
東日本大震災からちょうど1年にあたる3月11日、MEPLO渋谷教室で「時代が求めるグローバルリーダーとは?〜今から始める英語教育法から」と題した特別講演会が開かれました。少子高齢化の進行、日本市場の縮小など、日本を取り巻く環境は厳しい状況にあります。子どもたちが生きる未来とは、世界の中で日本が果たすべき役割とは、そしてそのために必要な英語力とは――世界を舞台にご活躍の福原氏と、河合塾英語講師として多くの生徒を東大に送り出している関戸先生の対談から、新しい時代の成功方程式と、その基礎となる英語力の修得について探ってみましょう。
Institution for a Global Society株式会社 代表取締役
福原 正大 氏
慶應義塾高校、慶應義塾大学経済学部卒業。
INSEADにてMBA、グランゼコールHECにて国際金融修士取得、筑波大学大学院企業科学博士課程修了(経営学博士)。1992年(株)東京銀行入行、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(株)入社。最年少Managing Director、日本法人取締役を経て、2010年グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(株)設立。著書に『厳しい時代を乗り越える 強いリーダーがするべき88のこと』(明日香出版)などがある。
MEPLO 英語科教師
関戸 雅嗣 氏
河合塾英語学科講師。大学受験科・高校グリーンコース・東大現役進学塾MEPLOを担当。中高一貫生を対象としたMEPLOでは、授業のほかに教材開発も担当。「楽しく勉強しよう」をモットーに、厳しいながらも気さくで親身な指導が信条で、生徒から厚い信頼を得ている。河合塾仙台校にも出講、震災に直面した多くの生徒を指導、心のケアにも努めている。
――本日は、お集まりいただきありがとうございました。毎年3月10日は、東京大学前期日程の発表日です。今年は89名が合格(2012年3月10日現在)。去年の前期日程合格者は75名、後期日程もありますから、今後さらに合格者が増えることでしょう。去年の3月10日も発表日で、多くの子どもたちが喜びの声を伝えに教室に来てくれました。そしてその翌日、3月11日午後2時46分に地震が起きました。その時、今年の入試を戦った受験生の数名は自習をしており、朝までみんなで語り明かしたことを覚えています。震災の影響はまだまだ色濃く残っており、被害に遭われた方は本当に大変だったことでしょう。首都圏にいる我々も、1年間地震におびえながらやってきたというのが現実です。そんな厳しい状況の中、力強く立ち上がってくれたMEPLO生であったと理解しています。
本日の講演者の一人、関戸先生は仙台にも出講しています。この1年間のさまざまな思いをお聞かせください。
関戸 私は仙台で、現役生、浪人生を含め述べ300〜400人を担当しました。接していて、生徒たちは明らかに明るさが違いました。一人ひとり表面的には立ち直りつつあるものの、話してみると受けたショックには根深いものがありますし、人生観も変わっていることでしょう。近い将来、首都圏でも大地震が起こると言われていますが、その時に子どもたちをしっかりとケアし、支えていくのは我々だと強く思っています。震災を教訓に、しっかりとした心構えを持って日々暮らしていかなければと思っています。
――震災はいろいろなことを考えさせてくれました。我々、そして子どもたちに、「何が自分にできるのか」「人のために何かしなければいけないのではないか」という気持ちが芽生えたのも事実だと思います。「日本を良くするために、何か一歩踏み出さなければならないのではないか」ということを含め、今日の講演会を進めたいと思います。
本日のテーマは「時代が求めるグローバルリーダーとは?〜今から始める英語学習法〜」。グローバルリーダーという言葉は、ここ数年声高に叫ばれるようになりました。今年に入ってからも、文部科学省がグローバルリーダー養成大学院構想を発表。また大阪の府立高校10校が、京都大学とコラボし「グローバルリーダーを養成するために高校生から何かできないか」というトライアルを始めると聞いています。グローバルリーダーについて日本でもNo.1の情報量を持ち、積極的にアクションを起こされている福原先生、河合塾で授業はもちろん教材開発を担当している関戸先生のお話から、改めてグローバルリーダーとは何か? を考えてみましょう。
