数学

2011.1.11

2015年度新課程センター試験「数学」出題教科・科目(案)発表

 平成27年度以降のセンター試験での数学の出題科目は、現行と変わらないことが発表された。ただし、数学Aが選択履修となったので、問題を選択して解答することになる。『数学A』の内容から3題が出題され、そのうち2題を選択することとなる。「数学I・数学A」の試験においては、数学Iに「図形と計量(三角比)」の内容があるので、数学Aの「図形の性質」に関する問題を選択した場合、図形問題の割合がこれまで以上に高くなる。図形問題を苦手に感じている受験生が多いので注意が必要である。また、「数学I・数学A」の問題に選択問題が設定されることで、融合問題が作りづらくなり実質的な問題数が増える可能性がある。「データの分析」がどの程度の割合で出題されるか注目される。なお、数学Bについての選択に関しては、ほとんどの受験生が「数列」と「ベクトル」を受験することになるだろう。

2009.9.24

解説書の発表を受けて

 平成21年(2009年)3月、新しい高等学校学習指導要領が告示され、7月には「高等学校学習指導要領解説」(以下、「解説」という)が発表された。本稿では、数学の指導内容について 現行の教育課程(以下「現行課程」という)と新しい教育課程(以下「新課程」という)を比較し、学校現場に与える影響、大学入試に与える影響を考えていくことにする。

1. 新学習指導要領の特徴

《科目と標準単位数》
 まず、改訂の大きな特徴は『数学C』の内容の一部を『数学B』と『数学V』などに移行し、『数学C』が廃止された点である。
 また、現行課程の『数学基礎』に代わる科目として『数学活用』が新設された。現行課程の『数学基礎』は『数学I』との選択必履修科目となっていたが、『数学活用』は必履修ではない。離散数学や行列等の興味深い話題が入っているが、全国の高校でどの程度設置されるかが注目される。
 標準単位数は『数学III』のみ3単位から5単位へ増加したが、他の科目には変化がない。新しい科目『数学活用』は2単位である。今回の改訂で、『数学I』の単位を2単位まで減ずることができるとされているが、この特例を認めるかどうかは各都道府県教育委員会等の判断に委ねられると思われる。
 なお、『数学A』は旧教育課程(以下「旧課程」という)の『数学A』同様、いくつかの分野を選択して学習する形に戻った。『数学B』に関しては、現行課程と同様、いくつかの分野を選択して学習する。

【表1】科目構成の変遷
【表1】科目構成の変遷

《主な内容の変化》

 内容が多く追加された科目は『数学III』である。現行課程の『数学III』の内容に、旧課程で扱われていた「複素数平面」および「曲線の長さ」と、現行課程『数学C』の「式と曲線」が追加されている。
 さらに現行課程『数学C』の「行列」が(理系科目として)扱われなくなったことも大きな変更点である。一部が『数学活用』に移行されているが、これは「社会生活における数理的考察」の中で取り上げることになっている。現行課程までの「行列」の取り扱いは、非可換な代数構造に着目させたり、一次変換に応用したりするものだったので、扱いはかなり異なることとなる。
 また、『数学I』と『数学A』に「課題学習」が新設された。これに関しては後述したい。


現行課程と新課程で指導する内容を比較すると以下のようになる。

【表2】学習内容移行表(クリックしてください。PDF、96KB)

2.中学校との関連
 前回の改訂で中学校から移行された内容のうち、いくつかが中学校へ戻されることになった。その内容は以下の通りである。

【表3】中学校に移行された内容
【表3】中学校に移行された内容

 一方、前回の改訂で中学校から移行されて、今回の改訂でも中学校へ戻されず引き続き高校で扱われることになった内容は以下の通りである。


【表4】中学校に移行されなかった内容

【表4】中学校に移行されなかった内容

  高校関係者から「中学校に戻してほしい」と要望されていた内容の一部は【表3】のように中学校に戻された。しかし授業時数の制限のためか、一部の内容は高校の内容として残されている。今回の学習指導要領改訂のポイントである「理数教育の充実」を目指すためには、たとえば1次不等式のような反復練習を必要とする内容については、早い学年から反復して指導すべきである。今回の改訂はこの点において中途半端な印象を受ける。

