名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第28回 工学部「コンクリートの科学」「ナノ計測が拓く超精密機械工学」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第28回 工学部を、2018年7月1日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学工学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。たくさんの生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
-
第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
-
2018年7月1日(日)14:00~16:00
- 会場
-
千種校
- 対象
-
中学生・高校生・高卒生と保護者の方
未来を創る工学部
工学部には多くの学科があり、内容は多岐にわたっています。工学部をより深く知ってもらうために、今回は環境学研究科の丸山一平教授と工学研究科の伊藤伸太郎准教授のお二人に講演していただきました。
第1部 Part.1:「コンクリートの科学」 丸山 一平(まるやま いっぺい)教授(環境学研究科)
最初に、丸山教授が名古屋大学工学部・工学研究科の教育システムについてお話しされました。企業の状況を考えると、修士までの教育が大事なので、基礎教育3年、専門教育3年(学部4年+博士前期2年)、高度専門教育3年(博士後期3年)の【3+3+3型教育システム】を実施していると説明されました。
次に、生徒さんからの事前の質問である、理学部と工学部の違いについて「理学は、自然界(の現象)はどうなっているのか、なぜそのようになるのかという、すでに存在している状態の理解を追求する。一方、工学はどうしたらいまだ存在しない状態やモノを実現できるかを追求する、変化が求められている学問と言える」と、答えられました。
丸山教授は、環境学の建築学コースに所属されていて、その中で身近な材料であるコンクリートについて研究されています。具体的には“コンクリート構造物がどのように劣化するかに関するメカニズムの解明”や“省資源化に貢献する各種材料の構造物への利用に関する研究”などをされています。講演ではコンクリートがさまざまな材料・物質から成り立ち、異なる大きさの孔を有するマルチスケールな複合材料であること、ひび割れに関する研究について説明されました。
第1部 Part.2:「ナノ計測が拓く超精密機械工学」 伊藤 伸太郎(いとう しんたろう)准教授(工学研究科)
伊藤准教授は、先端的マイクロ・ナノ計測法の開発に携わっています。最先端の機械システムは高エネルギー効率・高性能・環境への低負荷などさまざまな課題を同時にクリアする必要があります。そのためにはナノスケールの材料開発や技術開発が必須であり、その発展性はナノ計測の進歩にかかっていることを力説されました。また、トヨタのコネクトカーが話題になったように、最近では、IoT(Internet of Things)が注目されています。リアルな社会とサイバー空間の最適化・効率化を図るためには高精度で小型化したものづくりが求められていて、そのためには精確な計測が必要です。すなわち、次世代にはナノレベルのものづくりとナノ計測が求められていることをわかりやすく説明されました。
また、伊藤准教授がマイクロ・ナノテクノロジーを研究しようと思ったきっかけは、大学3年生の時に読んだ『創造する機械』(1986)で、日本で初めてナノテクノロジーを紹介した本だと言われました。本との出合いは大切ですね。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
応用物質化学専攻(無機材料化学)土屋 太嗣(つちや たいし)氏
機械システム工学専攻(統計流体工学)高橋 護(たかはし まもる)氏
第2部では、名古屋大学工学部所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
応用物質化学専攻(無機材料化学)土屋 太嗣 氏
土屋さんは、名古屋市立向陽高校在学時に「暗記をすればテストで得点できる」という理由から無機化学が好きになりました。さらに得た知識を資料集などを用いてひも解いていくと、わからなかった現象を理解できるという点でも無機化学が好きになったそうです。その後名古屋大学工学部化学生命工学科に入学され、2年次には無機化学の知識を一番に身につけられる応用化学コースへと進み、4年次には工学部にいながら医学寄りの研究を進める研究室に所属、大学院では無機分野を研究する研究室に所属しているとお話しされました。
大学・研究生活について、1年から3年次は比較的自由な時間が多いため、趣味やサークル、アルバイト、また長期休暇を利用し海外旅行や大学祭の実行委員などに力を注がれたそうです。4年次になると研究時間が多くなり、実験や報告会の資料まとめ、なかでも英語で書かれた論文を読むのに苦労されたそうです。名古屋大学の研究室にはさまざまな高度な実験器具があるため、とても魅力的です。
次に、現在行われている研究内容をご紹介いただきました。生物学研究や薬剤開発に有用な分子の創製をめざされており、見られなかったものを見たり、創れなかったものを創る研究をされているそうです。具体的には肺がん検査を迅速化・低コスト化するための研究で、遺伝子変異EGFRに特異的に結合する人工抗体を創製することにより、肺がんの有無がわかるというものです。これは医工連携といい、医療分野と工学分野が連携して研究開発を行うことで、工学がものづくりの面で医療をサポートすることです。
そして最後に、「大学院生になり、研究することは大変だがとても楽しい。皆さんも興味を持てる分野を見つけると勉強し続けられると思うので、頑張ってください」とエールをおくられました。
機械システム工学専攻(統計流体工学)高橋 護 氏
