主任研究員紹介  (五十音順)
木村敏(きむら びん) 精神病理学
 
京都大学医学部卒。
専攻・精神医学、精神病理学。医学博士。京都大学名誉教授。ドイツ精神神経学会およびドイツ現存在分析学会特別会員。
「あいだ」を軸にした独自の自己論で内外に大きな衝撃を与え、近年は環境に相即する主体を核とした生命論を展開中。
1981年第3回シーボルト賞(ドイツ)、1985年第1回エグネール賞(スイス)、『木村敏著作集』第7巻が2002年度第15回和辻哲郎文化賞受賞、『精神医学から臨床哲学へ』(ミネルヴァ書房)が2010年度毎日出版文化賞受賞。
著書:『時間と自己』『分裂病と他者』『偶然性の精神病理』『自己・あいだ・時間』『関係としての自己』『生命と現実』ほか多数。『木村敏著作集』全8巻。河合文化教育研究所からも『人と人とのあいだの病理』『からだ・こころ・生命』(河合ブックレット)、『分裂病の詩と真実』、中村雄二郎氏との共同監修による思想年報『講座・生命』第4−7巻、坂部恵氏との共同監修による臨床哲学シンポ論集『身体・気分・心』『〈かたり〉と〈つくり〉』野家啓一氏との共同監修による臨床哲学シンポ論集『空間と時間の病理』を刊行。「河合臨床哲学シンポジウム」を主宰し、精神医学と哲学の課題の重なるところでアクチュアルな問題を提出する。

近況
 2月に満80歳になります。昨年はかなり働きました。5月には日本精神神経学会で「先覚者に聞く」の講演、10月には日本精神病理精神療法学会で特別講演、12月には河合臨床哲学シンポジウムでシンポジストとして発表と、1年間に3つも学会で発表したのは初めてではないかと思います。出版の方も1月にヴァイツゼカーの大冊『パトゾフィー』の邦訳(みすず書房)、4月に自伝『精神医学から臨床哲学へ』(ミネルヴァ書房)、12月に野家啓一氏との共同監修で『空間と時間の病理』(河合文教研)を出したほか、論文も結構書きました。5月には私の80歳を記念して、文教研の心身論研究会と京都の寺子屋「アポリア」のメンバーが、文教研のご協力でシンポジウムを開いてくださいます。人生の幕引きまでに、まだもう少し仕事が残っているようです。
木村 敏
谷川道雄(たにがわ みちお) 東洋史学
 
京都大学文学部史学科卒。
専攻・中国中世(魏晋南北朝・隋唐)史。文学博士。京都大学名誉教授。北京大学・武漢大学客員教授。
中国史を史的唯物論の定式によって理解しようとする戦後の中国史学の流れに反省と批判を加え共同体論的観点を導入して広汎な論争を引起こすとともに、中国史学を活性化し新しい地平を拓く。
著書:『中国中世社会と共同体』『世界帝国の形成』『隋唐帝国形成史論』『中国中世の探求』他多数。このうち、前二著はそれぞれ北京と台北から中国語訳が出版され、また『共同体』の一部がアメリカ・カリフォルニア大学より英訳出版された。『隋唐帝国形成史論』は2004年秋上海から中国語訳が刊行された。河合文化教育研究所からも編著書『戦後日本の中国史論争』『中国史とは私たちにとって何か』(河合おんぱろす特別号)、『戦後日本から現代中国へ』(河合ブックレット)を刊行。 現在も引き続き中国中世貴族の社会生活について研究を深めつつ、中国史を古代から現代までトータルにとらえる方法の問題にも挑戦している。

近況
 『失地農民調査』(王国林著)の邦訳を、『土地を奪われゆく農民たち──中国農村における官民の闘い』と題して、昨年1月刊行しました。一般の日本人の中国認識に資すると共に、中国史近現代研究の資料としても役立つものと自恃しています。河合文化教育研究所発行。また昨年12月農民の闘いを具体的に紹介した「中国現代農民維権活動覚書」(文教研発行『研究論集』第8集)を発表。
谷川道雄
中川 久定(なかがわ ひさやす) フランス文学史・思想史
 