まずは福原先生からお願いします。
福原 只今ご紹介いただいた福原です。3月11日にこのような話をすることに、特別な気持ちを持っています。先週1週間、ラジオに出演し「震災を経て日本は今後、どういう方向に進んでいかなければならないか」という話をしました。今日の話もまさにそこがポイントになると思います。次世代を担う子どもたちは、震災を乗り越え、さらに先に進んでいかなければなりません。その時、これまでの教育だけでは不十分な可能性がある。10年、20年後がどういう時代になるか、そのために今から何を行っていかなければないかということを、これからお話ししたいと思います。
まず経済的背景から。現在中国が年7%、8%の経済成長を達成して話題になっていますが、日本は戦後40年以上、年平均7.1%の成長を達成してきました。これはディベロッピングカントリー=これから発展していく国が、欧米的な成熟した社会をめざすキャッチアップ過程であったのだと思います。そうした時代、東大を中心とした卒業生が官僚になり、日本を大きな方向性で導くという日本の成功モデルがあり、日本社会で"東大"が一人歩きしてきた原因になったと思います。
ただ、これがうまくいっていたのは1991年、バブルがはじける頃までです。1992年から2011年、"失われた20年"と言われる時代の年平均経済成長率は、わずかに0.9%。1991年2.1%だった失業率は、2011年12月には4.6%まで上がっています。2.1%というのは、日本の大学を出ていれば当然のように就職先があったことを意味します。東大はもちろん早慶、MARCHでも十二分に行き先がありました。一方4.6%は、若年層に限れば10%近く。早慶の学生ですら思うような会社に就職できず、東大生でも行き先がなく、"逃げ"の大学院生が目立つという時代です。昔とはいかに状況が変わってきているのがおわかりでしょう。

福原 今中学生、高校生の子どもたちが大人になり、社会で活躍する時代は10年、20年後。その時、日本の経済状況は残念ながらより厳しくなると考えられます。理由の一つは経済の頭打ち。経済は供給と需要のバランスで成り立っており、供給サイドからの制約条件により経済成長が限られてくるのです。まず労働人口の減少が、経済成長に対してマイナスの影響をもたらします。2番目が資本。ジャパンパッシングが進み、アジアへの世界の目は中国に向かっています。最後は生産性の上昇。今までの日本のよりどころであり、生産性をどう上げるかが考えられてきました。しかし製造業、ものづくりという点で考えると、今の時点ですでに日本の生産性が高いので、これ以上上げていくのは厳しい。加えて膨大な経済債務、財政赤字、さらに昨年の貿易収支統計で2兆4927億円の赤字。こうした大きな重しを背負いながら、これからの子どもは活躍していかなければなりません。この厳しい環境を抜け出す一つの方法として、「グローバル化」が叫ばれているのだと私なりに認識しています。
福原 今、何故グローバル化なのかについてご説明しましょう。日本の教育は、世界トップレベルであることは間違いありません。ですが、世界を100人とすると日本人は2人。つまりグローバル人材でなければ、残りの98人に対応できなくなってしまうのです。
昔の日本はものづくりという強みがあり、いいものを作れば言葉を介さなくても世界で通用しました。しかしものづくりの中心が中国・インドに移り、サービス産業が重要になっている現在、100人に対応するためには言語が重要ですし、彼らと同レベルの高い理論力を駆使し、新しいものを作り出していく力が必要になってきます。経済環境から、グローバル人材が求められているのです。