3.『数学I』の改訂

 『数学I』が4つの単元(数と式、図形と計量、二次関数、データの分析)からなっているのは、中学校における4つの領域(数と式、図形、関数、資料の活用)に対応させたものである。指導要領における内容の掲載順序も中学校の領域の掲載順序に準じている。『数学I』に「中学4年」的な位置づけを与えることによって、中高の接続をより鮮明に意識している。

《数と式》
 【表2】のように、三次の乗法公式・因数分解は『数学U』に移行された。現行課程『数学A』の「集合と論理」の一部はここへ移行されてきた。ただし、集合の要素の個数に関する公式 n(A∪B)=n(A)+n(B)-n(A∩B) などは『数学A』の選択分野に移行されていることに注意が必要である。
 現行課程においては、連立不等式を『数学I』で、集合を『数学A』で扱っていた。不等式で表される集合(例えば {x| x>1} など)の共通部分を求める際には事実上連立不等式を解くことになるため、『数学A』の教科書では、主に離散集合を扱うことが多かった。新課程においてはこの点が解消され、集合の共通部分や和集合において連続な集合を扱う教科書も増えるだろう。
 また、現行課程の「内容の取扱い」にあった「二重根号をはずす計算は扱わない」という記述が削除されている。この記述は、旧課程、現行課程と継承されてきたものであるが、現実には教科書傍用問題集では扱われており、実際の入試でもこの知識がないと解けない問題が出題されていた。さらに、平成19年(2007年)から供用が開始された教科書でも「発展」として扱っているものが少なからずあった。この点は現状を追認した改訂といえる。
 さらに、「必要条件・十分条件」もここで扱うことになっているが、生徒にとって分かりづらい内容であるため、この部分は抽象的思考に慣れてきたあたりで扱うなどの配慮が必要であると思われる。ただし、背理法などの証明方法は、たとえばが無理数であることの証明などに利用できるので、論理的考察の道具として早い段階で指導しておいて論理的考察の道具としておくのがよいのではないか。
 いずれにしても、各学校において生徒の実情に合わせて科目内での指導順序を変えていく必要がある。

《図形と計量》
 「球の体積と表面積」、「相似比と面積比・体積比の関係」が中学校に移行されたので、この単元では三角比を中心に扱うことになる。『数学A』で3つの内容から2つを選択する際に、「図形の性質」を選択しない場合は、正弦定理、内接円の半径、円に内接する四角形に関連して「三角形の内心・外心」の存在や円の性質をここで扱っておくとよいだろう。「重心」や「垂心」まで扱い、さらに「内心・外心・重心・垂心のうち2つが一致する三角形は正三角形である」という事実を理解させておけば、空間図形の計量問題などに利用することができる。『数学U』の「図形と方程式」または『数学B』の「ベクトル」で重心を扱う学校が多いと思われるので、このタイミングで重心の存在まで学ばせておきたい。
 指導時に未習事項があれば必要に応じてその場で導入・指導する「現地調達方式」よりも、体系性に重きをおいた指導が必要ではないだろうか。ただし、科目の目標を損なわないように注意することは言うまでもない。
 なお、「ヘロンの公式は扱わない」という制限が廃止されているので、生徒の実態に応じて扱っておきたい。ヘロンの公式の導出は「三角形の3辺→1つの角の余弦→その角の正弦→面積」という流れを「自動化」したものであり、生徒にとってよい復習、よい計算練習になると思われる。
 また、「数と式」のところであらかじめ二重根号をはずす計算を扱っておくと、たとえばここで直角三角形を用いて sin15° の値を求める問題を扱うことができる。これは『数学II』で学習する加法定理等を利用して求めることもできるが、幾何的方法で求めることができることも学ばせたいところである。

《二次関数》
 「いろいろな事象と関数」が中学3年に移行された以外は大きな変更はない。現行課程と同じく、軸の方程式の表示に用いる「x=k」タイプの直線はここで初出となるので注意したい。
 新課程でも、二次不等式は二次関数に絡めてここで扱われることになる。昭和53年(1978年)学習指導要領までは、二次不等式は因数分解ののち符号表などを用いて解くという指導がなされてきた。しかし、 係数を有理数の範囲まで拡大する 一般の二次式の因数分解が他の科目へ移行されたので『数学I』の二次不等式の指導においてこの方法を用いることができなくなった。平成元年(1989年)学習指導要領からこの扱いが続いていることになる。

