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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第29回 農学部「植物と共に生きるための未来の技術を育む」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

講演の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第29回 農学部を、2018年8月26日(日)河合塾 名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学農学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約70人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2018年8月26日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

接木苗生産の事業化を行うことで農業イノベーションを促進する!

●第1部 Part.1:「植物と共に生きるための未来の技術を育む」
 野田口 理孝(のたぐち みちたか)助教/卓越研究員(生命農学研究科)

野田口 理孝(のたぐち みちたか)助教/卓越研究員(生命農学研究科)

乾燥、高温、病気、貧栄養、塩害など地球規模の環境問題により土壌ストレスが拡張しており、耕作地の約4割がストレス土壌になっていると言われています。これは、私たちが食のリスクにさらされているということです。そこで野田口先生は、新たな価値を提供する接木苗の効率的生産と安全を提供することをミッションに、長距離シグナリングと接ぎ木の研究をされています。
今回は、時間の関係で、接木法についてお話をしていただきました。接ぎ木とは、二つ以上の植物部位を外科的に一つに融合する方法で、有史より現在まで2000年以上も、園芸や農学的に利用されています。クローン繁殖や、病害耐性・果実の生産性向上など、目的は多岐に渡ります。春にその美しさを愛でさせてくれる桜のソメイヨシノは、クローン繁殖の典型的な例です。簡単に言うと、病気に強く、ストレスに強い根に栽培種を接ぎ木するということです。
ただし、大きな制限があり、相手によっては接ぎ木が成立しない「接木不和合」現象が起きます。一般的に「異科接木は不可能」と考えられています。例えば、ナス科のトマト同士を接ぎ木して、病害耐性を強くしたり、ウリ科同士のカボチャとキュウリを接ぎ木して、果実の生産性を向上させることは頻繁に行われています。しかし異科接木が不可能になると、接ぎ木の組み合わせが限定的になってしまい、地球規模の環境変動の問題に対応することができません。
そこで、野田口先生は、従来は不可能であった異科の植物の接ぎ木を研究されました。その結果、シロイヌナズナとタバコ属の異科接木に成功され、タバコ属の植物が、マメ科やウリ科、アブラナ科、ナス科など70種類以上の植物と接ぎ木ができることを発見されました。
さらに、接ぎ木は主に手作業で生産されていますが、野田口先生は自動化や量産化をめざしてマイクロデバイス工学を使った接ぎ木チップを開発されました。異科接木法による土壌ストレスに強い根の利用と、接ぎ木チップによる苗量産によって、地域の課題に対して、迅速に解決できることが将来期待されています。

最後に参加者へのメッセージを二つ言われました。一つは異分野連携による課題達成の重要性。野田口先生も、農学だけではなく、理学、生化学、工学、情報科学と連携したことによって新たな価値を創造することができました。もう一つは、常にアグレッシブに学んで、研究の成果を素早く社会に還元することを考えて欲しいと強調されました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
応用生命科学専攻(動物細胞機能) 森 愛理(もり あいり)氏
森林・環境資源科学専攻(木材工学) 小島 瑛里奈(こじま えりな)氏

第2部では、名古屋大学農学部所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

応用生命科学専攻(動物細胞機能) 森 愛理 氏

応用生命科学専攻(動物細胞機能) 森 愛理 氏

森さんは現在大学院で、細胞の表面にある「糖」の研究をされています。しかし、もともと興味があったのは「人間の心の勉強」だったそうです。講演ではそんな森さんの進路選択について、そして現在の研究内容について、わかりやすく説明をしてくださいました。
「好きなことには常に全力!」がモットーの森さんは、高校時代「人間の心の勉強」ができる学部を探していたそうです。そのため文学部や教育学部、また医学部などに目を向けていましたが、最終的には「生物の勉強がしたい」という思いを重視し、農学部への進学を検討します。皆さんは、「農学部だと人間の心の勉強はできないのでは?」と思うかもしれません。森さんも当初そのように考えていたそうです。しかし森さんは、「生命現象を分子のレベルで科学する」という名古屋大学農学部の特徴を知り、「ここならやりたいことができるのでは」と感じたそうです。また、名古屋大学に興味を持ってからは、大学のホームページで研究室の内容を調べ、よりいっそう「自分のやりたいことができそうだ」という確信を得られたそうです。
こうして農学部へ進学し、大学院へ進んだ森さんは、「糖」をテーマに研究をしています。人間の細胞の表面は、糖が連なった鎖(=糖鎖)でコーティングされています。そのため細胞と細胞がコミュニケーションをとるときは、必ずこの糖鎖に接するのです。たんぱく質・DNAに告ぐ第3の生命鎖とされているそうですが、まだまだ謎が多く、「世界でも自分だけの研究」と言えるところも興味をひかれるポイントだそうです。また、森さんが特に研究しているのが「糖鎖と精神疾患の関係について」で、これは当初やりたかった「人間の心の研究」につながる分野でもあります。
現在、森さんは毎日の研究に加え、週に2~4回のセミナー、土曜日の実験報告会、そしてアルバイトと、とても忙しい日々を送っています。また、海外の学会での発表もあり、非常に充実しているそうです。研究室は半分以上が女子で構成されており、普段の楽しい様子を写真も交えながら紹介してくださいました。