京都大学文学部仏文科卒。
専攻・フランス文学史・思想史。文学博士。京都大学名誉教授。
日本学士院会員。元京都国立博物館館長。前国際高等研究所副所長。元国際18世紀学会副会長。国際18世紀研究センター学術委員(フランス、フェルネ=ヴォルテール)。研究誌『ディドロ・百科全書研究』(フランス)査読委員会委員、研究誌『ディドロ研究』(カナダ)評議会委員。
18世紀フランス文学・思想の精緻な実証・比較分析で著名。国際的な18世紀フランス文学史・思想史研究者。1976年辰野賞(日本フランス語フランス文学会)、1986年パルム・アカデミック勲章オフィシエ級(フランス)、1993年京都新聞文化賞、2001年勲2等瑞宝章、2004年レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ級(フランス)、2007年京都府文化賞特別功労賞受賞。
著書:『ディドロのセネカ論』『自伝の文学』『甦るルソー』『啓蒙の世紀の光のもとで』『転倒の島』『Des Lumieres et du comparatisme』、『Introduction a la culture japonaise:Essais d'anthropologiereciproque』(フランス語原著に基づくスペイン語訳、イタリア語訳、ポルトガル語訳あり)、『L'image de l'autre vue d'Asie et d'Europe』(ed.par H.Nakagawa et J.Schlobach)、『Memoires d'un 《moralistepassable》』。S・カルプ編中川久定/増田真監訳『十八世紀研究者の仕事 知的自伝』。河合文化教育研究所からも『ディドロの〈現代性〉』(河合ブックレット)、J・シュローバハ氏との共同編著で18世紀国際シンポジウム論集の日本語訳『18世紀における他者のイメージ』を刊行。

近況
 フランス文学専攻の学生だった私は、「ラルス・クラシク叢書」に収められたテクストを教科書として、伊吹武彦先生から、先生独自の、あの正確無比なフランス語力に根ざした、原作の読みとり方を学んでいた。のちに私が教えるようになってからは、趣を一新した「新ラルス・クラシク叢書」の作品と、以前よりさらに充実した解説とを使っていた。だがこの叢書は、さらにもう一度すべてを刷新し、「小ラルス・クラシク叢書」としていま私たちの目の前にある。広範な(いずれの一冊も、原著に匹敵する分量に及ぶ)解説を伴い、それが示しているのは、原文の分析と総合のあり方であり、構造的テクスト分析と歴史的脈絡への指示である。その数冊を読み終えたあと、日本の現状とくらべて、私はただ言葉を失っている。
中川久定
長野 敬(ながの けい) 生物学
 
東京大学理学部植物学科卒。
専攻・生物学。医学博士。自治医科大学名誉教授。
細胞膜のイオン輸送酵素の遺伝子構造を決定し世界の遺伝子研究に先鞭をつける。細胞から生態系まで生物学をシステム的観点から統一的に見る独自の方法論をとる。現在は、この方法論の延長上で「生命研究を社会や教育の中で多面的に正しく理解させる」ことをテーマに研究中。
著書:『変容する生物学』『進化論のらせん階段』『生体の調節』『生命の起源論争』他多数。
人類の活動に、生物学からの基本的な視点がますます大事になっている。ただ、人間生命が全面的に他の生物(結局は光合成)のお世話になっていることは大昔からわかっていた。「ますます」大事なのは、別の視点というべきものだ。「温暖化」を例に取ろう。CO2の増加が地球温暖化の原因という説に対して、科学的に証明されていないと頑張る主張がある。しかし進化的な太古の地下の貯金だった化石燃料の大量取り崩しが目立っていることは、誰にもわかる事実だ。「科学的」証明の有無は枝葉末節、というと誤解を招くが、別レベルのことというふうに、多義な問題を進化・生態学・生物学から整理できるだろう。基本的とはそういう意味である。

近況
 人間も当然、進化の産物だが、石器時代以降には生物として不変で、変化はもっぱら、人間自身による生存スタイルや環境の改変、また道具の発明にはじまる文明化に応じて生じてきたとされた。ところがG.Cochran and H.Harpending: The10,000 year explosion(2010)では、狩猟・収集から農耕生活への切り替え以後の一万年間、生活条件そのものが選択の「ふるい」となり、遺伝子レベルで変化が進んでいると力説されている。意表を衝く発想でもあり、歴史理解における遺伝子観と、ジャレット・ダイアモンドのような環境与件主義のつきあわせを、人間理解での当面の課題としたい。
長野 敬
丹羽健夫(にわ たけお) 教育学
 