《データの分析》
 これは現行課程の『数学B』「統計とコンピュータ」の内容がほぼ移行されたと考えてよい。新学習指導要領では小学6年から順次統計的な内容を扱うこととなっており、生徒の負担はそれほど重くないと思われる。しかしながら、『数学I』の段階で、Σ記号を用いないで相関係数を指導することはいたずらに煩雑な公式を提示することになる。したがって、可能ならば「数列」の学習のあとにこの分野を復習できると、相関係数のイメージも湧きやすくなるだろう。
 また、今回の改訂に際し、「資料」ではなく「データ」、「相関図」ではなく「散布図」というように、用語が変更されていることに注意が必要である。さらに新しい統計量として「四分位数」を扱うことが定められた。これに関して、「箱ひげ図」という、分布の特徴を示す図も「解説」に示されており、多くの教科書に記載されるものと思われる。

4.『数学II』の改訂
 現行課程と新課程で大きな変化はないが、内容の示し方に若干の変更が見られた。
 現行課程においては、「いろいろな関数」として、「三角関数」と「指数関数・対数関数」をまとめて示してあったが、今回は2つの内容に分けている。これについて「解説」では、

 「今回の改訂では,生徒の実態や他教科の内容との関連などを踏まえてより柔軟な対応ができるように指数関数・対数関数と三角関数は分けて示すことにした。例えば,理科を履修するにあたり指数関数や対数関数を学んでおく方がよければ,指数関数・対数関数を他の内容より早く履修させてもよい。」

としている。

《いろいろな式》
 現行課程の『数学I』「方程式と不等式」の分野から「三次の乗法公式および因数分解」が、『数学A』「場合の数と確率」の分野から二項定理が移行された。昭和45年(1970年)学習指導要領『数学I』の代数分野の内容は、改訂ごとに少しずつ高校2年で学習する科目に移行されている。代数的分野の系統性が分断されていて、 いわゆる「現地調達方式」は色濃く残されているといえる。
 なお、現行課程と同じく、有理式(分数式)の計算はここで扱うことになっている。

《図形と方程式》
 大きな変更はないが、『数学A』で「図形の性質」を選択しない場合、「内分・外分」、「重心」、「2円の位置関係」などは学習していないことに注意を要する。したがって、2円が接する条件、交わる2円の根軸などの指導の前にはここで「2円の位置関係」に触れなければならない。
 なお、「軌跡」と「不等式の表す領域」に関しては、現行課程や旧課程では[内容の取扱い]に補足的に書かれていたが、今回の改訂から独立した内容として示されている。

《指数関数・対数関数》
 この単元に関して、常用対数は必ず扱うものとされた。
 なお、[内容の取扱い]において「対数計算は扱わない」という注意が消えたが、ここでいう「対数計算」というのは昭和35年(1960年)学習指導要領に示されていたような「指標」と「仮数」を用いた対数の計算を指す。「対数計算」を知らない世代が増えてきたことで、混乱するのを避ける意味だろう。「解説」を見る限りにおいて、決してこれが復活するという意味ではないと思われる。

《三角関数》
 三角関数の合成について、現行課程の「解説」では数式で表現されていたが、今回の改訂で「三角関数の合成」という用語が新たに記された。単に現状の教科書を追認したものであり、余弦で合成することを奨励するものではないと思われる。
 また、いわゆる「和積・積和」の公式を扱わないという制限がなくなったことで、これらの公式は教科書によっては(「発展」としてではなく)本文中に記述される可能性がある。
 新しいコメントとして、「解説」には「加法定理に関連して、原点を中心とする平面上の点の回転移動を扱うことも考えられる」と記述されている。これまで、「解説」中に「〜ことも考えられる」とされているものについては(大学入試向けの)多くの教科書が記述していることを考えると、回転移動について、いくつかの教科書では記述される可能性が高い。

