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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第33回 教育学部 「”非常識”の教育学」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

講演の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第33回 教育学部 を、2019年6月23日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学教育学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約100人の生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2019年6月23日(日)14:00~16:00

会場

千種校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

柔軟な発想で、エビデンスと声からリスクを見える化する。

●第1部:“非常識”の教育学
内田 良(うちだ りょう)准教授(教育発達科学研究科)

内田 良(うちだ りょう)准教授(教育発達科学研究科)

「火をともせば、永遠の命が得られるランプが、ここにある。あなたには、一度だけ火をともすチャンスがある。あなたなら、どうする?」
内田先生は参加者に質問されました。平均寿命が84歳以上の日本では、ほとんどの人が「ともさない」と答えるそうです。しかし、世界に視野を広げてみると、アフリカでは平均寿命が50歳代の国が多いです。シオラレオネという国の年齢階級別死亡率(2016年)を調べてみると、5歳未満の子どもの死亡率が10万人中約1万2千人と高いです。こういう現状を知ると、その子たちのためにランプをともしたいという人たちが現れます。
学問は、直観ではなく、丁寧に事例やデータを収集し、柔軟な発想で緻密に分析していくことが大事であると力説されていました。

その事例として、小学校におけるいじめの件数(2015年度文部科学省調査)を紹介されました。1,000人あたりの件数を都道府県別に見てみると、一番件数が多い県は、京都府の160.02件、少ない県は佐賀県の2.97件です。このデータから言えることは、いじめに対して一生懸命に取り組んでいるのは、京都府であるということです。データの見方のポイントは、いじめの件数が多いということではなく、いじめの見逃しが少ないということだと説明されました。しかし、このような命に関わる調査は、マスコミ等はクローズアップしないで、都道府県別の結果が横並びの全国学力テストは、大きく取り上げられるという不条理を、未来の教育者たちに投げかけていました。

次に、部活動の問題を取りあげられました。部活動は教育課程外のため、制度設計がない教育活動になっています。さらに、運動部顧問の約半数が該当競技種目の経験がないという調査結果が出ています(2014年度日本体育協会調査)。専門知識を持った指導者がいないこと、競技を安全に行うための環境が整っていないことから、死亡事故やけがも多発しているという、まさにブラックな状況だと、いろいろなデータを使って説明されました。しかし、部活動を否定しているわけではなく、過熱している現状を改善し、生徒たちや先生たちにとって、安心と安全であるものに変えなければいけないと言われました。

最後に、『「常識」の世界はとても居心地がいいですが、狭くて危ういです。「非常識の知」が得られるランプをともしたいと思ったら、名古屋大学にチャレンジしてください。』と、エールを送られました。内田ワールドに魅了された1時間でした。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
教育発達科学研究科 教育科学専攻(教育社会学)島袋 海理(しまぶくろ かいり)氏
教育発達科学研究科 心理発達科学専攻(社会心理学)胡 安琪(ふう あんちい)氏

