名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第25回 理学部「生命現象を電子スピンでとらえる」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第25回 理学部を、2018年5月27日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学理学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約98人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2018年5月27日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
光合成メカニズムの解明は、人類が直面する環境問題やエネルギー問題解決への切り札!
●第1部:「生命現象を電子スピンでとらえる」
三野 広幸(みの ひろゆき)准教授 (理学研究科)
「科学は、皆さんの人生にとってどんな価値があるのでしょうか?」
いきなりこんな質問から三野広幸准教授の講演は始まりました。三野准教授は「すぐに役立つものが価値あるものとは限りません。自然の本質を研究することが、結果として私たちの生活に役に立つことがあります」と話されました。
1901年にノーベル賞が創設され、第1回受賞者の研究分野は物理(X線を発見したレントゲン)、化学(浸透圧の式を発見したファントフォッフ)、生理学(ジフテリア免疫と破傷風免疫を発見したベーリング)と理学でした。また、1905年は“奇跡の年”と呼ばれ、アインシュタインが光電効果、特殊相対性理論、ブラウン運動の3つの論文を発表しました。
量子力学は、現代物理学の根幹を成す理論として知られ、主として分子や原子、あるいはそれを構成する電子など、微視的な物理現象を記述する力学です。現代では人生100年と言われますが、まさに量子力学は100年かけて物理と化学と生物を統一し、さらに発展した学問です。
三野准教授の研究室では、光合成の分子メカニズムを、さまざまな物理化学的手法を用いて解明する研究を行っており、代表例は電子スピン共鳴法(ESR)を開発し応用する研究です。
地球に降り注ぐ無尽蔵なエネルギー、太陽光。生命はその40億年の進化の過程において、太陽光エネルギーを高い効率で生命活動のエネルギーに変換する精緻なシステム「光合成」を創り出しました。人類が直面する環境問題・エネルギー問題の解決のヒントは、自然が創ったこの生体光エネルギー変換系のメカニズムにあります。三野准教授の研究室では、植物や藻類が営む光合成のエネルギー変換機構を原子・分子レベルで解明するための研究を行っています。植物は如何にして光エネルギーを用いて電子やプロトンを動かすのか、如何にして水から酸素を作り得るのか、光合成システムの進化はどのように行われたのか、研究室では赤外分光や電子スピン、時間分解分光などさまざまな分光測定や量子化学計算を駆使してこのような問題に挑んでいると具体的に説明されました。
最後に次のメッセージを送られました。
「次は君たちの番です。望めば誰でも参加できます。他人のやったところまでやるのは実はそんなに難しくないです。自分の切り口でこの世界の謎を解明してみましょう!」
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
環境学研究科(地球惑星科学) 辻 大輔 (つじ だいすけ)氏
多元数理科学研究科(解析数論) 井上 翔太(いのうえ しょうた)氏
第2部では、名古屋大学環境学研究科、多元数理科学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
環境学研究科(地球惑星科学) 辻 大輔 氏
辻さんは、大阪府の高校から名古屋大学理学部に進学され、現在は名古屋大学大学院環境学研究科に在籍されています。高校1年生で物理の面白さに気づき、高校2年生の時に名古屋大学の一般公開セミナーに参加し、そこで宇宙・惑星科学分野への興味をもち進学することを決めました。高校時代は部活と勉強の両立を頑張り、名古屋大学理学部に推薦入試で進学されています。
はじめに理学部4年間のカリキュラムのお話をしてくださり、大学は教科書に出てくる定理を覚えるのではなく、原理原則を一から理解するところであり能動的に勉強するところである。と説明してくださいました。
次に、地球惑星科学科は地球・惑星で起きている現象(例:地震、火山、気候変動など)にさまざまなアプローチを駆使して理解する学問で、学外に出て学ぶことも多く、乗船実習や風船を飛ばして風の吹き方を調べる実習を始めとして、地質調査では2週間山に泊まることもあるなど具体的なお話をしていただきました。
辻さんの現在の研究テーマは「砂の科学」+「惑星の科学」であり、水も空気もない惑星で何が原因で突然土砂崩れが起きているのかを実験やシミュレーションなどさまざまなアプローチで研究に取り組まれています。講演では、写真を交えて会場の中学生・高校生にわかりやすく解説されていました。また、自らの2度にわたるイギリスへの留学経験についてもお話ししていただきました。