これまでの成功方程式、日本の有名大学から官僚、大企業、士業に入っていれば大丈夫だというのは、日本が成長している時であれば世界でも通用しました。しかし今後、日本のマーケットの魅力度が低下し、経済が厳しくなってくると、世界の有名大学を出て世界の大企業をめざすというように、目標を変える必要があると私は思っています。もちろん世界の有名大学の中に、東大が入って当然だと思いますし、早慶、京大でもいいでしょう。ただ重要なのは、最初からそこを頂点と考えるのではなく、先に「世界でどう活躍したいのか」を考え、その上で東大がいいのか、あるいは海外の大学がいいのかを考える時代に来ているのではないかと思っています。
福原 先ほど文科省の取り組みの話がありましたが、私もメンバーとしていろいろと参加しています。そこで元国連事務次長・明石さんや元国連大使・大島さんなどと話していると、「世界で活躍する日本人人材が極端に少ない」との声をよくうかがいます。また昨年、東大卒のエリートの大きな進出先の一つ、新日鉄が合併を発表しましたが、会見で社長が一言目に口にしたのが「自社だけではグローバル化を担う人材が不十分」でした。東大に入って新日鉄に行けばいい、東大に入って官僚になればいいという図式だけでは、グローバル社会に対応できなくなっていることが、この発言からも読み取れるのではないかと思います。
今、東大の9月入学検討に対し、いろいろな意見が出ています。海外からの留学生を呼び込むためなどの表面的な議論はさておき、根っこにあるのは「このままいくと、東京大学は世界の中で埋没してしまう」という危機感です。世界との競争に東大が入ることを明確に表明する。直近の世界大学ランキングで東大は25位ですが、潜在的な力は十二分に持っています。9月入学で世界の競争に入って行き、学生・教員のレベルを上げ、順位をトップに戻したい。そんな意識の現れが世界人材の育成。ようやく日本もグローバル対応に走り出したのです。
東大が動くことにより、秋入学検討を表明している11大学、そして日本の多くの大学がグローバル対応を考え始めます。しかし韓国、中国、シンガポールなどの国がどんどん先を走っています。これからどのくらいキャッチアップできるかは、中学生から「グローバル人材になるにはどんなことを学ばなければいけないのか」「そのためにはどんな大学に行かなければいけないのか」を考える時代に、そして中学・高校での学びにおいても、グローバル人材になるには何をしなければならないか」を考えないといけない時代になってきました。
――グローバルリーダーはいつ頃から意識されるようになったのでしょう。
福原 日本で言われ始めたのはここ数年ですね。それまでは世界のリーダーでなくても、日本のリーダーになり得た。でもそれは日本が世界で注目され、世界第二の経済大国であった時のことです。先ほど申し上げた供給制約により、2050年に日本が世界7、8位になることは不可避です。そうなってくると、日本のリーダー=世界のリーダーにはなかなかなれません。先日のG20で、日本の顔である首相が後ろの列の一番端で、誰とも話さない様子を見て、日本の国益は守られていないと痛感しました。私がいたバークレーでも、2000年頃までは日本オフィスが注目されていましたが、より経済成長を遂げている中国、インドネシアに周りの興味が移っています。このままでは世界に相手にされなくなってしまう。日本が再度注目されるためにはグローバル人材を増やす必要がありますね。
――高度成長時代、日本が世界のトップになろうという力学があり、大学進学率があがった。しかし国際化は進みませんでしたよね。
福原 私は最初東京銀行に入行したのですが、入ってがっかりしたのは、国際化といっても海外に出て行く商社、日本企業などが相手。全くグローバルな仕事はできませんでした。
――日本が造船や車でNo.1になる。そしてアメリカを攻めようとすると規制がかかる。パワーバランスが弱くなっているのが現実ですよね。
福原 製造業もそうですし、スポーツの世界もそうです。世界標準のルールを決める時に発言できず、海外のルールに引っ張られてしまう。スキー、柔道…結局日本には不利な世界標準ルールができる。自分から発言していかないと、この状況は変えられないですね。
