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河合塾>体験授業・イベント>知の追求講座 第2弾 東工大教授による講演

東工大教授による講演「創薬の過去、現在、未来」2015年度 東工大 知の追求講座 第2弾

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日時

2015年6月20日(土)15:00~17:00

会場

河合塾新宿校

対象者・参加者 河合塾 大学受験科・高校グリーンコース 東工大志望者

「東工大 知の追求講座」とは

東工大入試で求められる本質的な学力を育み、知的領域を拡げる場として、“知の追求”と銘打ち開講された特別講座です。東工大での学びや、その先までをも見据え、東工大が求める人材の養成をめざします。

<講演者>

山口 雄輝 (やまぐち ゆうき) 教授

山口 雄輝 (やまぐち ゆうき) 教授
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻

1995年東京工業大学生命理工学部卒業。1999年同大学大学院生命理工学研究科修了(工学博士)。2013年より現職。一般向けの著書に「科学英語論文の赤ペン添削講座」(羊土社)、「基礎からしっかり学ぶ生化学」(羊土社)などがある。

東工大教授による講演「創薬の過去、現在、未来」

東工大教授による講演「創薬の過去、現在、未来」

今回の「東工大 知の追求講座」は、東工大の生命理工学部に1期生として入学し、現在は教授として教育・研究に携わっていらっしゃる山口雄輝・東京工業大学教授をお迎えし、ご自身の研究テーマを含めて“創薬”をテーマにご講演いただきました。
現代の創薬はビッグビジネスになり、開発に巨額の費用がかかるようになってしまったことから、膨大な化合物の中から薬の種になりそうな物質を探索していく従来の方法ではなく、合理的に薬をデザインしていくことの重要性などについて解説いただきました。
また、「生命とは何か」という根源的な問いに迫るために、物理や化学の知識が不可欠なこと、だからこそ東工大の生命理工学部では物理と化学を課す入試が中心になっているが、多様な学生を受け入れるため生物で受験できるAO入試を拡充させることなどの話題も交えながら、次年度からの東工大の新しい教育システムについてもご紹介いただきました。

数千年の歴史を持つ薬でも、作用メカニズムは未解明

最初に取り上げられたのは、現代の製薬企業が薬を開発する仕組みです。どの製薬会社も何百万種類もの膨大な化合物ライブラリーを持っており、その中身はトップシークレットだといいます。そして、そのライブラリーの中から薬になりそうなシード化合物(リード化合物)を探索し、構造を最適化したうえで、一般毒性試験や動物実験などで安全性のチェックを行う「前期臨床試験」を行ったあと、「臨床試験」へと進むのが一般的だそうです。
臨床試験は、健常者が対象のフェーズⅠ、比較的軽症な少数の患者が対象のフェーズⅡ、多数の患者が対象のフェーズⅢと進んでいきますが、必ずプラシーボ(効く成分の入っていない偽薬)での検証を行うといいます。
「実は、プラシーボは非常に効果があります。ですから開発した薬が新薬として承認されるためには、非常によく効くプラシーボを打ち破る成績を残さなければなりません。明らかに有意な差があることを示すには、大量のサンプル数が必要なため、それが新薬開発の膨大なコストにつながっていくのです」と、山口先生は説明します。そして、現在の製薬企業が年商1千億円以上の爆発的な利益を生み出す「ブロックバスター薬」に依存していることや、その開発費が年商の14~20%も占めること、さらに特許が切れてジェネリック薬品が登場すると利益が激減するために、製薬会社の合併が相次いだことなど、創薬をめぐる現状について詳しく触れられました。
過去にさかのぼれば、ネアンデルタール人がハーブの薬効を知っていた証拠があり、メソポタミア時代から柳の樹皮に解熱鎮静作用があることが知られていたそうですが、そこから長い時間をかけて人類は天然物から有効成分を単離して、化学合成で薬を作るようになったといいます。柳の樹皮の中にはサルチル酸があり、その効果をさらに高めたのがアスピリンですが、山口先生は「こうした数千年の歴史がある薬でも、実は、体のなかでどう働いているのか未だに解明されていないのです」と話され、未来の創薬は、これまでのような場当たり的な探索から、より合理的に薬をデザインするような効率的な創薬へと脱却していくのではないかと、予想されました。

