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河合塾>体験授業・イベント>知の追求講座 第4弾 東大教授による講演

東大教授による講演
「ゲーム理論がおもしろい」
2015年度 東大 知の追求講座 第4弾

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日時

2015年7月4日(土)14:00~16:00

会場

河合塾本郷校<東大専門特化校舎>

対象者・参加者 河合塾 大学受験科 東大コース生(高卒生)

「東大 知の追求講座」とは

東大入試で求められる本質的な学力を育み、知的領域を拡げる場として、“知の追求”と銘打ち開講された特別講座です。東大での学びや、その先までをも見据え、東大が求める人材の養成をめざします。

<講演者>

松井 彰彦 (まつい あきひこ) 教授

松井 彰彦 (まつい あきひこ) 教授
東京大学 大学院経済学研究科

立教英国学院初等部卒業、区立東山中学校卒業、私立開成高校卒業、東京大学理科一類入学、同大学経済学部進学、ノースウェスタン大学留学(Ph.D.)、ペンシルバニア大学経済学部助教授、筑波大学社会工学系助教授を経て、2002年より現職。専門はゲーム理論、貨幣理論、障害と経済。著書は『習慣と規範の経済学』(東洋経済新報社)、『市場の中の女子』(PHP研究所)、『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)など多数。

東大教授による講演 「ゲーム理論がおもしろい」の概要

東大教授による講演 「ゲーム理論がおもしろい」の概要

今回の「東大 知の追求講座」は、人類の学問研究のフロンティアと言われる人間関係を科学する「ゲーム理論」です。その第一人者である松井彰彦・東京大学大学院教授をお迎えし、東大での「ゲーム理論」の初回講義を中心に分かりやすくご講演いただきました。その内容は、松井教授が「ゲーム理論」に至った経緯、経済学への系譜と高校と大学での経済学の学び方の違い、そして「ゲーム理論」の黎明期から発展期、現代社会での実用に及ぶものでした。
「ゲーム理論」の創始者たちは、スポーツから恋愛まで、全ての人間関係をいきなり筋道を立てて考えることの難しさを理解し、勝ち負けのあるゲームなら分析しやすいかもしれないと考え、約70年前に生まれたての学問に「ゲーム理論」という名前を付けたそうです。以来、その多様なテーマとユニークな視点で発展を遂げている「ゲーム理論」。松井教授の講義は、おもしろくその本質に誘うものでした。

天文気象好きの物理少年が「ゲーム理論」に魅せられたわけ

講義に先立ち、松井教授の自己紹介を通して、「ゲーム理論」が文理の枠を超えた魅力を持つ学問分野であることが語られました。もともと天文気象好きの物理少年だったという松井教授は、自然な流れで理科一類に入ったそうです。入学後、東大駒場時代(前期課程)に環境問題から人間社会に関心を持つようになり、進学振分けで経済学部に転じました。しかし、そこは物理少年だけに、経済学でもファウンデーショナルなことがやりたいと、「ゲーム理論」の世界へ足を踏み入れました。
「それなら物理学科に行くべきだったんじゃないか?」と友人や学生によく言われるそうですが、「いえ、違います」と自信をもって答えるそうです。その理由は、18世紀のイギリスの哲学者デイヴィッド・ヒュームの言葉です。「数学、自然哲学、自然宗教もある意味で、人間の科学(science of MAN)に依拠している。なぜなら、これらの学問は人間の認識下に置かれ、人間の能力によって判断されるからである。…そうだとすれば、人間本性とより密接につながっている科学分野においては、何をかいわんや、である」と。
松井教授によれば、実際にヒュームは近代物理学の祖ニュートンから影響を受け、そのヒューム自身も経済学の祖アダム・スミスや現代物理学の巨頭アインシュタインに強い影響を与えたと言います。「ゲーム理論」の背景には、文理の枠を超えた実にダイナミックな「経済学への系譜」があるようで、聴講する文系理系の志望者ともに強く興味を惹かれるものでした。

経済学とは、ずばり“人間の科学”。「ゲーム理論」は女心の科学から?

経済学とは、ずばり“人間の科学”。「ゲーム理論」は女心の科学から?