福原 グローバルリーダーが持つべき能力をいくつか上げてみましょう(表1参照)。東大生を指導していると、基礎力はしっかり身についていることに気づきます。昨年授業を行ったスタンフォード大、UCバークレー校と比べても、基礎力では負けていません。これは中学・高校でしっかり勉強し受験をクリアしてきているため、数学や理科、社会などの基礎知識が身についているのだと思います。英語についても、一部の学生、受験勉強プラスαの勉強をしてきた生徒は、コミュニケーション英語を少し教えれば、世界レベルにまでキャッチアップする力を持っています。ところが英語は話せるものの世界の多様性に意識が向かなかったり、英語を使ってコミュニケーションを図ることに慣れていない子どもたちが多いという印象を受けます。
あるいは、高校までの勉強の反動からか、せっかく2年間の教養課程があるのに一生懸命勉強しない。これは東大側にも問題があります。たとえばハーバード大の教養課程の授業は、大教室で行われるだけではありません。授業の前に膨大な量のリーディングアサインメントが与えられ、学生はそれを読んでから講義に臨みます。そして講義後、少人数のグループにティーチャーズ・アシスタントがつき、徹底的に議論する。つまり1つの教養科目が、1対多の講義と1対少の議論、個人勉強で構成されているのです。これがハーバード大学やアメリカのリベラルアーツ系のトップ大学の特徴ですが、日本はそうではないので、なかなか学生が教養に興味を持てない。専門課程の勉強しかできていないため、将来グローバルの場で、教養レベルの議論についていけないのが、大きな問題だと思います。
もう一つ、私も海外の大学院で学びましたが、私自身を含め同級生たちが、日本の文化を知らないことを痛感しました。海外での通常会話では、彼らは"私"個人でなくまず"日本人"と見ます。そして日本について質問してくるのですが、知識がないため発言できないでいると、彼らは「英語も100%に話せないうえに日本のこともわからないような人間とは、友達になっても仕方ない」と見なし、なかなか友達になってくれません。海外で活躍するためには、日本を徹底的に知ることが必要ですね。
東大生にも同じことが言えます。学生と接していて感じるのは、想像力がやや乏しいこと。これは1つの解を求める訓練ばかりされてきたため、解が複数あることに慣れていないからでしょう。また、英語力の問題もあると思いますが、優秀な子が海外に出た瞬間に自信をなくし、壁の花になってしまう。非常に残念だと思います。彼らが自分に対する自信、たとえば日本の文化を十分理解し、発信する訓練を受けていれば、こんな状況には陥らないでしょう。早い時期、感受性の強い中学生のうちから、自己発信、文化理解といった訓練をしておくといいのではないでしょうか。

福原 グローバルリーダーになるには、中学・高校で全く違う勉強をするということではありません。今の勉強の延長線上を考えればいいと私は考えています(表2参照)。基礎力の重要性は変わりませんから、ここで言う「学校の成績は上位をキープする」は当たり前。そして大学入試対応力として、目的を決めて達成することに力を入れて欲しい。世界という厳しい競争社会に出て行くことを考えれば、塾で徹底的に鍛えられることはその子にとって大きなプラスだと思います。
2番目の「部活やボランティア、感性を高める様々な経験を積む」は、社会との接点を持つこと。日本の高校生にはなかなか大変だと思いますが、ぜひチャレンジして欲しい。アメリカの中高生は、早い段階から社会との接点を付けることに慣れていますからね。また「世界で活躍している人と出来るだけ多く会う」ことも大切です。日本から出たことのない人の話ばかりを聞いていれば、世界に出るという発想はなかなか思いつきません。日本を飛び出した人たちと話す機会を持つことは、メンタル・ブロックを早い段階で壊すことにもつながると思います。