サリドマイドの作用メカニズムを突き止め、抗がん剤につなげる

サリドマイドの作用メカニズムを突き止め、抗がん剤につなげる
続いて、ご自身のサリドマイドの研究を紹介されました。サリドマイドは、睡眠薬として開発されましたが、胎児が奇形を起こすことがわかり、発売後数年で販売停止になりました。しかし、最近では、ハンセン病やがんの一種である多発性骨髄腫などの難治性の病気に高い治療効果があることが分かってきました。
「ただ、なぜサリドマイドが胎児に奇形を起こさせるのかまったく分かっていなかったのです。そこで2006年くらいから研究を始め、CRBNというタンパク質の存在を突き止めました。CRBNは、不要な細胞を分解する系に関わるもので、それが阻害されることで本来分解されるはずのタンパク質が分解されずに、奇形が生じることがわかったのです」
この研究結果は2010年にサイエンス誌に掲載され、世界中から注目を集めました。山口先生はその研究について、「ちょっと難しいかもしれませんが」と前置きしながらも、写真や図解を使って、丁寧に順序立てて説明してくださいました。仮説を検証していく研究プロセスの一端に触れるお話に、参加者も興味深そうに聞き入っていました。
その後、サリドマイドには物理的・化学的な性質は同じで、生体分子に対して作用が異なる光学異性体があり、その一方がCRBNと結合しやすいこと、CRBNは抗がん作用とも関係し得ることなどを解明したといいます。山口先生は「今後は、サリドマイドとCRBNの構造的な基盤を明らかにすると同時に、CRBNを阻害するとどんなメカニズムで奇形が生まれるのかという“下流経路”を解明し、抗がん作用と、奇形を起こす作用を切り分けるような研究をしてみたいと思います」と抱負を語られました。

「還元主義」を越え、システムバイオロジーの世界へ

終盤、テーマは大きく広がりました。
「生命とは何でしょう」。山口先生は参加者にこう問いかけたあと、物理学者シュレディンガーが、その著書で「生命は負のエントロピーを食べる」存在だと記したことを紹介し、ここから「生命は分子機械である」という認識が芽生え、物理学者や化学者が生命科学の研究に一気になだれ込んできたといいます。そして、機械ならば、単純な構造に分解して調べれば全体が理解できるという「還元主義」の考え方が、生命科学に導入されていくことになります。
「一方で、複雑なものを複雑なまま理解しようというシステムバイオロジーの考え方もあります。脳の神経細胞の働きが分かっても、感情や思考といった高次機能が説明できないことから考えても、還元主義的なアプローチには限界があることは確かです。最近ではテクノロジーの発達によって、複雑な遺伝子の働きを複雑なまま理解できるような技術も開発されており、システムバイオロジー的な理解が進みつつあります」と、生命研究の潮流を紹介してくれました。
最後に、「どうしたら生命を完全に理解したことになるのか」と、山口先生は再び参加者に問いました。会場からの「自分で組み立てることができる」との答えに頷き、今後の生命科学は、「合成生物」の方向をめざしていくことになると思うと述べられました。

質疑応答では、薬学部の創薬学科との違いや、大学と企業の研究の違い、創薬技術の可能性など、かなり突っ込んだ質問が寄せられ、専門的な話にまで発展しました。

最後に参加者に向けて、「医学部や薬学部は、臨床の専門家の育成に力を入れる傾向が強くなっているので、生命の研究をやりたいなら、生命理工学部をお勧めします」と笑顔で締め括られました。