物事を総合的に判断するリーガルマインドを身につけていく場であることを強調されました。
法学部で身につけられる力を理解したうえで、具体的に「法解釈」とはどのようなことかを続いて講演されました。例えば、“中学生らしい髪型”について「染めていないこと」や「肩に届かない長さ」など意味内容を明らかにすることを解釈といいます。その解釈は変化するものであり、1つには決まらないそうです。どんなに短い条文であっても解釈の余地はあり、その結果条文は変わっていなくても解釈が変化するという事態が生じます。大河内教授は、日本国憲法14条には、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と記載されているが、例えば血液型で差別された場合は憲法違反となるのか?と問いかけました。現在、最高裁判所の判決によれば、あくまで条文に列挙された事由は、例示的なものであって必ずしもそれに限るものではないとされるため、血液型で差別された場合も憲法違反になりうるそうです。このように憲法は条文だけでなく、解釈や先例などによって規範が形作られており、大河内教授はこのような憲法を形づくるための解釈を最終的に誰が決定するのか?ということをテーマに研究されています。
限られた時間の中で、大河内教授が具体例やイメージしやすい条文を挙げて講演してくださったため、リーガルマインドや法解釈について触れることができ、生徒の皆さんはさらに法学部そして名古屋大学への進学意思がより高まったのではないでしょうか。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
法学研究科 総合法政専攻(政治学) 左高 慎也(さだか しんや)氏
法学研究科 総合法政専攻(ロシア法)柴田 正義(しばた せいぎ)氏

第2部では、名古屋大学法学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

法学研究科 総合法政専攻(政治学)左高 慎也 氏

法学研究科 総合法政専攻(政治学)左高 慎也 氏

左高さんは現在、名古屋大学大学院法学研究科 総合法政専攻研究者養成コースに在籍しています。中学時代に観たドラマの影響を受け、将来は検察官になりたいと考えていた左高さんは、迷うことなく法学部を受験することを選択しました。また、地元の国公立大学への進学を希望していたため、法学部のある名古屋大学を受験したそうです。
名古屋大学法学部を卒業してから検察官になるまでの具体的な計画を持って大学生活を送り始めた左高さんでしたが、友人に誘われて「現代日本の政治と行政」という政治学の入門講義を受講したことで、政治学という学問のおもしろさを知り、政治学の研究者への道を考えるようになりました。そして、法曹養成を目的とした法科大学院ではなく、研究者養成を目的とした法学研究科への進学を決意されました。現在は、政治学の研究者となるための具体的な計画を立て、充実した学生生活を送っています。
その学生生活についてもお話しいただきました。「大学院生って暇なんじゃないの?」という印象をもたれることもあるそうですが、決してそうではないとのことです。左高さんは3つのゼミに所属しており、1週間のうちでそれぞれ授業が行われます。その他にも、読書会や指導教員との面談などがあります。これらの予定のない時間を使い、ゼミでの報告準備のためにゼミごとに外国文献を1週間に約50ページずつ講読したり、自身でも論文を執筆したりしているそうです。
研究内容については、「なぜ法学部で政治学を学ぶのか?」「政治学とはどのような学問なのか?」という問いに答える形で紹介してくださいました。日本では、法と政治は互いに支えあっているということと、法学と政治学はいずれも国家に関する学問と捉えている近代ドイツの制度の名残があることから、法学部で政治学が教えられていますが、これは世界的には珍しいことだそうです。また、政治学とはおもに政治現象を対象とする学問で、政治学には現実に起こった政治現象が“なぜ”“どのように”生じたのかを分析する「経験的な政治学」と、政治において望ましいものとは何かについて考察する「規範的な政治学」の2つがあるということをお話しいただきました。
最後に、「大学では自分の興味のある分野だけでなく、さまざまな分野の講義を受けて、自分の将来計画を大学入学前の視点とは異なる視点から捉え直すきっかけとしてください。それと同時に、ともに学ぶ友人を大切にしてください。」とメッセージをいただきました。