最後の「世界標準英語力を手に入れる」について。よく日本の学生はあまり英語を話せないと言われますが、日本の英語教育に問題があるかというと、私は違うと思います。日本の英語教育では文法をしっかり学ぶので、将来世界で活躍する時のために正しい文章を書くとか、長い文章をしっかり読むための力になります。リスニング力も最近力を入れている。唯一足りないのはスピーキングです。学校の授業で時間を割いていない分、家庭で対応していけば、しっかりとしたベースの上に世界レベルの英語力が培えると思います。そして高校2、3年になった時点で、東大だけでなく世界の大学に入れるだけの力を身につけて欲しい。たとえばハーバード大に入れる学生なら、東大にも入れます。両方をねらえるような教育を中学1、2年生からやることが大切だと思います。

福原 学校の勉強以外の部分にTOEFL iBT、SATがあります。TOEFLはリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングの4技能を満遍なく学ぶテストです。東大の入試にはスピーキングがありませんが、実はTOEICにもありません。社会的に重要視されているTOEICで900点を超えても英語は話せませんし、スピーキングセクションがあるTOEFL iBTでは日本のスピーキング技能は世界最下位です。早い段階でスピーキング力を身につける必要がありますね。
一方のSATは、アメリカにおける日本のセンター試験にあたる試験。Reasoning TestとSubject Testがあり、上位校ではSubject Testの受験が必要です。Reasoning Testは大きく3つに分かれていて、クリティカルリーディング力、ライティング力、簡単な数学力が各800点、2400点満点で評価されます。このうち数学は、東大入学レベルなら少し勉強すれば800点満点取れます。ライティング力はやや手強いですが、夏休みなどを利用し1日12時間、2カ月くらい集中して勉強すればかなり高い点数が取れると思います。ただ、どんなに勉強してもなかなか得点が伸びないのがクリティカルリーディング力です。日本の大学院レベルの学生でもわからない単語が多く、東大入学レベルの生徒ではほとんど歯が立ちません。中1くらいからよほど特殊な勉強をやっていないと難しいでしょう。
一方のSubject Testは、日本の入試のような科目ごとの習熟度テスト。数学TかU、物理を受験するのが一般的ですが、少し英語を勉強すれば数学は満点に近い点数が取れますし、物理も単語量を身につければ、かなり高い点数が取れるでしょう。東大対策をしっかりやり、中学・高校で足りない部分を補完的に学んでいければ、東大、世界の名門大学に合格する力は十分身につけられるのです。
福原 ここから関戸先生に、どういうような英語教育が必要なのかというお話をうかがいたいと思います。
関戸 MEPLOの教育の特徴は知のサイクルの体得。「学ぶという行為」「学ぶことによって修得される行為」「それを論理として築き上げていく行為」。MEPLOの語源である3つの力の連関をめざしています。
具体的に東大の英語対策をお話するため、ここに入試問題を持ってきました。2008年のものですが、今年度も形はほぼ変わっていません。構成は大きく5つから成っています。第1問は要約とパラグラフ整序。段落を組み替えるものです。先ほど福原先生がおっしゃっていたクリティカルリーディングにあたるもので、論理的に考え、読んでいく。たとえば問1-Aは、300単語くらいの文章を読み、70〜80語の日本語で要約。所要時間は10〜15分くらいです。この文章で大事な要素を拾っていくと150語くらいになるのですが、論理の流れを理解し、内容を組み替えて短くまとめる力が必要です。今年の入試でも80語で要旨をまとめる出題がありました。いろんな要素を取捨選択し、論理の筋を通して書く、こうしたハードルの高い出題に対応できるよう、MEPLOでは中1から取り組んでいます。
2番目の出題が英作文。問2-Bは「今後50年間で起こる交通手段の変化を書きなさい」。これも10〜15分くらいで解答します。他にも2005年の前期問題では、絵を見て30〜40語くらいで説明するという出題がありました。他にもUFOの絵やグラフを見て答える問題などがこれまで出題されています。少しうがった見方かもしれませんが、こうした出題は書面の上でスピーキング能力を少しでも聞きたいという努力の現れだと思っています。5分や10分で構成を練るのは難しいので、見た時に出てきた台詞を語るがごとく話す。グラフを見て答える問題では、大局的な流れを理解する。いずれも訓練が必要ですね。