高橋さんは、兵庫県の高校から名古屋大学工学部の機械・航空宇宙工学科に進学され、現在は名古屋大学大学院工学研究科機械システム工学専攻の博士後期課程に在籍されています。子どもの頃からプラモデルなどのものづくりが好きで、それが機械工学に進む最初のきっかけになったそうです。高橋さんは、早いうちから機械工学を学べる大学に進学したいと考えており、高校3年生時の進路選択では、名古屋大学は立地がよく、工業に強い街・愛知県にあるということが決め手となり、進学を決められました。名古屋は世界有数の工業地帯であり、名古屋大学は日ごろから企業との協力がスムーズにできており、恵まれた環境で勉強できるのでおすすめだと熱く語られました。続けて、名古屋大学入学後の印象を「名古屋の人は皆仲間思いですね。兵庫からやってきた自分を温かく迎えてくれて、今では名古屋が地元と同じくらい大好きになりました」とも語ってくださいました。
次に、ご自身の研究内容である「流体工学」について紹介されました。まず、流体工学とは「空気・水・油・血液などの流れる物体を公共の安全や健康・福祉のために役立てようとする学問」であることをお話しされ、併せて、流れの形には穏やかでまっすぐな層流と、激しくてぐちゃぐちゃに乱れた乱流があること、工学的に重要な流れはほとんどが乱流であり、乱流は難しくて解明されていない事項が多いことも紹介していただきました。具体的な乱流の例としては台風の流れなどを挙げられました。これらの乱流はランダムに現れるために何度も実験をしなければならず、解明が難しいとのことです。また乱流の規模も、数百キロ単位から数ミリ単位のものまでとさまざまであり、すべてのサイズの運動を捉えるにはすごく小さいセンサが必要になるといった困難をお話しされました。
高橋さんの所属する研究グループでは、乱流を思い通りに操作できるようにする「乱流制御」をめざして研究をされており、具体的には数ミリの小さい渦運動をも捉えられるような、流れの速度・温度・圧力を計測するセンサを開発しているそうです。高橋さんは、ご自身が実際に開発されたセンサやそのセンサを使った調査結果を写真やグラフで具体的に示してくださり、参加者にも研究内容が伝わるように丁寧かつわかりやすく説明してくださいました。
最後に、「私の所属する研究グループも夏のオープンキャンパスで催しをするので、ぜひ来てください」と紹介されました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、丸山教授、伊藤准教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
丸山教授の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に深く切り込んだ内容や丸山教授の経験に関することについて、さまざまな質問が寄せられました。
Q.成果が出るかわからないものを研究する不安はありますか。
A.研究すれば何かしら結果が出て、少しはよくなるので不安は特にありません。また、研究も一人で行うものではなくチームで行います。他の人とも協力してできますし、アドバイスももらえるので研究に対してそんなに気負わなくても大丈夫です。 研究はいろんな知識がつながっていくので、他の人とコミュニケーションをとり、アンテナを広げておくことが大事です。
Q.コンクリートの建物は50~60年程経つと建て替えますが、コンクリートに隙間ができることが建て替えにつながるのでしょうか。
A.化学結合の面ではコンクリートは強度が強く、古いもので言えばイスラエルには7,000年くらい前のコンクリートが残っています。また、現代の建築の建て替え需要は経済的なものであり、建物・材料の寿命で建て替えているものではありません。今後は大きな規模の建物を適切に使いこなすことが必要になるので、コンクリートの寿命はもっと延びていくと考えられます。
Q.中学時代の勉強はどれくらい行っていましたか。
A.私立の中高一貫校ということもあり、部活に打ち込んでいました。サッカー部と水泳部を兼部し、週6で部活を行っていました。勉強方法については「暗記をして解き方を覚える」というよりも「原理原則を理解する」ことが大事で、そのためには、「覚えたことを自分の言葉で話せること」ということで確認できると思います。入試も出題者とのコミュニケーションなので、出題者が何を聞いているかということを読み解くことが大事になってきます。
伊藤准教授の懇談会では、参加者の進学相談からナノテクノロジーの将来に関する内容など、多岐にわたる質問があがり、丁寧にご回答いただけました。
Q. 大学では音楽について学びたいと思っているが、工学部でも音楽に関することを学べますか?
A.“音”という大きな観点で見ると、音声認識研究やAIなどの情報工学と関連づけて学ぶことはできます。大学研究は自由度が高いので、さまざまな観点から学ぶ姿勢が大切です。大学での学びと趣味を結びつけることでキミにしかできないことを将来できるように、幅広い視野を持って意欲的に学んでほしいです。また、大学に入ってからも1年生のうちから研究室訪問をするなどして自身のやりたいことを見つけて積極的に学んでほしいです。
Q.ナノテクノロジーは非常に範囲が広く、さまざまな開発分野に関係することはわかりましたが、ナノテクノロジーの未来に限界というものはあるのでしょうか?
A.ナノテクノロジー研究はまだ始まったばかりで、やっと実用的に使用される段階になったところなので、未来は無限に広がっています。今後10年~20年かけて大きく発展していく分野です。
大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、お二人の専門分野に関することから、大学・大学院での学生生活に関することまで、こちらもさまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。
特に大学院についての質問が多く、「勉強の仕方」、「入試内容」などについて、皆さん真剣に質問されていました。「英語での論文を読む大変さ」についての質問には、お二人ともが「論文には専門用語もあるため高校の英語とは異なるが、基礎となるので大切」と答えられ、さらに「数学が苦手なのでどうすればよいですか」という質問には「頑張りは裏切らない」「好きになることが大切」と受験生にアドバイスをおくられました。
女性からの「女性ならではの大変なこと」に関しての質問に対しても、「男女比は研究の専攻にもよるが、男性女性として違いはありません」「工学部では女性は少ないかもしれませんが、名古屋大学はいろいろな学部があるので、全体でみてください」と答えられ、参加者の安心された様子が印象的でした。
質問は尽きることなく、参加者の皆さんにとっては名古屋大学工学部での研究や将来について身近に感じることができた、大変有意義な時間となりました。