《微分・積分の考え》
 「微分・積分の考え」は見かけ上現行課程と同じであるが、[内容の取扱い]において、現行課程の「微分法については三次まで,積分については二次までの関数を扱うものとする」という『歯止め規定』が「〜を中心に扱うものとする」というように緩やかなものとなっている。現行課程では『数学A』で扱われていた「二項定理」がこの科目に移行されたこともあり、「四次以上の関数の微分の公式」が提示しやすくなっていることを考えると、教科書によって扱いがかなり異なる可能性がある。ただ、現実には、平成20年(2008年)から用いられている「改訂版」の『数学II』の教科書では一般の次数の多項式関数の微積分を「発展」として扱っているものが少なくないので、この傾向が一層強まるものと考えられる。したがって、たとえば四次関数のグラフ(微分法)、三次関数のグラフと直線の囲む面積(積分法)なども、生徒の実態によってはここで扱うとよいだろう。
 また、「接線の公式を扱う」という記述が削除されているが、歯止め規定がないので、多くの教科書では扱われるのではないかと考えられる。
 蛇足であるが、整式で表される関数をこれまでは「解説」中で「整関数」としていたが、これを「多項式関数」と修正している。「整関数」という用語は解析学において、「複素平面上の任意の点で正則な関数」を表す「術語」であり、いくつかの混乱を招いてきたので、この修正は評価できる。

5.『数学III』の改訂
 新課程においては『数学III』が5単位に増加した。現行課程の理系受験生の中には、志望大学の出題範囲を考え『数学C』の受験対策をしていない者もあった。今後はそのようなことができなくなり、理系生の受験対策にかなりの負担がかかる可能性がある。

《平面上の曲線と複素数平面》
 「平面上の曲線」に関しては現行課程の『数学C』「式と曲線」がそのまま移行されたと考えてよい。ただし、扱う曲線について「微分法」や「積分法」で扱う曲線を中心に扱うことが明記されている。
 「複素数平面」については、「ド・モアブルの定理」程度までを扱うことになっている。旧課程の「複素数平面」とほぼ同じ内容が復活するものと思われる。「解説」では「平面図形への応用を扱うことも考えられる」としているので、多くの教科書で扱われるであろう。
 なお、「ただし、二次曲線を回転させて考察することは含まれない」とあるが、現行課程においても、行列の1次変換では「点の移動のみを扱う」とされているにも関わらず実際の入試問題では曲線の回転を問う問題が出題されていることを考えると、大学入試で曲線の回転が出題されることは大いに考えられるので注意したい。

《極限》
 現行課程と大きな変化はない。「解説」では、新たに「対数関数は指数関数の逆関数であること」や「関数の連続性」も「ここで扱う」と明記されたほか、「中間値の定理を扱うことも考えられる」との記述もある。現状を追認したものであろう。
 ここに「数列の極限」が配置されていることを考えると、『数学III』を履修するためには実質上『数学B』の「数列」を履修することが前提と考えられる。
 また、「漸化式と極限」については「解説」中で で定められる数列{an} の極限が であることを「扱うことも考えられる」としている。現行課程の「解説」にはない部分であり、この辺りの教科書の記述は充実することが考えられる。また、生徒の実態に応じてはニュートン法の考え方を利用して、この漸化式の導出を扱うこともできるだろう。

《微分法》
 現行課程と大きな変化はないが、前述のように『数学II』「微分積分の考え」の中で次数制限が撤廃されており、学校によって扱い方が変わることになる。
 また、「解説」では、「逆関数の導関数を扱うことが考えられる」と明記されたので、注意が必要である。
 さらに、これまで「解説」中で「直線上の点の運動を中心に扱う」とされていたものが、学習指導要領の[内容の取扱い]で「平面上の点の運動も扱う」とされた。そのためには『数学B』の「ベクトル」を扱うことが必要であり、『数学III』を履修するためには実質的には『数学B』の「ベクトル」を履修することが前提となる。この内容は物理を履修していない生徒には、なかなか捉えにくい内容なので注意したい。
 生徒の状況によっては、ここで媒介変数で表示された曲線のグラフを微分法を用いてかく方法を扱っておきたい。大学入試ではよく出題される内容である。

《積分法》
 置換積分に関しては、現行課程では「ax+b=t, x=a sinθ」などの場合以外は「置き換える関数を指示する」よう「解説」に記述されていたが、今回の改訂では上記の場合を「中心に扱う」とされた。同様に部分積分に関しては、「1回の部分積分で結果が得られるものにとどめる」とされていたのが、その場合を「中心に扱う」と変更されている。いずれも上限規制がはずれたことになる。
 さらに、曲線の長さを扱うことも明記された。「解説」中で「関数によっては、曲線の長さを積分で(明示的に)求められない場合もあることに注意する」と明記されたほか、「関連して運動する点の『道のり』に触れることも考えられる」としている。
 現行の教科書には「発展」として微分方程式を扱っているものもある。各教科書がどこまで扱うのかに注目したい。