第2部では、名古屋大学教育発達科学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

教育発達科学研究科 教育科学専攻(教育社会学)島袋 海理 氏

教育発達科学研究科 教育科学専攻(教育社会学)島袋 海理 氏

現在、名古屋大学大学院 教育発達科学研究科で教育社会学を学ぶ島袋さん。講演では、大学への進学、そして大学院での研究テーマについて、順を追ってお話いただきました。
まずお話されたのは、名古屋大学に進学を決めた理由についてです。沖縄県に生まれた島袋さんは「とにかく沖縄から出てみたい!」という気持ちが強く、あまり名古屋大学にこだわりはなかったそうです。加えて「教育学部」という学部についても強い思い入れはなく、興味の持てなさそうな学部を避ける、いわゆる「消去法」で決めてしまったとのことでした。しかしその分、進学後も他の学部の授業やゼミなどに参加し、自分の興味のある分野を幅広く勉強され、「自分の所属する領域にかかわらず、幅広く学べるのが名古屋大学の魅力」と感じたそうです。
島袋さんが、教育学部にそこまで思い入れがないのに大学院まで進学した理由は、なんと「イケメン扱いされることに疲れたから!」というユニークなものでした。身長が高く、幼少期から見た目で得をすることが多かったと感じたことから「見た目で加点されない世界に行きたい。研究の道なら見た目に関係なく、自分の努力だけで挑戦できる!」と考え、大学院へ進学されました。同じように、見た目や年齢など自分の属性に対する評価から離れて、純粋に実力を試したい人に大学院はおすすめ、とのことでした。
大学院に進学されてからは、教育学の中でも「教育社会学」を研究されています。教育学というと、「教育は子ども中心であるべき」「学校は社会に出て役立つ知識を教えるべき」などの常識、「べき論」が多くなりがちです。しかし教育を考える際は、教育の外の世界の言葉や考え方を使っていくことも大切です。そこで教育社会学では、教育の外にある「社会学」の言葉や考え方を積極的に使って教育を研究しています。例えばいじめ問題に対し社会学の考え方を持ち込むと、「いじめの張本人(加害者・被害者)」だけではなく、その周りにいる「観衆・傍観者」に着目するという新たな視点が生まれます。このように、人と人との関係など社会的なものの影響に着目しながら、教育における課題や議論を研究していくのが教育社会学です。
特に島袋さんが研究しているテーマは、「性的マイノリティ・アイデンティティ」についてです。近年、「LGBT」や「トランスジェンダー」など、性的マイノリティが社会的に関心を集めています。しかし島袋さんは、そういったカテゴリー分けと本人のアイデンティティが本当に一致しているのか?という点に疑問を抱いています。例えば、「昔は彼女がいたけれど今はゲイ」という人はどのカテゴリーに属するでしょうか。アイデンティティにも揺らぎや変容があるのではないか?さらに、E.エリクソンが提唱する「アイデンティティは乳児期、幼児期、学童期、青年期…と階段状に形成されていく」という説に対しても、本当にそのような単線的な進行をするのか?という疑問を抱かれています。学校や家庭、友達といった「社会」が、アイデンティティの形成に影響を及ぼすのではないかという疑問は、まさに教育社会学の視点です。
「教育学に強い思い入れはない」と話されていた島袋さんでしたが、社会学の視点からさまざまな常識・前提への疑問を熱く語る姿は非常に印象的でした。最後に「やりたいことはすぐ見つけなくても良い。自分も研究テーマを選んだのは大学3年生の頃で、今後も変わるかもしれない。大事なのはほのぼのと、なんとなく考えてみること」と、思い悩むことの多い受験生の心をほっとさせる言葉で講演を締めくくりました。

教育発達科学研究科 心理発達科学専攻(社会心理学)胡 安琪 氏

教育発達科学研究科 心理発達科学専攻(社会心理学)胡 安琪 氏

胡さんは、現在、名古屋大学大学院 教育発達科学研究科の博士後期課程2年に所属しています。中国のご出身で、3歳から日本にきて、小学生・中学生時代は青森県で過ごしました。身内の方に医学系・生物系に進んでいる方が多く、いい大学へいくのが当たり前の環境でした。そのような環境の中で、胡さんは中学2年生の頃、「いい大学に進学して何になるのだろうか」「好きなこと、嫌いなこともわからないのにどうやって進路を決めるのか」などの疑問を持ち、アメリカの高校へ留学することを決めました。大学と学部選びでは、日本なのかアメリカなのか、身内に多い生物学なのか、それとも心理学なのかで悩みましたが、自分と同じような経験・境遇の人を助けたいという思いから、心理学を選択し、研究が進んでいるアメリカの大学へ進学されました。ここで、胡さんは、進路を決める上で大事なこととして、自分の将来計画を立てることを挙げていました。ぼんやりでもいいので、まずはどうなりたいのかを計画し(Plan)、それが果たして自分の理想系なのかを調べてみる、やってみること(Do)、それに対して両親と話し合ってもいいし、自分で改善点を考えてもいいのですが(Check、Improve)、このサイクルを回していき、自分のやりたいことを一生かけて考えていくことが大切だとお話されました。
次に、名古屋大学の教育学部の仕組みについてお話がありました。教育学部は1・2年生の間は専門に限らず、幅広い分野を学び、3年生から5つのコースに分かれてそれぞれの領域の基礎を勉強します。心理学の分野では、5つのコースのうち2つのコースが該当します(心理社会行動コース、発達教育臨床コース)。大学院では教育科学専攻と心理発達科学専攻の2つに分かれ、胡さんは心理発達科学専攻の中の心理社会行動化学講座(教心系)を専攻しています。心理学は、データをもとに「こころ」にアプローチする科学的な学問で、統計データをたくさん扱うので、理系に寄った面もあるそうです。
大学院生活については、良い所として、時間の融通がきき、好きなことを探求できることを挙げました。反面、自己管理ができないと卒業できなくなること、就職する時期が遅くなることも挙げていましたが、最近では、専門性を持った人を採りたいという企業も出てきているので、就職に関してはそれほど困らないのではとの印象をお持ちでした。研究については、「思考(研究計画を立てる、仮説を立てる)→実施(実験・調査)→まとめ・発表(論文を書く、学会発表をする)」という流れで取り組んでいます。
胡さんの研究内容は、心理学的手法を用いた日本人の外国人に対する不安、ステレオタイプをなくす解決策の考案、および外国人の日本での適応を促進することです。仮想接触理論を用いて研究を行い、その成果を学会で発表されています。心理学は国際学会が多いそうです。また、博士課程の学生が英語を使って、一般の人たちに専門知識を噛み砕いて伝えるワークショップを開催したりしています。大学院は好きなことを仕事にする力が養える場であるとお話されました。
最後に、好きなことをして生きるためにはどうしたらいいのか。まずは好きなこと・やりたいことがみつかった時点で、ゴールを設定すること。そのゴールにたどり着くためには、そのゴールから1年前にはどうなっていたらいいのか、その5年前には何をしていないといけないか、とゴールから逆算をして具体的な計画を立てることが大事であるとお話されました。そうすることで、夢は目標となり、目標に対する計画を立て、努力をすれば達成できるものであると、熱いメッセージをいただきました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、内田准教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