「では、経済学とは何か?」 、松井教授は「ずばり “人間の科学”」だと答えます。それも、“ものの見方”や“社会の見方”だと言います。それを端的に言い表したのが、アダム・スミスの『道徳情操論』の「人間社会という巨大なチェス盤においては、おのおののコマがそれ自身の行動原理に従う。(中略)もしこれらの原理が合致するならば人間社会というゲームはたやすく調和的に進行し、幸福で成功するものとなるであろう。他方、これらの原理がうまく合致しないと、ゲームは惨めなものとなり、社会には無秩序状態が訪れるであろう」という一節です。この言葉には、人間社会を巨大なチェス盤になぞらえ一種のゲームだと捉えた、経済学のエッセンスと言える重要なポイントが含まれているそうです。
いよいよ、講義は「ゲーム理論」に迫ってきました。おもしろいことに、“女心と秋の空”のことわざから話は展開しました。“秋の空”を“物質の科学”である気象学で予想できるように、恋愛で揺れる“女心”を“人間の科学”で読むことができるか、という問題です。「ゲーム理論はまさにそういう問題から始まりました。“人間の科学”はつくれるのか、人間関係は科学の対象として成り立つのか。ポイントは『科学』ですから、そうした人間関係を外から客観的に見ます。それが“人間の科学”としてのゲーム理論の始まりです」と松井教授は解説します。ただ残念なことに、人と人が堂々巡りで複雑に心を読み合う恋愛問題は最難関で、まだまだ読めないそうです。しかし、何もできないかというと、そうではないようです。

「ゲーム理論」の黎明期から発展期、そして実用に向けて

そこで松井教授は、ジャンケンとチキン・ゲームの2つのゲームを例に挙げ、「ゲーム理論」の黎明期と発展期を分かりやすく説明されました。
ジャンケンを2人でするとき、勝ちが1点、負けが-1点、あいこが0点として利得表(経済学での得点表)にします。すると必ず(-1,1)(1,-1)(0,0)の結果になり、どの結果でも2人の得点を合わせると0になります。これをゼロサム・ゲームと呼ぶそうです。これは人間関係で言えば綱引きのようなもので、勝った方が得をし、負けた方が損をするというゲームです。この分かりやすい人間関係の状況の分析から「ゲーム理論」の黎明期は始まったそうです。
しかし、実際の人間社会は複雑で、たとえば細い糸で強引に綱引きをすると糸が切れて元も子も無くなるような事態が起きます。これをゲームにたとえたのがチキン・ゲームです。使う手は妥協と強引で、弱気(弱虫=チキン)であれば妥協を選び、強気であれば強引を選びます。たとえば相手が強引に来れば自分は妥協せざるを得ず、両方が強引にいったら最悪の結果を招きます。このゲームを利得表で表すと、各欄の利得(得点)を足してもゼロにならないので、ノンゼロサム・ゲームと呼ぶそうです。このゲームは、ジャンケンのように組み合わせ全部が均等に安定的になるのではなく、「強引・妥協」と「妥協・強引」の2つの組み合わせが安定的になります。この安定を提唱者の名をとって「ナッシュ均衡」と呼ぶそうです。「ナッシュ均衡」の登場によって「ゲーム理論」は「社会のいろいろなところで、ゲームと同じような構造が当てはまる」ということで、分析手法のひとつとして用いられるようになり、発展期を迎えました。
そこで登場したのが、米ソ冷戦期の軍縮・軍拡の分析でよく使われた「囚人のジレンマ」という手法です。2人の共犯者を別室で取り調べると、両者は黙秘するより、疑心暗鬼に陥り両者とも自白に向かう(均衡に向かう)というもので、米ソで言えば疑心暗鬼の末に軍拡に向かうというものです。
この「囚人のジレンマ」のゲーム構造を経済行政に応用したのが、松井教授が制度設計にかかわった「リニエンシー制度」という談合を抑制する課徴金制度です。従来の制度では両者とも談合を通報しないことが利得なので、黙秘が均衡となり談合の抑制は進みませんでした。それを、通報することに減免措置というインセンティブを与えることによって「囚人のジレンマ」の自白に向かうのと同じ構造をつくり出し、両者とも通報することを均衡にし、談合の通報を増やしたのです。制度を変えると人々の行動も変わるだろうと、「ゲーム理論」で科学的に予測して見事に成功したそうです。
こうして、人間関係を科学する「ゲーム理論」の本質に触れることができた河合塾生たちからは、リニエンシー制度の問題点や軍事利用への危惧、心理学や社会学との学問的相違など、別の視点からの「ゲーム理論」の解説を引き出す質問が相次ぎ、講義は最後まで活気に満ちたものとなりました。

*今回の講義内容をさらに詳しく知りたい人には、松井彰彦教授の著書『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)がお薦めです。