6.『数学A』の改訂
  前述の通り、『数学A』は3つの内容から適宜選択して学習する。旧課程の『数学A』『数学B』『数学C』や現行課程の『数学B』『数学C』も内容を選択する科目であったが、これらの科目とは異なり、2つの内容を選択する場合、どれを選択するかが悩ましいところである。

《場合の数と確率》
 現行課程『数学C』で扱っていた「条件付き確率」が追加されている。「条件付き確率」に関連して、入試ではいわゆる「原因の確率」のような、生徒にとってかなり難しいものまで出題される可能性があるので、余裕のある生徒には学習させておきたい。また、現行課程『数学C』の「確率の計算」で「事象の独立と従属」を扱っていた教科書もあるが、この移行先がなくなった。従前から、このような場合にいわゆる「教科書傍用問題集」では、関連する単元に「補足」として掲載されることが多い。「教科書傍用問題集」では「事象の独立と従属」に関してはここに移行される可能性もある。
 また、「期待値」は『数学B』の「確率分布と統計的な推測」へ移行された。ただ、教科書によっては「発展」の扱いで『数学A』の中で記述される可能性がある。また、前述のとおり、二項定理は『数学II』へ移行されている。

《整数の性質》
 「整数の性質」の単元は、昭和52年(1977年)学習指導要領において中学1年で扱っていた内容、『数学B』「数値計算とコンピュータ」で扱っていたユークリッドの互除法、さらに不定方程式、位取り記数法(一部は旧課程の中学2年)などの内容も入り、豊富な内容で構成されている。
 「約数・倍数」に関連して「解説」の中で、剰余類について扱うほか、「虫食い算」や「覆面算」を扱うことが考えられるとしている。
 「ユークリッドの互除法」に関して「二元一次不定方程式」を扱うとされているが、これはかなり難しい内容である。整数解をもつ方程式については、簡単な「二元二次」の場合(積が定数となる場合)も扱うことも考えられる。
 「整数の活用」に関しては、「解説」中に「鳩の巣原理」を用いて考察する例が述べられている。「鳩の巣原理」に関しては現行の教科書で扱っている例もあるので、新課程においては多くの教科書で扱われることになるだろう。

《図形の性質》
 「図形の性質」の単元は現行課程「平面図形」の内容から「円周角の定理の逆」のみを中学3年に移行し、作図(旧課程の『数学A』)や空間図形なども扱うこととなっている。なお、今回の改訂で「円周角の定理の逆」は中学校に戻されたが、「内接四角形の定理」や、いわゆる「接弦定理」は戻されていないことに注意したい。
 「平面図形」に関しては、「解説」の中で三角形の性質に関して「チェバ・メネラウスの定理」、円の性質に関して「共通接線」、作図に関して「正五角形の作図」を扱うことが考えられるとしている。
 特に、「チェバ・メネラウスの定理」は現行の「解説」には触れられておらず、また、作図については、「( 作図のあと)それが正しいことを証明したり、作図したすべての点が条件を満たすことを確認することが大切である」と述べられており、旧課程の「平面幾何」を意識した改訂であるといえる。
 「空間図形」に関しては、「直線と直線」、「平面と平面」、「直線と平面」の位置関係を扱い、さらに多面体の性質などを扱うとされている。「解説」の中で直線と平面に関しては「三垂線の定理」、多面体の性質に関しては「オイラーの多面体定理」を扱うことも考えられるとしており、これまで直感的に理解してきたものを論理的に処理する能力をつけるよう改訂されている。なお、「オイラーの多面体定理」が扱われる場合、昭和44年(1969年)学習指導要領の中学3年の内容として示されて以来の内容となる。