面白かったのは、「今まで生きてきた人生の中で、最大の決断を下した時は何ですか?その時の決断によってどういう影響が起こりましたか」という設問でした。MEPLOでは高3になると、入試直前期に過去問添削を行っています。この問題に対し、ほとんどの生徒が「最大の決断」は「中学校受験で受験校を決めたこと」と書いてきました。しかしその理由が薄っぺらなんです。自分で選んだのではないので、保護者や周りの方の意見を参考にした、と書くしかできないわけですね。これまでの自分の生き方を振り返っても、自分で決めたことが見つからない。先ほど福原先生の言われた「東大を出て世界に出て行った時に、壁の花になってしまう」に通じる問題だと思います。

関戸 3番目がリスニング。所要時間は30分、採点では120点満点中30点。かなりウエイトが高いですね。そして4番目の正誤和訳は、日本語の完成度を聞く問題。下線部を和訳するのですが、文脈に応じて訳さなければなりません。単語帳・単語集で覚えた訳ではなく、母国語として違和感がないかを聞きたいのだと思います。たとえばここに"implications"という単語があります。普通は「含蓄」などと訳しますが、この文脈だと「影響力」とした方がしっくりくる。東大の出題には、4スキルズをできる限り見ようという意図が見えますね。
さて今年の前期試験を終えた生徒に話を聞いたところ、リスニングの3問目で、3人の登場人物の対話が課されたそうです。登場人物の3人目はインド系のネイティブスピーカーで、話を聞いた生徒5〜6人全員が「全然聞き取れなかった」と言っていました。これを見ると、東大の意図はワールドワイドなEnglishを勉強しろということだと思います。American English, British Englishではなく、ワールドワイドで英語圏の人たちがいっぱいいる、そうした人たちの発音も聞けるようにならなければダメなんだと示唆しているのではないか。そうでなければわざわざ聞き取れない人物を入れるはずがありません。東大が秋入学に変えようとしていますが、こうした出題からもめざすところを見てとれると思います。
関戸 MEPLOでは中学1年からネイティブスピーカーのレッスンを導入しており、スピーキング、ライティングの能力をリンクさせて高めていこうと試みています。実は東大は5年くらい前、理科系の学生を対象に「アカデミックライティング」の授業をカリキュラムに取り入れました。結局1年でやめたのですが、その理由は学生がついて来れなかったから。ライティングの勉強はしていても、アカデミックな素材はアカデミックな素材、たとえばクローンなどの問題について自分の考えを発信する訓練ができていないことを露呈する結果になりました。
ただ東大も秋入学移行を機に、試行錯誤しながら世界標準になるよう試験問題を変えていくと思います。今中学・高校のお子さんをお持ちの保護者の方も徐々に東大の入試が変わっていることを視野に入れておいてください。私もそうした変化を視野に入れ、今後の指導に活かしていかなければと思っています。
福原 関戸先生のお話にあった「薄っぺらな答え」について、MEPLOではどんなフォローをされていますか?
関戸 基本的に教室では、ライティングの前にブレーンストーミングを行っていろいろ考えさせてから書かせます。ただ、宿題などでは中身の薄い英作文もあり、ネイティブスピーカーがより分けて書き直させています。また高2からは「教養読解」を導入。時事的な英文を読ませ、世界のことを考える機会を設けています。先ほどのクローンの話とか、アメリカの大統領選挙を取り上げ民主党と共和党の相違点はどこかとか、いろいろな分野で英語を通しての思考力を養おうという試みで、テーマに沿ったライティングも試みています。
福原 東大の出題で、「インド人」の登場というのにはすごく驚いたのですが、リスニングではどういう学びを実践されていますか?