内田准教授の懇談会に参加した方たちからは、日頃抱いている教育現場への疑問や、内田准教授の教育への取り組みに関してなどさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.小学校では1人の先生が担当の生徒に対し全教科を教えていますが、無理があるのではないか、と感じています。先生はどうお考えですか?
A.僕もそう思います。ただ、大きな小学校であればそれぞれの教科担任がついていたほうが良いと思いますが、小さな小学校、例えば生徒が数人しかいないような小学校に対しても全教科の先生が必要となると、そこにかかる経費は大丈夫なのだろうか、という点は気にしています。

Q.大学の学部は理系・文系と分かれていますが、教育学部はなぜ文系なのでしょうか。統計など数字を扱う分、理系なのでは、と思うのですが。
A.教育学部といってもさまざまで、心理学を扱う分野では統計などの数字が必要になるので理系よりです。ただし、教育学では数字を使わなくても大丈夫です。学部としては文系ですが、入学試験の科目に数学を設定するなどして理系よりに配慮している大学もあります。

Q.アウトサイドで生まれたアイデアを、インサイドに伝えるにはどうしたら良いと思いますか?
A.僕はインターネット上で情報を発信することにしています。インターネットで声を上げることで、共感者が出てきてそれがたくさんになって、インサイドの人が「あれ?」と気づいてくれます。そういった改革の流れで取り組んでいます。逆に、自分がインサイドに行って何かをする、ということは考えないようにしています。なぜなら、自分もインサイドに行ってしまったら流されてしまうからです。ですので、あえて常にアウトサイダーでいようと思っています。

実際に内田准教授は、以前インターネット上で学校の運動会における「組体操」の危険性を訴え、組体操実施数やそこで発生する事故を減少させています。何らかの問題に対し提言する際には、「共感する人と連れ立って何名かで伝える」のが効果的であるとお話されていました。

大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、大学の研究テーマに関することや就職などについてさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.学部卒と院卒での就職に違いはありますか?
A.(胡さん)院卒で博士課程を終えている人については、専門性がつき、グループ共同研究などを通して人をまとめる力、チームマネジメントのスキルがつきます。1年目は研修などもありますが、会社によっては管理職に就きやすいこともありますし、それを見越して採用されるということもあります。また、1つのトピックについて深く掘り下げていくので、統計分析のスキルがつき、コンサルティングやシンクタンクなどでその能力が発揮できると思います。社会全体としては、今までの日本は学部卒の新卒を採って会社で育てるという風潮でしたが、最初から専門家を採ろうというように徐々に変化してきていると思います。
(島袋さん)理系と比較すると教育系は院卒という点を評価されにくいと感じています。ただ、教員になる場合は、学部卒と院卒とでは免許の種類が違い、給与が異なってくるので、大学院に進むメリットがあります。

Q.統計データを扱うので数学はできた方がいいと思いますが、それ以外に今得意にしておくべきことはありますか?
A.(胡さん)高校時代に何かできるようにと、焦る必要はないです。しいて言えば、大学生時代に、英語の論文を読めるようになっておくことです。最先端の情報は英語で書かれているものが多いです。あとは問題発見能力を身につけることです。自分が疑問に思うことに対して、解決策を考えていくこと、そのために本を読んだりすることが大事だと思います。
(島袋さん)大学院入試に英語が課されるので、英語は大事です。高校時代にできることは、興味のあるトピックについて新聞を読んだり、インターネットで検索したりすることだと思います。

Q.教育全体を学ぶことのできる教育学部と、文学部などで教職課程を取るのとどちらがいいですか?
A.(島袋さん)アウトサイダーからの視点で教育を学ぶことができるのが重要だと思います。教育を批判的な視点で見ることができるのは他学部で教職課程を取る場合より、教育学部だと思います。

参加者の感想(一部抜粋)