《分野選択について》
 3つの分野の分量をそれぞれ1単位分にそろえるため、無理矢理内容を増やした分野もあるように思われる。標準単位数が2単位であるから、2分野を選択するのが標準的であると考えられる。
 『数学A』の分野の中では、「場合の数と確率」は必ず指導されることになると思われる。もう1分野について、入試での出題のしやすさという点から考えると「整数の性質」を選択することが多いのではないかと思われる。
 ただし、前述のように「図形の性質」を選択しない場合、旧課程で中学校で扱っていた内容(内接四角形の定理、いわゆる接弦定理、2円の位置関係など)の一部が欠落することとなる。たとえば『数学I』の「図形と計量」において、内接四角形の問題が指導できなくなったり、『数学II』の「図形と方程式」において、2円が接する問題や交わる2円の根軸の方程式などが指導できなくなったりする。これらは平面幾何の基礎ともいえるものであり、多くの生徒に学ばせておきたい内容である。
 このようなことから、大学入試の準備としては『数学A』のすべての分野を指導することも考えられる。また、「場合の数と確率」と「整数の性質」を選択し、「図形の性質」に関しては、各学校において必要なものを必要な時期に指導するなどの方法もあるだろう。ただし、その場合はいわゆる「現地調達方式」の弊害を招くことがないように注意が必要である。
 いずれにしても、大学がどの分野を入試の出題範囲として指定するかによって高校現場の指導が左右されることは望ましいことではない。

7.『数学B』の改訂
   『数学B』は現行課程と同様、いくつかの分野を選択して学習する。内容が「確率分布と統計的な推測」、「数列」、「ベクトル」の順に示されているのは、『数学A』の順序との整合性をとったものであるが、『数学A』の分野選択と『数学B』の分野選択はそれぞれ独立に行うことができる。

《確率分布と統計的な推測》
 旧課程『数学C』の「確率分布」で「イ 確率分布」として示されている内容と、「統計処理」を一つにしたような内容であり、推測統計がゴールとなる。
 「推測」に関しては、「母平均の推測」が「解説」に挙げられているが、「母比率の推測」についても教科書に書かれる可能性がある。なお、「検定」は平成元年の改訂から高校数学の範囲としては削除されている。
 また、「期待値」は確率変数の「平均」として、ここに移行されている。

《数列》
 現行課程の内容とほとんど変わらないが、現行課程の「解説」で数学的帰納法に関して「初期条件が二つあるような技巧を必要とするものは避ける」と書いてあった制限が廃止された。いわゆる「オトトイ法」を制限していたものと見られるが、「オトトイ法」を指導されて初めて数学的帰納法の意味が理解できたという生徒も多く、生徒の実情を考慮しつつ指導したい。教科書でも「章末問題」レベルとしては扱われる可能性がある。

《ベクトル》
 『数学A』で「図形の性質」を学習していない場合、内分・外分や重心などに触れる必要があるのは、『数学U』の「図形と方程式」の場合と同じである。
 空間ベクトルの内容がやや抽象的に書かれており、これに関連して空間図形の方程式を扱う教科書が出てくると、この分野はかなりの分量になることが予想される。現行課程の教科書でも多くが「発展」として記述しており、新しい教科書の記述が注目される。

《分野選択について》
 標準単位数が2単位であるから、多くの学校でこれまで同様に「数列」と「ベクトル」を選択することになると思われる。前述のように、『数学III』をスムーズに学習するためには、この2分野を学んでおくことが必須だからである。
 また、「確率分布と統計的な推測」を選択する場合は、『数学A』の「場合の数と確率」を指導していないと、現実的には指導が不可能であると思われる。また、「数列」の学習もしておくことが望ましい。
 私立学校などにおいては、旧課程の『数学B』で「ベクトル」、「複素数と複素数平面」、「確率分布」の3分野を選択していた例があった。新課程においても、3分野を学習する学校がある可能性もある。
 ただし、現行課程で『数学C』の「確率分布」を出題範囲として課していた大学が少数あるが、その中でも「確率の計算」のみに限定していたところが多い。「確率の計算」は新課程ではほぼそのまま『数学A』に移行されているため、新課程『数学B』の「確率分布と統計的な推測」を出題範囲として指定する大学は多くないだろう。そのため、受験対策としてこの分野を扱うことは、あまりメリットがあることとは思えない。