関戸 中1では2週間に1回90分、ネイティブレッスンを組んでいます。最初に「授業中は日本語禁止。机に手があたって痛い時には"ouch!"と言いなさい」と言っています。実は中1がネイティブスピーカーに対して一番アクティブなんです。授業が活性化しないのが中2、中3、高1。生徒が返事しない、質問しても"I don't know."しか返ってこない。こうした状況を打破すべく、MEPLOでは生徒にできるだけ話をさせたり、グループワーキングを取り入れたりしています。そしてグループで話し合うのは日本語でもいいけれども、発表は必ず英語、という条件をつけます。少しでも英語で自分の考えを発信できるような練習を心がけています。
福原 日本人は発音が下手だから、人前で話したくないという人が多いのですが、そのあたりはいかがですか。
関戸 さきほど、中1の体験授業を担当してきたのですが、abcの"c"と東京ディズニーシーの"sea"は違うという話をしました。実は首都圏の中高一貫校での英語の授業では、トップ層ですら間違った発音をあまり直さないところが少なくないんですね。ネイティブスピーカーも直しません。要は話が通じればいい、という考えからです。私たち日本人は、中国人やアメリカ人がたどたどしい日本語で話しかけてきた場合、"てにをは"が違っていてもわざわざ直しませんよね。それと一緒です。ですがその結果、高1、高2、高3になっても"sea"と"she"の区別がつかないという問題が生まれている。日本人がスピーキング最下位だという理由は、そこに原因があると思います。
日本語は母音が5つしかありませんが、英語は最大で15。母音が3倍あることに日本人は対応できていないんですね。日本語のアに相当する母音が3つあるとか、iという発音は実はイではなくエだとか、そういった部分に学校の授業ではほとんど触れていません。ですからMEPLOの体験授業では、まずショック療法として「日本語と英語はこれだけ違う」というところを知らしめるところから始めました。また、ネイティブレッスンでも発音が違ったらできるだけ直してくれと頼んでいます。ただ学校が主ですので、MEPLOでいくら直してもなかなか直らない。これは問題点でしょうね。
『シャドーイング』という英語の訓練法では、out putとin putのスピードは同じだと言われています。発音される音を聞き、耳を慣らし、似たような音を発しようとする練習を繰り返す。スピーキングでネイティブライクに巻き舌で発音する生徒もいますが、いかにも英語らしいけれどもネイティブスピーカーには通じない。音を真似するのではなく、きちんと発音できないとダメなんです。いたずらに巻き舌にしたりと変な癖をつけると、逆にコミュニケーションに支障をきたします。MEPLOでは正確な英語を身につけられるようこだわりを持って指導しています。
福原 私も発音の大切さを痛感しますね。その理由はTOEFL iBTで発音が評価されていることが一つ。もう一つは、アメリカ人相手だと多少発音が間違っていても通じますが、中国人やインド人と日本人が英語で会話すると、発音の違いで理解できなくなってしまうからです。今、外資系ではITチームのインド人をはじめ中国人、韓国人と英語でコミュニケーションする機会が増えています。彼らと議論する際、きれいな発音で話さないと長い時間がかかる。早い時期に発音を意識するのは、すごくいいことですね。
関戸 「ボランティアや部活を頑張れ」という話ですが、首都圏にある男子校は、春に体育祭、秋に文化祭をやるところが多いんです。彼らは全勢力を学校行事に傾け、3カ月くらい全く勉強しない。もったいないと思いますが、彼らはその後の大きく伸びます。イベントが起爆剤になっているんですね。グローバル化に向かって自分を磨くという上でも、高校の時に何か打ち込むというのは、実はそんなに勉強の差し障りにはなってないようです。
福原 IGSスクールの子も部活をやっている子が多いですよ。運動部で高3の6月まで部活をやってから受験勉強にシフトするのですが、その後の爆発力がすごいですね。また部活を通して達成感を得ているため、自分に自信を持っている。こういう子が、将来成功すると思いますね。
関戸 福原先生の話で思い出したエピソードがあります。女子御三家に通う生徒で、中1、中2と短期留学に行っていた子が、中3の短期留学から帰ってきた時、「もう行きません」と言うんです。理由を聞くと、日本のことを知らないのがよくわかったからだと。ホームステイの家で卵焼きを作った時、きちんと説明できなかったそうなんです。だから日本のことをちゃんと知ってからまた行きたい。その時には日本の文化を説明したいと。その子はそこで目から鱗が落ちたんですね。結局東大に行って今、応援団で頑張っていますよ。
福原 早い段階で海外に行くと、そこで初めて日本を客観視できます。日本はほぼ単一民族で、同じような価値観で生きていますから、自分を客観的に見ることがなかなかできない。海外に行くと常に日本を客観的に見、文化を意識できる。自立のきっかけにもなりますから、中学・高校時代の海外体験はお勧めですね。今の私があるのも、中学の時、親元を離れてニューヨークで1カ月間過ごしたことが大きかったと思います。
関戸 IGSスクールには留学経験者や海外経験者が多いのですか?