最後に、「長い年月をかけても結果が出ないこともあり研究は基本大変なことが多い。でも世界で認められたときのワクワク感がある。大学生活を充実させるには色々なものに触れ・学び、夢中になれるものを見つけること。そのなかで最高峰の教育・研究機関のある名古屋大学は無限の可能性を与えてくれます」という力強いメッセージで締めくくられ、会場から大きな拍手が送られました。
多元数理科学研究科(解析数論) 井上 翔太 氏
井上さんのお話は、自身の高校生活、そして大学生活のことから始まりました。
高校生の頃は勉強が嫌いで、数学もあまり好きではなかった井上さん。しかし受験勉強を通じて数学の面白さに気づき、山口大学理学部数理科学科に進学されました。
大学時代について井上さんは、「とにかく自由で何でもできる」と話す一方、「自分の将来像を描きながら生活を送ることが大切」と強調されていました。井上さん自身も、さらに数学の研究を深めたいという将来像を描きながら大学生活を送っていました。そして周囲に相談した結果、その分野で最先端を行く名古屋大学を勧められ、猛勉強の結果、名古屋大学大学院へ進学されたとのことです。
大学院では常に勉強と研究の日々。実際の1日のスケジュールを紹介されていましたが、日によっては午後から深夜1時まで勉強、午前中のわずかな自由時間さえも勉強をする、ということもありました。
ですがそんな日々についても、井上さんは常に笑顔で「研究は楽しい」「楽しすぎて時間が経つのを忘れる」とお話されており、本当に数学の研究が好きなんだということが伝わってきました。
そんな「楽しい」研究について、講演ではその内容も紹介してくれました。井上さんの在籍する「多元数理科学研究科」とは、主に数学の研究を行う、日本でも有数の数学中心の研究科です。東大・京大など一流大学出身者も多数いるそうで、日々たくさんの刺激を受けて研究に励んでいる様子が伺えます。
特に井上さんが研究されているのは、皆さんもなじみの深い「素数」についてです。素数とは、2、3、5、7・・・など、それ以上割り切ることのできない数字です。その数字は規則性がない並びに見え、まだまだ分からないことも多くあります。しかしその「分からなさ」こそが、井上さんにとって素数の最大の魅力。すべての自然数を構成するのは素数、だからこそ素数を理解することですべての数について理解できるのではないか、と期待しているそうです。
そして素数の魅力をより分かりやすく、RSA暗号という例を示し紹介してくれました。大きな数を素因数分解するには最新のコンピュータを使っても莫大な時間がかかることから、ある数を暗号とし、それを解くためのキーをその数の素数とする仕組みがあります。それがRSA暗号で、現代の私たちのセキュリティ技術に大きく関わっているとのことです。ほかにも、ゼータ関数を用いた素数の研究・リーマン予想など、その研究の奥深さが伺える難解な例も交え、「素数には何かまだ人類が見つけていない大きな謎が隠されているのではないか、その謎を追い求めて日々研究している」と、井上さんは力強く語られていました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、三野准教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
三野准教授の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に深く切り込んだ内容の質問が寄せられました。
Q.電子の動きがわかれば細胞のたんぱく質の働きもわかるということですか?
A.電子そのものが動くのではなく、物質の中に電子が入って物質の性質がわかります。たんぱく質の中に電子が含まれるというのは、物質化学の意味で物質の状態を決めるのが電子で、電子単独で動いているということではありません。
Q.光合成で酸素の問題点と水の問題点を詳しく教えてください。
A.光の光化学反応は1光子1量子なので酸素を出すためには4つ電子がいります。酸素は特殊で、4回粒がいるため、1回では足りないということが問題点です。
Q.MRIの原理はマイクロ波をあててそのスピンエコーを画像化しているのですか?
A.MRIの画像は頭の中ですが、磁石の中で揺らしてスピン振動の仕方が違うのでそれをいっぺんに画像化しています。
大学院生の懇談会では、大学院生お二人の専門分野に関するものや将来についてなど、さまざまな質問が挙がりました。
特に将来についての質問は多く、「卒業後の進路」、「取得できる資格」などについて、受験生だけでなく保護者の方からも質問されていたのが印象的でした。就職に関する質問についてお二人は、「たしかに研究それ自体が職につながることは難しいかもしれない」としつつも、「研究をする過程で身に着けたプログラミングの技術や、英語をはじめとする語学力が職に生きることがある」と説明されていました。お二人自身は、それぞれ「研究を続け教授になる」、「企業への就職も含め社会に貢献できる進路を探したい」と答えられていました。特に「海外では、博士課程を経て企業へ就職するのも一般的であり、日本も少しずつそうなっているので、研究を続ける以外の道も視野に入れたい」という回答には、参加者もそうだったのかと深くうなずく様子が見られました。
参加者の皆さんにとっては名古屋大学理学部での研究や生活を身近に感じることができた、大変有意義な時間となりました。