8.課題学習の新設
 『数学I』と『数学A』に「課題学習」が新設された。「課題学習」は、「数学のよさ」を生徒に実感させるために、生活に関連づけたり発展させることにより、生徒の主体的な学習を促すのが目的である。「発展させる」という文言の中には、問題の条件を少し変えると結果はどう変わるか、一般化するとどうなるかなどを考察することも含まれると考えられる。本来、このようなことは生徒が自発的に行うのを期待するのが理想である。一般化等の手法を教えることにより、今後は自発的に行うよう仕向けることが必要である。
 数学的活動に関して、「解説」では「数学的課題を数学で処理する」、「身近な事象を数学化する または 数学の結果に身近な事象の意味づけを行う」、「積極的な言語活動を行う」のようなことが述べられている。現実には、身近な事象とのかかわりを扱っても高校数学レベルでは「この結果はこれこれに利用されていますよ」とか「こういう要求でこの研究が始まりましたよ」のように一方通行になることが多い。そのため、教科書では一般化や体系化などの内容が多くなり、現実的にはそれを取り上げることが多くなると思われる。
 また、生徒の疑問を取り上げると、既習の内容では結果が得られない(たとえば三次不等式を解かなければならないなど)こともあるだろう。そのような場合には、既習の内容で進めるところまで進み(たとえば三次不等式の立式まで行い)、「数学IIを勉強するとこれが解けるようになる」など助言して、より深い学習への動機付けとすることも考えられる。
 「身近な事象とのかかわり」について、専門学科(工業科・農業科等)の教科書に用いられている内容を扱うことも考えられる。専門学科の教科書では数学で用いられている記法と異なるものがあるので、生徒が混乱しないよう注意すべきである。

9.センター試験への影響
 新科目『数学活用』は必履修科目には取り上げられておらず、センター試験の出題範囲にも含まれないと考えられる。『数学I』「データの分析」『数学A』「整数の性質」『数学B』「確率分布と統計的な推測」の3分野に関しては、過去の出題例がないため(または内容が大きく変更されているため)、試行問題が提供されるのかどうかが注目されるところである。

 以下、センター試験の科目構成および試験時間が現行と同じであると仮定して、『数学I・数学A』および『数学II・数学B』についてその影響を考えたい。

『数学I・数学A』
 『数学A』が分野選択になったことにより、 旧課程のセンター試験のように選択問題が出題されることになると思われる。
「平面図形」が選択分野となったことで、現行課程のように『数学I』「三角比」と『数学A』「平面図形」の融合という出題はできなくなるだろう。また、「場合の数と確率」の出題において、「期待値」は学習指導要領に明確に記載されなくなったことで、出題されなくなる。また、「条件付き確率」に関連していわゆる「原因の確率」が出題される可能性も低い。
なお、新しい内容である「データの分析」は、配点を考えると(『数学I・数学A』の試験としては)「二次関数」や「三角比」に比べて重視される可能性は少ないと思われる(ただし、「数学I」の試験には出題されるだろう。)

『数学II・数学B』
 『数学B』の分野数の減少により、選択問題が4題から3題に減るほかは、ほぼ現行通りの出題となる可能性が高い。

10.二次・私大入試への影響
 今回の改訂で、理系大学の出題範囲に関しては、「行列」と「複素数平面」が入れ替わっただけであると言ってよいだろう。その他の変更点に関しては入試への影響はほとんどないと考えられるが、新課程入試初年度には多くの大学で経過措置がとられ、「共通範囲での出題」または「選択問題」という形で対応されることになるだろう。
 『数学I』に新設された「データの分析」は、ごく限られた大学(教育系の学部をもつ大学等)以外で出題される可能性は極めて少なく、出題されたとしてもあまり難しい問題ではないと思われる。
 『数学A』が「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」の中から適宜選択となっているが、いずれの内容も入試では重要な分野であり、各大学が出題範囲としてどの分野を指定してくるかが注目される。
 従来の学習指導要領では「整数」を扱う単元がなかったが、入試では多く出題されていた。不定方程式の整数解や剰余類の性質は、暗黙の了解として高校数学で扱われるべき内容であったと言ってもよいであろう。今回の改訂で「整数の性質」という単元が選択分野として明示されたため、出題範囲として「整数の性質」を指定しない場合にこれまでのような「暗黙の了解」が認められるのかどうかが気になるところである。
 また前述のように、『数学II』の「微分・積分の考え」では次数制限の歯止め規定が撤廃されている。現実には旧課程や現行課程でも、次数制限を無視した問題も多く出題されているが、今後は気にすることなく出題されることになる。

 以上の予測をふまえ、いくつかの分野について入試問題のサンプルを以下に挙げた。

サンプル問題@(『数学I』「図形と計量」の問題)

<出典不明>
三角形ABCにおいて,AB=3+t,BC=4,CA=5−t とする.
(1) t の値の範囲を求めよ.
(2) 三角形ABCの面積の最大値とそのときの t の値を求めよ.