福原 人によりけりですね。たとえば高3で今まで1度も海外経験がないまま海外の大学への進学をめざしている子もいます。本人の海外志向が強いのと、父親が世界に出た時に厳しい思いをされたことから子どもに世界を体験させたいというお考えのようです。また中学・高校で短期留学を繰り返している子もいます。その子はスピーキングはできますが、文法を軽視しているために点数が伸びない。一人ひとりに合った指導が必要ですね。
ところで数学については、私は日本の数学レベルは世界最高だと思っています。これはSATの点数を見てもわかります。数学ができるというのは、ロジック力が身についているということ。ただし問題なのは、ロジックの前提条件を疑うことを知りません。早い段階でクリティカルシンキングを取り入れ、前提が崩れれば全体が壊れる、という部分を訓練する授業があってもいいなと思いますね。たとえばスタンフォード大付属校では、数学単体ではなく数学と物理とロジックを混ぜたり、国語と数学を一緒にした授業を行っています。今後はそういった授業にも早い内から取り組みたいですね。
関戸 MEPLOでも経験がありますよ。数学の命題を解き、ロジックを身につけると、英語の訳が「ロジックにあてはまらない」と言ってくる子が出てきます。日本語の曖昧性が納得できないようです。私も生徒に言われて「違うね」ということも多いんですが(笑)。
福原 英語科と数学科の垣根がない、これは塾ならではですね。社会性を学ぶという役割がある学校に対し、塾のメリットも大きいと思います。教育コンテンツとしての特徴、指導方法を活かしていきたいですね。
関戸 MEPLOには「MEPLO ACADEMIA」という講演会があり、社会に出ている卒業生が後輩に体験談などを伝えています。一緒に切磋琢磨した仲間としての意識から塾の同窓会があり、コミュニティができる。日本独特かもしれませんが、塾が一つの文化を形成しつつあると思います。
福原 将来的に、MEPLOで英語の基本を身につけ、東大に受かるレベルの勉強をしている子どもたちが、土曜日などにIGSスクールに来てTOEFLの勉強をしたり、世界で活躍している人たちと対話をする機会を持つ、といったコラボレーションができれば面白いですね。
関戸 MEPLOで子どもたちと一緒にいろんなことを考えながら勉強していく。そして高2、高3になって「東大に飽き足らない。世界に行きたい」という子が出てきたら、IGSに行きなさいとか、そんなことを考えながら、これから指導していこうかなと思います。
――今日の話は非常に勉強になる話で、子どもたちの選択肢を拡げることにつながったのではないかと思います。子どもたちがいろいろな知識と自信を身につけられるよう、我々も体制を整えていかなければならないと思っています。今回の話は今がスタート。それぞれの方々がアクションを起こさないと、理想だけに終わってしまいます。「何ができるんだろう」「何をやらなければならないんだろう」をキーワードに、一歩踏み出すことが一番大切なのではないでしょうか。長時間のご静聴、ありがとうございました。