名古屋大学経済学部卒。
名古屋外国語大学客員教授。1967年より河合塾勤務。以来一貫してカリキュラム作成、生徒指導、教員確保、生徒募集に従事、進学教育本部長、理事として河合塾のみならず、日本の予備校教育の責任を担ってきた。
現在は中等・高等教育問題等の出稿、高等学校・大学での講演等をこなし、教育の現場から制度まで教育全般について幅広くメッセージの発信を続ける。最近手がけている研究としては「寺子屋の授業料」「寺子屋・フィンランドの教育・そして日本の教育」がある。
著書:『予備校が教育を救う』『悪問だらけの大学入試』『眠られぬ受験生のために』『親と子の大学入試』(共著)『星の王子・王女たちの留学物語』(監修)。

近況
 江戸後期の寺子屋の束修・謝儀(入学時の挨拶料・授業料)を追っています。
 お金で御礼をすることが多い地域(金納地域)と、農作物や物品(豆腐、油揚げ、魚、酒、煙草など)で御礼をする地域(物納地域)とに大きく分かれます。このことは貨幣経済・商品経済の浸透度の差を如実に表しています。貨幣経済・商品経済の浸透していない物納地帯では、金納地帯よりはるかに師匠(先生)と寺子(生徒)及びその父母との情誼が濃厚です。物納地帯では手に入った「珍しきもの」はいちはやく師匠にとどけます。この「珍しきもの」は暗示的で現代の我々について考えさせます。
丹羽 健夫
渡辺京二(わたなべ きょうじ) 日本近代思想史
 
法政大学社会学部卒。
日本近代思想史家。思想家。評論家。
あり得べきもう一つの日本近代を背景にした独自の視角からの鋭い日本近代論、近代思想家論で著名。一貫して在野の研究者として生きる。研究のかたわら書評誌編集者、河合塾国語講師などをも務めた。幕末明治期の数多くの海外文献を精査して著した『逝きし世の面影』が、近代以前の日本のイメージを一新させたということで多大な衝撃を世に与えたのは記憶に新しい。現在、新著とともに『神風連とその時代』、『なぜいま人類史か』など多くの旧著が続々復刊されている。世界システム論の視野の中で日本の「アーリーモダン」の意味を新たに捉えなおすことと同時に世界史上の近代総体そのものをも吟味しなおすことが計られている。1999年度第12回和辻哲郎文化賞受賞。2010年『黒船前夜』が大佛次郎賞受賞。
著書:『江戸という幻景』、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞受賞)、『北一輝』(毎日出版文化賞受賞)、『渡辺京二評論集成』、『評伝宮崎滔天』ほか多数。

近況
 80歳になってしまった。足は衰え眼はかすむ。アタマの方もかなりイカレているらしく、ごく親しい人間の、さすがに苗字は忘れないが、名の方が出てこないことがある。仕事ができるのもあとしばらくだと誰かさんが教えてくれているのだ。ただ、本を読んだり文章書いたりするのは、いまのところ不自由を覚えない。あと二冊ばかり長い本を書きたい。何とか滑りこみセーフになってほしいものだ。そのためには、世間的なデューティはなるだけサボタージュしたい。ひどい野郎だと世評が立つのも仕方がないと覚悟している。そう覚悟すれば、あとは怖いものはない。
渡辺 京二
主任研究員就任後間もなく他界された廣松渉先生の業績を記念して、『廣松渉著作集』(岩波書店刊)への助成と「廣松渉著作集刊行記念シンポジウム」(96年6月21日岩波書店主催)への協賛が本研究所よりなされた。
2001年8月、主任研究員の倉田令二朗先生(数学基礎論)が逝去された。先生のおおらかな人柄と多方面に及ぶ業績を偲んで、かつての友人・教え子・文教研関係者など多くの人々の寄稿によって追悼文集『破天荒の人 倉田令二朗』が2003年12月に刊行された(倉田令二朗追悼文集刊行会・発行)。また、2006年1月には著作選『万人の学問をめざして−倉田令二朗の人と思想』(倉田令二朗著作選刊行会編・制作・亀書房03−3987−0248)が日本評論社から発行された。
客員研究員として、竹内外史先生(数学基礎論)をお迎えしている。
柳澤英二郎先生(国際政治学)は2005年3月に客員研究員を退任された。
2007年7月、かつて1987年から1992年まで主任研究員であった小田実氏が逝去された。河合ブックレット『小田実英語50歩100歩』、単行本『異者としての文学』、『崇高について』(共著)などの氏の著作が、本研究所から発行されている。
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