【問題に対するコメント】
 今回の改訂で、「ヘロンの公式は扱わない」とする制限が撤廃された。ヘロンの公式を用いれば、上記のような問題を簡単に解決することができる。
 なお、(1)で用いる「三角形の成立条件」は今回の改訂でも『数学A』「図形の性質」で扱うものと考えられる。当該単元を履修しない場合には注意を要する。

サンプル問題A(『数学II』「三角関数」の問題)

<頻出問題>
関数f(x)=sinx+sin(x+) の0≦x≦π における最大値と最小値を求めよ.

【問題に対するコメント】
  上記の問題を解決するためには、二重根号を外すこと、またはいわゆる「和積の公式」を用いることが必要であった(二重根号を残したままでよいのであれば、外す知識は不要)。現行課程においては、いずれも学習指導要領の制限に触れるため、『数学II』の問題としては出題しにくかったが、今回の改訂で両方とも制限が緩和されたため、出題しやすくなる。

サンプル問題B(『数学II』「微分・積分の考え」の問題)

<2009年 高知大学 文系>
曲線 y=x3−2x2+|x| と半直線 y=x (x≧0) で囲まれた部分の面積を求めよ.

【問題に対するコメント】
 高知大学では x3 の不定積分を与えて出題されていたが、多項式関数の微積分について次数制限の緩和により、新課程入試においてはヒントをつけずに出題される可能性がある。

サンプル問題C(『数学A』「場合の数と確率」の問題)

<1976年 早稲田大学 文学部>
5回に1回の割合で帽子を忘れるくせのあるK君が,正月に A,B,C 3軒を順に年始回りをして家に帰ったとき,帽子を忘れてきたことに気がついた.2軒目の家 B に忘れてきた確率を求めよ.

【問題に対するコメント】
 新課程の「解説」ではいわゆる「原因の確率」は扱わないことになっている。しかし、学習内容の自然な延長として、二次試験等では出題され得る問題である。

サンプル問題D(『数学A』「整数の性質」の問題)

<2009年 京都大学>
p を素数,n を正の整数とするとき,(pn)! は p で何回割り切れるか.

【問題に対するコメント】
  新課程の「整数の性質」を履修した場合、入試問題として標準的レベルであると考えられる問題を提示した。

サンプル問題E(『数学A』「整数の性質」と『数学II』「対数」の融合問題)

<河合塾作成>
三進法で100桁の整数を十進法で表すと何桁となるか.ただし,log103=0.4771 としてよい.

【問題に対するコメント】
 「整数の性質」が出題範囲として指定された場合に、他の単元との融合問題が出題されることも考えられる。ここでは『数学II』の「対数」との融合問題を提示した。

サンプル問題F(『数学A』「図形の性質」の問題)

<有名問題>
正四面体の隣り合う2つの面のなす角を θ とするとき cos θ の値を求めよ.

【問題に対するコメント】
 空間図形に関してある程度の基本的な事項を指導することとなるため、2面角を求める程度の問題は出題されるのではないか。

サンプル問題G(『数学A』「図形の性質」の問題)

<2005年 北海道大学>
四面体ABCDにおいて,辺ABと辺CDが垂直ならば,頂点Aから平面BCDへ下ろした垂線と,頂点Bから平面CDAへ下ろした垂線は交わること示せ.

【問題に対するコメント】
 「図形の性質」が出題範囲とされた場合は、これまでは直観的に扱ってきた空間の垂直などを証明させる問題が出題されることも考えられる。上記の問題はベクトルを用いて解決することもできるが、平面と直線の位置関係を用いた方が易しい。

サンプル問題H(『数学III』「平面上の曲線と複素数平面」の問題)

<2009年 名古屋工業大学>
楕円 を原点を中心に反時計回りに だけ回転して得られる曲線を C とする.
(1) 曲線 C の方程式を求めよ. (2) 直線 y=t が C と共有点をもつような実数 t の値の範囲を求めよ. (3) すべての頂点が C 上にあり,一辺が x 軸に平行な三角形の面積の最大値を求めよ.

【問題に対するコメント】
  新課程の「複素数平面」を学習すると、自然に平面上の点の回転を扱うことができるようになるので、学習の自然な延長として入試には出題されることになるだろう。「解説」では、『数学II』の「三角関数」にも「平面上の点の回転」が記述されていることにも注意が必要である。
 なお、上記の問題は現行課程で出題されており、「点の移動」しか扱わないという制限に抵触する問題であった。

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