最後に森さんから参加者へ、「自分の『好き』を極められるのが『大学』『大学院』である」というメッセージがありました。「好きなことには常に全力!」をモットーとする森さんらしい締めくくりに、会場からは多くの拍手が寄せられました。

森林・環境資源科学専攻(木材工学) 小島 瑛里奈 氏

森林・環境資源科学専攻(木材工学) 小島 瑛里奈 氏

小島さんは、生物が大好きだったこと、これからは環境の時代だと考えたことから農学部への進学を選択され、現在は大学院博士課程で木材工学の研究をされています。本日の講演では、大学進学からその先の進路の話、研究室の紹介、また、ご自身の専門である木材工学の研究内容など、とてもわかりやすく楽しくお話しくださいました。
名古屋大学農学部は「応用生命」「資源生物」「生物環境」の3学科に分かれています。ご自身が所属されていた生物環境科学科はフィールドワークが多く、1年生の夏には合宿、2年生の後期では週に1回フィールドワーク、3年生の夏には合宿が2回あり、小島さんはタイの大学へ留学もされたそうです。生物環境科学科から大学院の修士課程に進学する人は60%、さらに博士課程に進学される人は1%程度で、生物環境科学科から大学院の修士課程に進むと、生命農学研究科森林・環境資源科学専攻となります。この専攻の中には、森林・林業・林産業における「生物系(林業系)」「化学系(林産業系)」「物理系(林産業系)」の11の研究室があり、小島さんは物理系(林産業系)の木材工学の研究室を選択されました。研究室が決まる時期は3年生の12月で、小島さんが木材工学研究室に決めた理由は、3年生のときの木材工学研究室での実験で、木片を圧縮したとき、年輪の方向(繊維方向)に沿って変形したことに感動し、工学(力学)のおもしろさに気づいたからだそうです。また、小島さんは大学入試では生物・化学選択でしたが、今は物理を専門として研究されています。「入試科目で物理を選択していなくても大学の研究についていけるか心配する必要はありません。大丈夫です。」と補足されていました。
続いて木材工学の研究室・研究内容を紹介してくださいました。木材の持つ性能を評価して適材適所に配置するためのコーディネーターの役割を担う研究をされていることを、写真や図を利用して、わかりやすく説明してくださいました。木材は材料の中で最も複雑な構造を持っており、人間が一人ひとり違うように、木材も一本一本違う特性を持っています。また、木材の力学性能にはばらつきがあり、破壊強度は破壊してみないとわからないそうです。そのため木材の強度を精度良く推定する必要がある、その研究のため研究室でいろいろな実験をしていると話されていました。

最後に、参加者の皆さんに向けて、「今やりたいことがある人はそのまま続けてください。ない人は今できることを精一杯やってください。Betterの積み重ねがBestになると私は信じています。一緒にがんばっていきましょう。」と締めくくられ、会場は大きな拍手に包まれました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、野田口先生と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

野田口先生の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に切り込んだ内容から、大学を選ぶ上でのポイントまで、さまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.将来は環境問題を学びたいと思っていますが、何から始めたら良いでしょうか。
A.情報が非常に多いため、その中から自分にとって必要な情報を選び取るのは難しいです。なぜなら、選び取るには知識が必要だからです。自分にとって必要なものを知るためには、まずはやみくもでもいいのでやってみて、「これだ」「これではない」を繰り返していくしかありません。ただ、意外と自分がすでによく知っている分野に、まだ知らなかったことが隠れているかもしれません。まずは自分の関心のある分野について、深堀していくのが良いのではないでしょうか。

Q.講演でおっしゃっていた「接ぎ木チップ」とは何でできているのでしょうか。
A.素材はPDMS樹脂を使っていますが、今後実用化していくなら安価で安全で、土に戻るものが良いですね。材料科学の分野の人とも協力しつつ、植物からとれる物質などで作れたら良いと思っています。

Q.食物に関する学びをしたいのですが、学科はどこを選ぶと良いでしょうか。
A.学科や研究室の名称からは、内容が正しく推察できないことが多いです。教えている先生も変わってしまうこともあります。学部を大枠で決めて、それ以降は自分の目で見て決めていくしかありません。

大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、学部選択や卒業後の進路のこと、留学についてなどさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

講演者と参加者による懇談会

「化学が好きなので大学で化学を研究したいのですが、農学部が良いでしょうか?」という質問には、「例えば、理学部は化学の基礎・原理を学ぶ学部。農学部は研究内容を社会に還元する学部だと思います。自分が将来、化学の何を研究したいかで学部選択をすると良いと思います。」と話されました。留学についての質問には、「英語は必要なので勉強しておいたほうが良いです。必要な語学力は留学先によっても異なるし、留学期間もさまざま。大学院であれば、共同研究による留学という方法もあります。」と説明されていました。また、「就職を考えて大学院に進学している人が多いのですか?」との質問には「就職先で研究職につくために大学院に進学している人も多いです。大学院修士課程を卒業していないと研究職につけない場合もありますので。」と返答されていました。その他「物理を高校で履修していなくても農学部での勉強にはついていけますか?」「農学部内での交流は活発ですか?」など 予定時間を過ぎても質問は途切れず、参加者の皆さんにとっては、名古屋大学農学部について知り、将来について考えることができた大変有意義な時間となりました。

参加者の感想(一部抜粋)