法学研究科 総合法政専攻(ロシア法)柴田 正義 氏

法学研究科 総合法政専攻(ロシア法)柴田 正義 氏

柴田さんは現在、名古屋大学法学部法学研究科総合法政専攻博士後期課程に在籍しています。当初、外国語に興味があった柴田さんは外国語系の学部への進学を漠然と考えていたそうですが、自身の名前が「セイギ」であったこと、自分の自由や権利について考えたことがきっかけとなり名古屋大学への進学を決断しました。学部生時代は、好きなサッカーやアルバイトをやるなど自由を謳歌していた一方で、名古屋大学には留学生が多く、興味を持って学んでいたロシア語でコミュニケーションをとることが学習意欲につながったため、ロシア法の専攻を決めたそうです。ロシア法を学んでいる人は全国でも数少なかったこと、学んでいく中で興味を持ったことを深く追究することの楽しさから大学院への進学を決断されました。
大学院への進学後はアルバイトで学費・生活費を稼ぎながら研究を行っていましたが、ロシア法研究の資料の少なさから留学を決意し、国の奨学金制度を活用して1年間モスクワ大学法学部に行ったことが今の研究生活を支える大きな経験であったとお話しされました。留学先では、資料収集やロシア語での論文の執筆、ロシア国内・ハンガリーでの学会報告を行うだけでなく、ワールドカップの時期だったためサッカー観戦するなど充実した日々を送られていました。修士課程修了後、現在は、予備校講師などの仕事と並行しながら研究を進めています。
柴田さんは、修士課程と博士課程の研究の違いを「宝探し」と表現されました。修士課程では、まず研究のネタとなりそうな宝を探し、博士課程で宝の価値を高めるため、より研究を深めて高度な論理展開ができるようにするとお話されました。また、ロシアが社会主義から西欧型立憲主義へ移行した「モデル的」な国であることを前提に、ロシア法研究の意義の1つは、同様な体制移行を経験しているさまざまな国々の法制度を考えることにある、とされました。さらに、日本との「遠い隣国」であることもロシア法を研究テーマとする理由でした。
柴田さんは、国のシステムが移行した際に、古いシステムの中で決定されたことについて、新しいシステムを備える国はどんな責任を負うのかについて研究されているそうです。事例として、ソ連時代に政府が多くの教会から国有化のため没収した財産を、ソ連崩壊後、教会に移転することを決めた法律について挙げられました。その法律のなりたちや判例調査という過程から導き出した、従来の学者の評価とは異なった自身の解釈について説明されました。財産の移転について規定しつつ、その範囲を限定することによって、移転と現状維持のバランスをとった法律であるという自身の解釈を、より高度な論理で武装できるように研究を行っているそうです。
最後に、「法学は『地に足をつけた議論』がもっとも重要だと思います。人権は大事、改憲が必要という表面的なものではなく、具体的な事例を挙げて事実を整理したうえで論点を抽出していくことに、法学の醍醐味があります。ぜひその面白さを皆さんも一緒に感じて欲しい。」として講演を終えられました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、大河内教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

Q.日本国憲法は、時代に沿って変更したほうがいいのでしょうか?
A.日本国憲法は比較的条文が少なく、簡潔だと言われます。ただし、人権に関しては他の国も同様です。時代とともに人権に関しての考え方・保障範囲は変化します。そのため、条文を変更しなくても柔軟に変化に対応できるように簡潔に記載されています。それに対し、統治に関わる条文は国によって異なります。例えば、フランスは比較的憲法改正が多いことで知られていますが、その多くは統治に関する条文です。フランスの憲法は統治に関しても比較的詳細に規定しているので、その変更には改正が必要となるからです。日本とは状況が異なります。また、日本国憲法を含む多くの国の憲法が「硬性憲法」(憲法改正の手続が通常の法律の改正手続よりも困難になっている憲法)であることを思えば、憲法はそもそも頻繁に変えなくていいように作成されているということを出発点にして考えるべきでしょう。

Q.名古屋大学法学部の留学生との交流プログラムについて教えてください。
A.名古屋大学には比較法政演習PSIプログラムというものがあります。自国の大学を卒業した方や公務員だった方などが留学生として名古屋大学に学びに来ていて、彼らと日本人学生が少数のグループを組み、日本人学生が日本の法律・文化を留学生に、留学生が母国について日本人学生に教えるという形で、研究、ディスカッション、発表を行います。また短期留学もありますので、さまざまな人や国の価値観や法に触れることができます。

Q.今年18歳になり選挙権が付与されましたが、憲法9条の改憲というテーマについて判断できませんでした。先生の考えを教えてください。
A.憲法は、頻繁に変えることを前提としていないということを改めて考えてください。その上で、憲法9条をどうしても変えなければいけない重要な国家目的があるのか、それが改憲という手段でしか達成できないことなのかという点から政府の主張を確認して見極めることが重要だと思います。

大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、授業や学科選択に関することを中心に、さまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.法曹をめざして入学して、政治学に転向するにはどのようなことが必要でしたか?
A.名古屋大学の法学部は学科が細かく分かれておらず、法律政治学科となっていて、法学部で法律も政治も両方について学ぶことができます。特にコース変更などは必要なく、各自で受講する講座を自由に選択することができます。

Q.法学を学ぶようになって変わったことや、法学を学んでよかったと思うことはありますか?
A.(左高さん)法律は、一人ひとりが異なっていて争いが常に起こることを前提として存在しています。日常においても大なり小なり争いごとは生じるので、自分の意見を述べるだけでなく、相手側の多様な考えにも目を向けるようになりました。
(柴田さん)物事を達観できるようになりました。自分が当事者となるよりも、少し離れたところから広く物事を見られるようになりました。また、リーガルマインドは冷的な面など嫌な面も持ち合わせているので、その一面を知ることができたのはとてもよかったと感じています。

Q.政治学はどのようなことを学ぶ学問ですか?
A.政治学は、政治現象を対象とする学問で、規範的な政治学(哲学的アプローチ)と経験的な政治学(政治科学的アプローチ)があります。そのうち、経験的な政治学では、すでに起こっている事例について検証したりします。その対象は、一国内の政治や国家間の政治(国際政治)など多岐に渡ります。

Q.受験学年までにやっておくとよかったと思うことは何ですか?
A.(左高さん)読書です。あと、高3は模試などで土日がほとんど時間をとられてしまうので、基礎的な学習については早期に取り組んでおくとよいと思いました。
(柴田さん)高3になってから、古文単語や英単語などをもっとやっておけばよかったと感じました。みんながサボっていそうなことほど早めに取り組んでおかないと、模試や入試本番で大きく影響します。

参加者の感想(一部抜粋)